第17話、特破隊の装備
連合艦隊司令部は、予定時間を延長して九頭島の魔技研、特破隊施設の視察を行った。
無人艦艇について実際に見て周り、ついで宇垣 纏連合艦隊参謀長の希望もあって、戦艦『土佐』に乗艦した。
が、ここでまたも驚かされることになる。魔法技術と能力者という存在。
存在も怪しいが異世界の技術と合わせて組み上げられた正確な射撃――そう、『土佐』は山本五十六連合艦隊司令長官と参謀たちの前で、砲撃を実演してみせたのだ。
つまり、命中率95パーセントという驚異の命中精度を披露したのであった。
これには普段表情に乏しいと言われる宇垣には珍しく、大変興奮していた。
「素晴らしい! これは第一艦隊に加えたい!」
これには山本長官も苦笑していた。空母が海軍の主力となりつつある今、いくら命中率が高いとはいえ戦艦が役に立つのか。
しかし宇垣には、こと砲撃が活用される場において、『土佐』の射撃精度の高さは作戦に組み込むに値すると考えた。
仮に米戦艦と撃ち合うことになった場合、数の劣勢を覆す切り札となるに違いない。
が、ここで神明 龍造大佐は現実を見せた。『土佐』の射撃精度の高さは、能力者の使う魔法じみた能力の賜物であり、さらにその能力者――正木 初子が女性であると教えた。日本海軍において女性兵は基本おらず、特破隊は能力者に限り、特例で採用しているとも。またこれらの能力も専用の装備とセットでなけれは効果を発揮しない。
「いずれは、他の艦の砲撃にも有効活用できるシステムの構築をしたいと考えています。そのためにも、今、内地で待機しているだけの第一艦隊に引き抜かれては、連合艦隊の戦力増強を遅らせる原因にもなりかねません」
「いずれ他の戦艦も、同様の射撃精度を獲得できるようになるのか?」
「そのための特破隊です」
神明がきっぱりと告げれば、宇垣も納得した。
一方、『土佐』に乗った連合艦隊司令部参謀たちは、艦内の人の少なさ、そして案山子の兵隊のようなものが闊歩する姿に驚いていた。
「ゴーレムという人形です。元はユダヤの伝承にある自律型の泥人形に端を発しているのですが、それの現代版というところです」
神明は説明した。これもまた魔法技術に類するもので、昨今では人間サイズの軽装ゴーレムの他、無人艦や無人航空機の制御システムにその技術が応用されている。
黒島 亀人先任参謀は、ゴーレムをしげしげと観察し尋ねた。
「これは、その無人装置として使えるのか?」
「航空機や近代軍艦など及びもつかないほどの古い技術ですから、そこから積み上げてきた分、信頼性はあります。そこらの機械などより、よほど故障しにくいですよ」
「人間がいらなくなるか?」
「そうならないうちに戦争が終わることを祈るだけです」
神明は言うのであった。
戦艦『土佐』のあとは、特破隊の巡洋艦や駆逐艦、潜水艦を乗ることなく、内火艇に乗って観察。潜水艦がほぼ無人化が進んでいるという点と、駆逐艦の主砲が連装高角砲二基、高角単装砲一門に統一されていることに、彼らは注目した。
「現在の主力駆逐艦より、防空能力は高いか?」
山本が確認すれば、神明は首肯した。
「主砲は高角砲ですから、現在の艦隊型駆逐艦よりも、より遠方から対空射撃が可能です。旋回俯仰の電動機も高性能なものを載せてありますので、より航空機への追従能力も向上してあります」
さらに対空用の新型砲弾も配備していると告げれば、山本は悪戯っ子のような顔になった。
「これを何隻か機動部隊の護衛に融通できないか?」
「例によって自動化が進んでいる仕様ですが、現状のローテーション外で10隻ほど余剰があったかと。軍令部に話を通しておきましょうか?」
「頼む。南雲君の第一航空艦隊の護衛は一水戦(第一水雷戦隊)がついているが、あれは水雷戦隊で防空護衛部隊ではないからね」
艦艇の次は、陸に戻る。九頭島飛行場に戻る道すがら、土煙の集団を目撃する。
「あれは陸軍かね?」
戦車の姿を目で捉えて、山本は指さした。
「はい、陸軍の魔法研究所――魔研との共同開発なので、正確には海軍の陸戦隊ではある一方で、少し違うとも言えますが」
「一応は、九頭島陸戦隊か。……しかしあの戦車は、ずいぶんと立派だな」
あまり戦車に詳しくはない山本だが、陸軍の戦車などより大きく強く見えた。
「主砲に8センチ砲を載せた中戦車ですから。実のところ、対歩兵についてはあまり、なのですが、対戦車相手にはそれなりに強いですよ」
少なくとも現状の米英戦車ならば、たやすく撃破可能である。もっとも、陸戦のことをあまり知らない参謀たちは、ほとんど聞き流していたが。
戦車と共に歩兵装備の軽装ゴーレムと、鉄板のような大盾を持った大型ゴーレムが通過していったが、やはり興味深そうではあったものの、特に説明を求められなかった。
そして飛行場に到着する。現在、特破隊が用いている航空機が並べられている。
「右から、九八式艦偵、零式双発攻撃機、一式特殊輸送機、零式哨戒機となります」
「戦力表では、空母には九八式艦偵が積まれていましたが――」
佐々木 彰航空参謀が複雑な表情を浮かべた。
「通商破壊部隊では、小型空母でも偵察機を多数運用して敵を捜索するというのはわからなくもないですが、攻撃も偵察機にさせているのですか?」
「九八式の正式名称は、九八式艦上偵察戦闘攻撃機という」
神明は言った。
「これ一機で偵察、対航空機、基地、艦艇攻撃を担う」
「え……つまりこれは」
偵察機であると同時に、戦闘機であり、攻撃機であるということだ。
「そんなマルチに使える機だったのですか?」
佐々木は目を剥き、宇垣と黒島は、また重要度の高い話を特破隊は黙っていたなという顔になった。
「戦闘機といっても、海軍の主流派搭乗員からは失格扱いされていますし、急降下爆撃はできませんがね」
神明にとっては、グルグル回る巴戦が戦闘機の全てと思っていないし、急降下爆撃は増強される対空砲火の前ではリスクが大きいと関心がなかった。結局、兵器は武器を載せるプラットフォームに過ぎない。有効かどうかは、使う武器次第である。
「うちの戦い方には、これが最適解ですよ」
誘導弾、そして機銃枠の装備である光弾砲。異世界兵器と魔法技術の混成は、航空機のみならず艦艇、戦車にも応用されているのだ。




