第138話、第二次マ島海戦の後始末
第二次マダガスカル沖海戦は、日本海軍の勝利に終わった。
英米攻略艦隊は、特破隊の大西洋遠征艦隊とインド洋艦隊の挟撃によって、文字通り1隻も残らなかった。
マダガスカル島上陸を目指して前進を強硬した輸送船団とその護衛のフォースXは、大西洋遠征艦隊の空母10隻の攻撃隊によって壊滅。個別に脱出を目指した艦、船舶も潜水艦の包囲網と、哨戒空母『大鶴』の長距離進出航空隊によって捕捉、掃討された。
フォースWも、航空攻撃で消耗したところをインド洋艦隊――第二戦闘群の夜戦の末、全滅。戦艦『ロドネー』『ネルソン』共に、大破漂流後、自沈。米空母、旧式戦艦もまた大西洋に戻ることはなかった。
「……とまあ、こちらとしては、連中の帰り道にいたからな」
佐々山 久雄少将は、九頭島泊地、艦隊司令部の一室にいた。
「敵の方から寄ってきたから、残らず沈めることができたわけだ」
「ご苦労でした」
神明 龍造大佐は頷いた。談話室でお茶を飲みつつ、今回の第二次マダガスカル沖海戦の報告を受けている。
「戦艦4、空母4、重巡洋艦2、軽巡洋艦7、駆逐艦22。掃海艇、コルベット6、輸送船48……大戦果ですね」
「巡洋艦、駆逐艦はともかく、戦艦はネルソン級以外は、第一次世界大戦時の旧式。それも装備は更新されているが、日本海軍と違って大改装されていないやつ」
ニューヨーク級(テキサス級)戦艦は、金剛型と扶桑型の間のフネであるが、日本海軍が限られた数の中で使おうと近代化改装を施したのに比べ、大改装して性能アップするまでもないと考えられた。こんな古参の初期超弩級戦艦の性能を上げずとも、それ以降の標準型戦艦を改装すれば充分、ということだ。
そもそも軍縮条約時代の米軍は軍事費を抑えていたから、何でもかんでも弄っている余裕などなかった。
「空母にしても、『レンジャー』がようやくマシというレベルだ。後は改装しても、ろくに使えそうにない代物だぞ」
佐々山は言った。『アーガス』や『イーグル』といったイギリス初期の空母は、艦載機搭載数も少なく、設備やレイアウトもまだ未熟だった頃のそれである。
「航空機運搬艦として使いますか」
アーガスは鳳翔と同世代である。発着訓練用に使える母艦として、案外重宝するかもしれない。戦時にあって、訓練空母を建造する余裕などないが、余りものの利用法としては悪くない。
「『イーグル』については、格納庫をいじってやれば、通商破壊空母として利用できるスペックはありますよ」
「必要か?」
佐々山は眉をひそめた。
「今回だって、通商破壊空母に使えそうな輸送船を十隻以上沈めて、確保した」
「商船改造と、一応軍艦だったものの改造ですから、防御力が違いますよ」
「そうはいっても、魚雷対策が今ほどできていない時代のロートルだぞ」
空母『イーグル』――第一次世界大戦時建造、チリ向けの戦艦『アルミランテ・コクラン』を空母に改装したものである。当時、戦艦が魚雷でボコスカ沈んでいたことを考えるとあまり期待はできない。
「魚雷で沈むのは、今も昔も変わりませんよ」
特破隊がこれまで回収してきたイギリス艦の中でも、戦艦『バーラム』、空母『アークロイヤル』など、潜水艦の雷撃で沈められている。
「それで、今回は何隻、輸送船を空母に改装するつもりだ、神明?」
「使用可能なのは、14隻といったところです」
「14隻……」
48隻も輸送船を撃沈したが、その中に10隻以上、空母に流用できる大型船があったのである。さすが海洋国イギリス。
「そんなに空母がいるかね? 今も改装中のものがあるだろう?」
「米軍は、50隻以上の商船ベースの護衛空母を量産しますよ」
しれっと神明は返した。
「数千単位で船を作る国を相手にするんです。いくらあっても困りませんよ」
それを動かす人手は?――という問いは、佐々山からは出なかった。わかっている。そのためにゴーレムやコアによる自動化を魔技研は進めてきたのだ。無人艦隊が、人の不足を解決する。万事において抜かりがない。
「戦力は足りそうなのか? 第一戦闘群は、FS作戦に参加が決まったのだろう?」
佐々山は尋ねた。元々、連合艦隊が実施するだろうFS作戦の後方支援や通商破壊など、第一戦闘群が行うだろうことは想像していた。
だが、実際はその先手であるニューカレドニア攻略を特破隊がするという話になったのだった。そうなったのは、連合艦隊の実行部隊の再編と準備期間の短さでは、FS作戦の実行が難しいと言ってきたのが理由だ。
「そんな時に、オレのところの『肥後』と『愛鷹』がオーバーホールだからな」
開戦以来、活動してきた第二戦闘群である。さらに先日、アデン湾とマダガスカル沖で艦隊戦を連続で切り抜けている。大きな被害こそないが、艦体の整備や装備の交換はしなくてはならない。前線で壊れても困るのである。
神明は机から書類を取ると、言った。
「代艦は『近江』と『駿河』ですね」
昨年12月にアメリカ西海岸沖で、戦艦『土佐』が撃沈した米戦艦『テネシー』『メリーランド』の回収、生まれ変わりが『近江』と『駿河』である。主砲を41センチ連装砲に、そして機関を換装、船体を延長し、速力27ノットを発揮する中速戦艦となっている。
「いいのか? ニューカレドニア攻略に、この戦艦を使いたかったんじゃないか?」
「なんなら、その時だけ助っ人に来てくれてもいいんですよ?」
転移連絡網を使えば、マダガスカル島からでもニューカレドニア島に移動できる。それには佐々山は頷く。
「まあ、マダガスカル島方面はしばらく静かだろうさ。必要ならその時は言ってくれ」
「モンバサに、R級戦艦が1隻いませんでしたか?」
神明は確認した。
「それにダーバンにも修理中の、クイーンエリザベス級があったと記憶していますが」
「どちらも潜水艦の監視をつけている。出てきたら、そこで沈めるさ」
佐々山は答えた。




