第133話、日本軍の猛爆
空母が10隻もあれば、助けを借りずとも敵艦隊を撃滅してもおかしくない――ように見えるが、特破隊大西洋遠征艦隊が勝っているのは空母だけで、戦艦戦力ではむしろ劣勢だった。戦力差は思ったほど大きくない。
で、あるならば、助けを求めることは恥ではない。
「敵が二手に分かれるなら、こちらも二手にわかれよう。……予備隊に敵主力への追い打ちを任せるとして――」
新堂は考えをまとめた。
「第一次攻撃隊は、いまさら目標変更をする余裕がないから、このまま敵主力を爆撃。第二次攻撃隊は輸送船団を叩く」
かくて、大西洋遠征艦隊の第一次攻撃隊は、英米艦隊――フォースWに殺到した。
戦艦、巡洋艦に守られた空母は、『アーガス』と『イーグル』のみで、『フューリアス』『レンジャー』は、米巡洋艦に守られながら先行していた。
しかし、その場にいなくても、戦闘機は発艦させていた。イギリスのシーハリケーン、アメリカのF4Fワイルドキャット、さらにSBDドーントレス艦上爆撃機が、接近する日本軍機を迎撃した。
だが、彼らは、日本機――九八式艦上偵察戦闘攻撃機が、対空用の誘導弾を搭載していることを知らなかった。
ロケットの煙を引きながら高速で飛ぶ誘導弾は、狙った獲物に食らいつく。先制攻撃を許し、ただでさえ数で劣る戦闘機群は半壊した。
装甲空母『雲鶴』から発進したP-40ウォーホーク改が、散らされた生き残りのワイルドキャット、シーハリケーンに突撃する。光弾砲の一撃は、翼の生えたビア樽のようなワイルドキャットを容易く撃ち抜き、攻撃隊を守る。
残敵掃討もかくやの戦闘機群の戦いをよそに、対艦滑空誘導魚雷を抱えた九八式艦偵は、フォースWに迫った。
艦隊上空には、爆弾なしのドーントレスが、日本機を待ち構えていた。本職は精密急降下爆撃だが、その軽快な運動性は、日本の雷撃機などを相手なら戦闘機の真似事はできる。
しかし、空中戦のできるドーントレスに出番はほぼなかった。九八式艦偵は、遠距離から誘導弾を発射したのだ。
7.7ミリ機銃で、敵攻撃機を追い回す展開はなく、ただ滑空誘導魚雷が通過するのを黙って見送ることしかできなかった。
フォースWは対空戦闘を開始したが、彼らの装備で誘導弾の嵐から逃れる術はない。たちまち平甲板の空母『アーガス』が雷撃により大破、爆沈。
古めかしさはあるものの、艦橋が大きく、拡大型ハーミーズのようなスタイルの『イーグル』にも魚雷は殺到した。元戦艦である『イーグル』も、6本以上の誘導魚雷には為す術なく吹き飛び、10分もかからず海面から姿を消した。
攻撃は、空母2隻以外にも及んだ。フューリアス、レンジャーがいなかったことで、手数があまり、結果、護衛の巡洋艦、駆逐艦が標的となった。
タウン級巡洋艦『リバプール』が大破。ダイドー級防空巡洋艦『カリュプデス』は2本の魚雷によって轟沈。駆逐艦『エスケード』『ウィシャート』『ヴィデット』が沈没した。
空母を失ったフォースWは、先行する二空母を追うように西進を続ける。一方で輸送船団と護衛隊――フォースXは、迂回しつつマダガスカル島へと向かっていた。
特破隊大西洋遠征艦隊は、逃げるフォースWはもはや眼中にない。船団とその護衛に対して、10隻の空母から第二次攻撃隊が発進する。
その数135機。1機の空中援護のない船団とその護衛に対して、猛禽の群れは周回、そして攻撃を繰り出した。
船団の中で最大の排水量2万9253トンの輸送船『パスツール』、続く2万7000トン、全長だけなら最長の224メートルを誇る『ケープタウン・キャッスル』が、滑空誘導魚雷の餌食になる。
大きさでいえば、飛鷹型空母に近い巨体はあれど、しょせん民間船流用の輸送船。たちまちその足を止められ、船体が大きく傾いた。
護衛のフォースXも、C級巡洋艦『カイロ』をはじめ必死の防空戦闘を繰り広げるが、遠距離の敵に対する火力が少なすぎた。せめて飛来する滑空魚雷を撃ち落とそうと努力するも、輸送船への被害は抑えられない。それどころが護衛の駆逐艦にも次々に被害が拡大していった。
第11、第12駆逐艦戦隊は、大破、沈没が相次いだ。トライバル級駆逐艦『ペドウィン』に続き、『パッドワース』が沈み、ハント級駆逐艦ながら唯一のポーランド海軍艦艇である『クヤヴィアク』も艦後部に直撃を受けて、大浸水とともにその姿を消した。
50隻はいた輸送船も、日本軍機の群れに囲まれては、生き残る術はない。相手が無誘導の爆弾や魚雷であったなら、回避運動で凌げた船もあったかもしれない。だが誘導し、確実に破壊をもたらす兵器を前にしては、最高速度20ノットを超えない船など、ただの標的でしかなかったのである。
・ ・ ・
空母『レンジャー』、『フューリアス』は最大速力で喜望峰へと向かっていた。その護衛には、米重巡洋艦『ウィチタ』『タスカルーサ』と駆逐艦4隻がついている。
船団とフォースX、さらにフォースWが日本軍の攻撃を誘引している間に、高速空母は離脱する。
アルヴァン・カーティス中将が本国から戦艦、空母の保全を念押しされていたように、合衆国海軍もまた、アーネスト・キング大将から『レンジャー』は何がなんでも守れと脅しにも似た命令を受けていた。
このまま無事に離脱できる――そう思われた矢先、転移連絡網で先回りした予備隊が、離脱ルート上に現れた。
インド洋派遣艦隊である第二戦闘群――アデンにいるはずの佐々山 久雄少将の艦隊である。
「逃がさんぞ、アメリカ空母!」
佐々山は、ただちに空母戦隊『神竜』『雷竜』『黒竜』から攻撃隊を発艦させると、自身の戦艦『肥後』、巡洋戦艦『愛鷹』ら水上部隊を率いて突撃を敢行した。
進路上に日本艦隊がいると思わず、突き進んでいた米艦隊は、レーダーに突如出現した未確認機――日本軍に驚いた。
レンジャーから残っていたF4F――朝の直掩分7機が飛び立ったが、第二戦闘群の攻撃隊を阻止することは不可能であった。
重巡『ウィチタ』『タスカルーサ』、そして2隻の空母は高角砲による対空戦闘を開始したが、たちまち長距離からの滑空誘導魚雷を撃ち込まれた。
複数の魚雷を食らい、元より防御に不安のあった『レンジャー』、そして『フューリアス』はその速度を奪われ、そして沈んでいった。




