第16話、空母と無人構想
「これは革新的なことですよ!」
佐々木 彰航空参謀が頭を抱えた。哨戒空母『飛鶴』が運用してみせた四発陸上機に、衝撃が収まらない。
「艦上機と陸上機、そのくくりが崩壊してしまう……! ああ、なんてことだ! こんなことがあっていいのか!」
「お、おい、佐々木」
航空参謀の言動に、周りの参謀たちはざわめく。黒島 亀人先任参謀が自身の顎に手を当てて、哨戒空母を見やる。
「つまり、飛行場の滑走路と繋げることで、たとえば内地の航空隊が、機動部隊の航空隊として使えるということだ」
黒島は九頭島飛行場へ視線を投げた。
「たとえばここに百、いや二百の航空機を運用できる飛行場だったとすれば、あの『飛鶴』を機動部隊に随伴させるだけで、その数丸々機動部隊の航空機にプラスされる! もしそれが真珠湾攻撃の時にあったなら……!」
南雲機動部隊の航空機は1・5倍の航空機を運用できて、真珠湾攻撃をより徹底したものにできたかもしれない。
「それだけじゃありません」
佐々木は天を仰いだ。
「空母搭乗員は、高い技量がないとつとまらない。空母という狭い飛行甲板に着艦しなくてはならないからです。これは制御された墜落なんて言われるほど難しく、空母搭乗員に高い技量を求めるわけですが、もし着艦フックにワイヤーを引っかけて止める必要がないなら、搭乗員にそこまで高い能力は必要なくなります。何なら基地空のベテランならすぐに使えるでしょう。不足気味の空母搭乗員の数も、現状でも倍増できるかもしれない!」
「とんでもない可能性を秘めたフネだなぁ」
山本は、『飛鶴』とその洋上を周回する零式哨戒機を眺めた。黒島は神明を睨んだ。
「これほどのものがありながら、何故、連合艦隊に黙っていたのだ?」
「伝わっていなかったですか?」
神明はすっとぼける。
「軍令部がそう判断したのかもしれません」
特破隊や魔技研は軍令部直轄であり、連合艦隊に指揮権はない。海上護衛隊と同様、兵員は出しても縦割りは別なのである。
「もしそうであれば、実績を作ってから連合艦隊に伝えるつもりだったかもしれません。いきなり報告書で、転移装置を使う空母の資料を渡されて、それを真に受けましたか?」
神明は静かに見つめ返した。つい今しがた、転移板を使って四発機が飛行場から空母へ瞬間移動して発艦する様を目撃したので、ある程度理解できても、それがなければ文章だけを見て、『何を言ってるんだ?』と思うのが関の山である。
「実際、我々特破隊は、新装備の実戦における試験部隊でもありますから、充分に使えると判断されれば、連合艦隊にも提供されると考えます。むしろ、そうでなくては我々も困るのですが」
「確かにな」
山本は皮肉げに口元を緩めた。
「実際に見てみないことには、まともに受け取らなかっただろうね。軍隊というのは、実績を評価する。たとえ不可思議なものであっても、成果が出れば無視もできまい」
特破隊は、アメリカ本土近くで、米戦艦3隻を沈め、フィリピンやオーストラリアに向かう敵船団攻撃に、着実な戦果を上げている。魔法が何だか知らないが、突拍子がないように見える机上の空論的なものでさえ、今は検討の余地が出てきた。
山本は朗らかに告げた。
「特破と魔技研、俄然、興味がわいてきたよ。色々と見せてもらおうじゃないか」
・ ・ ・
基地に移動した連合艦隊司令部一行は、神明から戦力表と簡易な資料を配られた。
戦力表を見た三輪 義勇作戦参謀は隣の佐々木 彰航空参謀に言った。
「空母が10隻もある」
「これだけあれば、連合艦隊の空母は倍増ですね」
現在の連合艦隊の空母は、『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』『翔鶴』『瑞鶴』に、『鳳翔』『龍驤』『瑞鳳』『祥鳳』、さらに特設艦の『春日丸』がある。
「10隻と言っても、4隻は『春日丸』と同等の低速小型空母ですよ」
神明は言った。機動部隊で運用しようとするには、足の差で支障が出る。
宇垣が、戦力表の補足欄を見る。そこには元の船の名前が記されていた。
「神明大佐。この『グローリアス』と『カレイジャス』というのは、イギリスの空母だったそれで間違いないか?」
「はい。大西洋で沈んでいたのを回収したものです」
連合艦隊の主力機動部隊に随伴できる空母のうちの2隻、『黒竜』と『雷竜』。大きさの割に搭載機が少ないが、これは英海軍の仕様ゆえ仕方がない。
今度は山本が口を開いた。
「この『翠鷹』と『蒼鷹』という改装空母は、速度30ノットが出て大きさも『飛龍』『蒼龍』よりやや大きいな」
これなら機動部隊に使えるのではないか、とその顔が言っている。神明は頷いた。
「艦載機があるなら、連合艦隊に持っていっても構いません。一応、無人艦としての運用試験中ですから、その辺りを少々見てもらう必要がありますが」
「無人艦?」
聞き慣れない単語に山本はキョトンとする。神明は説明した。
「戦争は始まったばかりですが、今後、人手不足が予想されます。もちろん、短期に戦争が終わるならそれに越したことはありませんが……」
山本は、対米戦は短期決戦のつもりでやっている。長期戦になれば、アメリカの工業力が凄まじいまでの兵器を吐き出す。そうなれば連合艦隊の戦力を凌駕し、やがてはジリ貧となるだろう。
「長期戦になった場合に備えて、船1隻辺りの人員数を減らして運用できるように作っています。不足する人員については、ゴーレム技術を併用していますが、実戦で使えるかどうかは、今、特破隊が通商破壊任務をこなしつつ試しているところです」
舌の先はざらついた。日本海軍の多くの軍人が、従来の対米戦で物を見ている。だが神明はこの戦争は長期戦になると考えている。
前世の異世界との戦争で見せたアメリカの粘り強さを知っている。たとえ連合艦隊が艦隊決戦で勝利したところで、アメリカは降伏しない。
「航空機についても、無人機の運用を行っています。それが使い物になれば、話も変わってくるでしょう」
「無人航空機……要するにラジコンか」
黒島が眉をひそめた。正直疑わしいという顔だ。
「使い物になれば、と言ったが……使い物になりそうか?」
「基礎はできていますが、あとは実戦で確かめるしかありません」
そのための特破隊である。




