第141話、望楼作戦の準備
1942年、7月になった。アメリカの統合参謀本部は、太平洋方面における基本方針を決めていた。
1に米本土、米国の領土の沿岸水域の確保。2にオーストラリアとそれに付属する地域ならびに、米西海岸、パナマ間の海上交通ルートの確保。3、日本軍占領地における日本軍の活動の封鎖。潜水艦による通商破壊、空母機動部隊による襲撃で、日本軍を消耗、戦力減衰を図る。
そして、インドにビルマ、中国の防衛に対する支援、補助が主になる。これが決まったのは3月の話である。
このうちの2、米豪連絡線の確保として、オーストラリアに陸軍3個師団をサモアおよび、フィジー、ニューカレドニアに送り、拠点化。トンガ諸島のトンガタプ、ニューヘブリディーズ諸島エファテにも、日本軍への反攻拠点を構築した。
が、これらは日本海軍――特破隊によって、進捗に遅れが生じていた。特に陸軍3個師団は、その全てが空母機動部隊によって撃滅され、同方面に送り込めたのは1月にボラボラに送り込めた海兵隊ほか、海兵隊防空大隊やシービーズ、陸軍の少数の部隊と、当初の予定よりも弱体であった。
またサモアの徹底的な空爆や、ニューカレドニアへの空襲で、拠点化の遅れも目についた。
しかし、6月25日、アーネスト・キング海軍作戦部長、チェスター・ニミッツ太平洋艦隊司令長官、ロバート・ゴームレー南太平洋部隊司令長官らは、次なる作戦の準備を開始した。
すなわち、海兵隊を用いてサンタクルーズ諸島、ならびに日本軍に占領されているツラギとその周辺の占領である。
日本軍の主力は、ミッドウェー島を占領後、本土に戻り、再編成と休養を行っている。これはアメリカの空母を叩き、反撃してこないとみての行動であろう。
だが、日本軍に対して攻撃的防御を主張して譲らないキングは、この隙間を積極的反撃に用いるよう動いた。
当時、陸軍のマーシャル陸軍参謀総長と統合参謀本部内で指揮権争いをしていたこともあり、じっとしているわけにはいかなかったということもある。それは太平洋における海軍のニミッツと、陸軍のダグラス・マッカーサー陸軍大将にも言えた。
ウォッチタワー作戦――望楼作戦ともされるそれを実施するための作戦計画の策定、海兵隊――第一海兵師団の準備などが進められた。
そして7月2日、ウォッチタワー作戦は第三段作戦まで大枠が定まった。その第一段作戦は、フィジーでの予行演習後、ツラギ泊地の奪取、そしてヌデニ島、サンタクルーズ諸島の占領である。
これらが上手くいった場合、第二段は、ソロモン諸島の残りを占領、ラエ、サラモア、ニューギニア島北西部拠点の攻略。
そして第三段で、ラバウルのあるニューブリテン島、ニューアイルランド島の要地を攻略する。
これらは第一段が海軍のニミッツ大将が担当し、細部は決まっていない――何せ第一段が成功しなくては、やりようがない――第二、第三段はマッカーサー大将が統合指揮官として指揮をとるとされた。
「うん? ガダルカナル?」
ニミッツは、報告に現れた通信参謀に聞き返した。
「はい、長官。ツラギのすぐ南にある島なのですが、そこに日本軍が飛行場を作っていると偵察機が報告してきました」
「飛行場……」
ニミッツは考える。日本軍はアメリカとオーストラリアの分断を狙おうとこれまでも攻撃を仕掛けてきた。ここにきてより前に飛行場を作るということは、本格的に連絡線の寸断、すなわち、ニューカレドニアやフィジー侵攻を計画しているのかもしれない。連合艦隊が本土で補給、休養なのも、そのための準備の可能性も高い。
「ガダルカナル……本当にツラギのすぐそこだな」
「ウォッチタワー作戦発動時に、確実に邪魔になりますな」
参謀が言えば、ニミッツは頷いた。
「無視はできないな。場所的に」
あまりに近くてビックリだ。もしこの飛行場が完成すれば、ツラギ攻略の邪魔になるどころか、侵攻に手間取ることになるのは間違いない。
「しかし、これを完成前に奪うことができれば……手間は省けるな」
「確かに」
参謀らは首肯した。一から飛行場を作らなくても済む。最低限の機材や燃料、物資を持ち込めば、すぐに利用できる。
「ウォッチタワー作戦に少し変更を加えよう。ツラギ攻略と同時に、日本軍の飛行場も占領するのだ」
それ自体に反対はでなかった。先にニミッツが言った通り、作戦の遂行上、無視できない拠点だったからだ。
「作戦予定は8月1日……いや若干遅れてもいい。彼らが飛行場を完成させる前に占領できれば」
ニミッツは地図を見つめ、ガダルカナル島からニューヘブリディーズ諸島へ指をスライドさせた。
「ゴームレーに、飛行場を作らせよう。エファテからは少し遠い。そうだな、この辺りの島に飛行場があれば、ガダルカナル島への攻撃や占領後の支援に使えるはずだ」
「ええーと、エスピリトゥサント島でしょうか」
参謀の一人が詳細な地図を引っ張り出して言った。ニューヘブリディーズ諸島最大の島、それがエスピリトゥサント島である。ガダルカナル島から、およそ800キロの位置にある。
「エファテに第一建設大隊がある。そこから分遣隊を送り、飛行場を作らせろ」
ニミッツは真顔で告げた。
「二十日だ。二十日で作らせろ。ウォッチタワーに間に合わせるんだ」
太平洋艦隊司令部から南太平洋部隊司令部に命令が飛ぶ。それを受けてゴームレー中将は、エファテ島にいる建設大隊の分遣隊、第4海兵防衛大隊、陸軍第24歩兵連隊からそれぞれ1個中隊をエスピリトゥサント島へ移動させた。
日本軍のガダルカナル島飛行場よりも早く建造するということで、これら歩兵たちも積極的に協力し、24時間体制で飛行場設営を進めた。
しかし、この動きは、FS作戦を準備し、エファテ島への奇襲を計画していた特破隊の隠密偵察機によって察知されるのであった。




