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復活の艦隊 太平洋戦記  作者: 柊遊馬


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第15話、哨戒空母の秘密


 艦載機なし。日本海軍の空母の中でも最大の巨体を誇る改装空母『飛鶴』。それを見れば、誰しも多数の艦載機を搭載、運用できると考える。

 しかし神明 龍造大佐の答えは、山本 五十六連合艦隊司令長官以下、司令部参謀たちをひどく困惑させたのだった。


「飛行隊がない、ということですか?」


 佐々木 彰航空参謀が言えば、そういうことか、と周りの空気が和らいだ。

 そうとも、艦載機がないというのは、載せる航空隊がいないからに違いない。自分たちは勘違いしていたのだ――そう現実逃避したが、神明は無情だった。


「いや、飛行隊自体はある。だがあれに積んでどうこうするものではない。だから搭載数は基本ゼロだ」

「それではあれは、空母の形をした張りぼてか?」


 宇垣 纏参謀長は淡々と言った。


「いや、張りぼてではないな。空母の形をした囮艦か」

「囮……」


 山本は微妙な表情を浮かべた。あれだけの大きさの船を囮専門に使うのは実に惜しいと思うのだ。


「そういう用途に使えなくはありませんが、前線に出す空母ではありません」


 神明は答えた。


「格納庫も航空機用の燃料、弾薬庫もありません。それで高さが減じた分、飛行甲板の装甲は100ミリは超えています。現状、急降下爆撃で甲板を破壊するのは至難の業でしょう」

「100ミリ!」


 渡辺 安次戦務参謀がびっくりして見せた。現在、建造中の新鋭空母――のちの『大鳳』には装甲飛行甲板が盛り込まれているが、それよりもさらに厚いというのだ。それがすでに存在していることは驚きであった。

 宇垣は言った。


「それだけ厚い装甲を張るために、格納庫を潰して背を低くしたと」


 重量物は、船にとっては低い位置にあるのが望ましい。重心が高いとトップヘビーとなって、船の航行に支障がでる。とくに横からの波や旋回時にバランスが崩れやすくなり、最悪転覆の恐れがある。だから空母の飛行甲板を装甲化するにしても、際限なくできるものではない。


 格納庫分の高さをなくし、船の甲板の高さまで下げれば、多少装甲を厚くしてもバランスはとりやすくなるわけだ。

 しかし、それは果たして空母と言えるのか。格納庫も弾薬庫もないのでは、航空機を飛行甲板に並べるくらいしか使えないのではないか。航空機輸送艦……にするにしても格納庫はあってもいい気はする。

 神明は連合艦隊司令部の面々を見た。


「これから説明しますが、その前に一つ言います。その説明の中で皆さんが信じられない話がいくつも出てきます。ただそれについていちいち質問されると話がまったく進まないので、ここでは『そういうものだ』と受け入れていただき、後で疑問に対する詳細を資料でお渡しする形にさせていただきたい」


 うん?と参謀たちは何を言ってるんだ、という顔をする。山本は俄然興味が湧いたようだった。


「そんなに奇想天外な代物かね?」

「魔法と言われて信じられますか、という話です」


 神明は真顔で告げた。案の定、眉間にしわが寄る参謀たちを尻目に、神明は続けた。


「その辺りは、とりあえずここでは流して聞いてください。本当に話が進まないので」

「うむ、我々も時間は惜しいからね」


 山本は頷いた。連合艦隊司令長官、そしてその参謀たちも日々予定が詰まっているのだ。


「では、説明に戻ります。あの哨戒空母が使用する航空機は、艦上機ではありません。基地航空隊、つまり、陸上機を運用する空母なのです」

「!」


 予想通り、参謀たちが愕然とした。空母で使う航空機だから艦上機。陸上機を空母というのがどうにもピンとこない。


「基地とセット運用することを前提とした空母です。現在は、この九頭島の飛行場の航空機をあの哨戒空母から前線に飛ばしています。南洋艦隊のウェーク島攻略時、航空支援を行ったのがあの『飛鶴』ですが、その航空機はここの飛行場から飛び立ったものとなります」

「ちょっ、ちょっと待ってください」


 佐々木航空参謀が首を横に振った。


「この島からウェーク島は、航空機で行ける範囲ではありませんが……」


 内地から届く距離ではない。佐々木に改めて言われるまでもない事実である。


「転移技術だ。……まあ、実演してみせよう。それが早い」


 神明は無線機を使うと、九頭島飛行場の管制塔に連絡を入れ、その一角に待機していた四発機を動かした。


「あれも気になっていたんですよ」


 佐々木は、動き始めた四発機を指さした。神明は答える。


「零式哨戒機だ。長距離索敵を行う偵察機と言ったところか。マ式電探ほか索敵機器を積んでいる。特破にとっては広い太平洋の敵を見つけるのに重宝している」


 連合艦隊司令部ですら知らない航空機の存在に、参謀たちは顔を見合わせる。その反応に冷ややかな目を向ける神明。知らないのではない、彼らは魔技研を軽い見て、せっかくの報告も右から左へ流しているだけなのである。


「ではこれから起こることを簡単に説明します。零式哨戒機が滑走路から飛び立つ寸前、転移で『飛鶴』の飛行甲板に瞬間移動します」

「!?」

「そしてそこから零式哨戒機が、あの空母から発艦するという仕組みです」

「ほう……」


 山本は目を細める。


「あれが消えて、あっちに現れるのか?」

「はい。要するに、滑走距離の問題なんです」


 空母の飛行甲板のスペースは限られる。だからその限られた滑走距離で、航空機が飛べることが艦上機の条件となる。だがら通常、陸上機は空母では使えない。しかし滑走距離が足りないなら、陸上基地の滑走路で補えばいい。そこで活用されるのが滑走路と飛行甲板に設置された転移板である。


 神明の予告通り、滑走を始めた零式哨戒機が、飛び立つと思われた寸前、消滅した。目を見開く参謀たち。山本と宇垣は視線を、洋上の空母に向ければ、いままさに飛行甲板を蹴って、本来飛べるはずのない四発機が飛び上がったのである。


「おー」


 山本は素直に感嘆すれば、宇垣は口を開いた。


「転移とやらを使うなら、停止している空母からでも発艦できるのか……」


 空母から航空機が飛び立つ時は、航行時だ。その時の風、合成風力も必要だからだ。だから港やその付近で停船している状態では発艦、着陸は不可能であるが――


「お察しの通り、発艦のみならず停船状態でも着艦は可能です」


 神明は言った。


「ワイヤーやフックは必要ありません。飛行甲板上の転移板にさえ乗れば、陸上の滑走路に転移しますから、そっちで着陸すればいい。そういうことです」

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