第142話、ポッと湧いた飛行場
九頭島司令部で、FS作戦の前段階――ニューヘブリディーズ諸島エファテ攻略作戦、E作戦を検討していた神明 龍造大佐のもとに、前線からエスピリトゥサント島に米軍が飛行場を建設しているという知らせが届いた。
「なるほど。これはガダルカナルの飛行場建設が米軍にバレたな」
「そうなのですか?」
第一戦闘群、先任参謀である諏訪 将治少佐は首をかしげた。
「ラバウル方面から我が軍が南下したら……ああ、そういうことですか」
「ツラギを攻撃するための飛行場というのも大げさではあるからな」
しかしそのすぐ南に飛行場を建設されているとあれば、米軍も対抗措置をとるわけだ。
日本軍は米豪連絡線の遮断を本格化させるに辺り、南太平洋方面最大の基地であるラバウルより、さらに南に飛行場を作った。
それがガダルカナル島の飛行場であり、7月に海軍は第11設営隊、第13設営隊と若干の陸戦隊を同島に送り込んだ。この飛行場にはFS作戦の支援、後方拠点としても活用しようという目論見もある。
「しかし、エファテを攻略しようという時に、新たな飛行場とは、アメさんも面倒を増やしてくれますな」
諏訪は小さく肩をすくめた。
「いや、この場合、エファテ攻撃前に発覚して幸いだった、と見るべきでしょうか」
「陸上戦力を送らなければならない、という点においては、困ったことになった」
エファテに奇襲上陸させる部隊の他に、エスピリトゥサント島に上陸する部隊を新たに手配する? 日程を考えて、いまさら追加戦力を用意して戦闘状態に持って行くのは……。
「いっそエスピリトゥサント島は空爆だけに留め、エファテ攻略後に、折を見て攻略という手もありますが」
第一戦闘群はニューカレドニア攻略支援もしなければならないのだが――神明は眉をひそめた。
「いや、逆だ。エスピリトゥサント島の飛行場を奪取し、エファテ島の方を空爆で無力化する」
「その意図は?」
すかさず諏訪は尋ねた。神明は真顔で返した。
「どちらが占領しやすいかを考えたら、建造中のエスピリトゥサント島だ」
簡単な話である。すでに数カ月前から島に進出して拠点化が進んでいる場所と、つい先日上陸したばかりで、防備も含め様々なものが不足している場所。さらに人数にも差があるとすれば、少ない場所のほうが制圧までの時間はかからない。……と、よほど攻めにくい場所でなければ、基本はそうなる。
「夜間、特殊部隊で上陸。ポータルで増援を呼び込み、一気に飛行場を制圧。その後、航空隊を電撃的に進出させ、奪取した飛行場から艦隊と共同でエファテ島を爆撃。その後のニューカレドニア攻略でも、空母航空隊の支援ができるかもしれない」
何せ、現状のニューカレドニア攻略作戦では、特破第一戦闘群が担当するが、参加予定の空母が、豪華客船『クイーン・エリザベス』改装の哨戒装甲空母『紅鶴』のほかは、開戦から参加している古参空母4隻――艦載機30機程度の小兵ばかりだからだ。
通商破壊任務においては、艦載機数は問題になることは少ないが、基地支援となるとローテーションも含めると、ある程度数が欲しい。
神明としては、第二群や大西洋に通商破壊を行うべく進出する部隊を引き抜きたくなかった。8月以降になれば、新たな無人空母が何隻か実戦投入可能になるが、7月中には間に合わない。
一応、強襲揚陸艦2隻を加え、その航空機運用能力で地上支援を行わせる予定ではあるが、エファテへの攻撃が、ニューカレドニア攻略の前座であることを考えれば、あまり時間をかけらないというのは本当のところである。
引き続き、エファテ島とエスピリトゥサント島の隠密偵察を行いつつ、より正確な戦力や状況についての情報収集を命じる。
しかしそれはそれとして、軍令部にFS作戦直前のE作戦に変更すべき事態が発生した件について会議に向かう。
軍令部第一部第一課の富岡 定俊軍令部作戦課長は、このところ機嫌がよかった。軍令部が推し進めてきたFS作戦に向けて、準備が進められているのが気分がよいのだ。
連合艦隊がハワイ攻略を主張し、ミッドウェー攻略だなんだ、というのは軍令部はもちろん富岡も反対だった。米豪分断、FS作戦を実施できるとなれば、作戦課の面々がご機嫌なのも頷ける。
「やあ、神明君。進捗はどうだい?」
「……」
富岡の対応のよさは、前々から彼が主張する通商破壊戦を強化し、イギリス屈服を優先すべきという考えを、神明が実行しているからだ。魔技研が再生した通商破壊空母群が大西洋に乗り出して、いよいよイギリスの首もとを締めあげるとなれば、毎日が楽しくてしょうがないのだろう。
「もうすでに聞いていると思うが、エスピリトゥサント島に米軍が新たな飛行場を作っている」
単刀直入に神明は告げた。それで、と富岡は先を促した。
「エファテ攻略は爆撃にて無力化に留め、エスピリトゥサント島の飛行場を奪取、制圧する」
どちらを攻撃するのが楽であるか――すなわち、FS作戦に影響せずに実行できるかを説けば、富岡は理解を示した。
「本当に君という男は、よく気のきく男だよ。わかった、陸軍と第17軍には、僕のほうで作戦延期について伝えよう」
「助かる」
そこまでの面倒を見切れないというのが、神明の正直なところである。富岡は手を振った。
「なに、ニューカレドニア攻略は、軍令部直轄部隊の受け持ちになってしまっているからね。こういう政治的な役回りはこちらがするものだ。……連合艦隊のフィジー攻略の前に実行できるんだろうね?」
「いっそ、ほぼ同日に仕掛けてもいいとさえ思っている」
神明は続けた。当初、ニューカレドニア、フィジー、サモアの攻略スケジュールが恐ろしいほど短い間隔で実施される予定であったが、短いながらも間隔が空いた理由は、海軍が第二艦隊と第一航空艦隊を攻略支援に用いたためだ。
攻める場所は三つあるのに、同じ艦隊で全てを攻略に投じるので、同じ日にちでの同時奇襲は不可能であるわけだ。分身でもすれば話は別だが、そんな能力はない。
しかし、特破隊と連合艦隊がそれぞれ動くのだから、最低二箇所については、同時攻撃が可能である。
「どうせすでに延期しているのだから、当初のスケジュールと同じ手順にこだわる必要はないと考える」
「なるほど、道理だ」
富岡は頷いた。FS作戦についても、そのように進めるよう調整が加えられることになる。




