第13話、インターセプト
特破隊の保有する空母にあって『雷竜』と『黒竜』は、珍しく30ノットを発揮できる高速空母である。それもそのはず、改修元が客船ではなく、正規の軍艦だったからだ。
その正体は、イギリス海軍のカレイジャス級航空母艦『カレイジャス』と『グローリアス』である。
基準排水量2万2500トン、全長239.7メートル、最大幅27.58メートル。搭載機は48機と軍縮条約期間の日米の空母に比べるとやや物足りないが、戦間期、イギリスの主力空母として存在した。
『カレイジャス』は1939年9月、ドイツのUボートによって沈没。『グローリアス』は1940年6月、ノルウェー海域で、ドイツ戦艦『シャルンホルスト』『グナイゼナウ』と遭遇し、砲撃によって撃沈された。
これらを回収した魔技研によって『雷竜』『黒竜』として、特破隊にて通商破壊空母となったのである。
そんな空母と第二戦闘群の上空を守る直掩から離れた九八式艦上偵察戦闘攻撃機二機は、哨戒空母『大鶴』所属の零式哨戒機の誘導を受けて、接近する未確認機へと接近した。
その一番機、宮内 桜中尉は九八式を操縦しながら後座の測定士に声をかけた。
「犬上、どうだ?」
女性パイロットである。日本海軍には、本来女性の軍人はいないのだが、魔技研が魔法的、超能力的な力を持つ人間を男女問わず集めた結果、特破隊に限り、女性の兵、士官は存在する。
「捉まえました。機数1、12時の方向、高度3000」
犬上 瑞子少尉は答えた。宮内は尋ねる。
「何かわかるか?」
「反応からして双発機と思われます。……お待ちを。確認します」
犬上は目を伏せ、意識を遠方の反応――飛行する機へと向ける。能力者である彼女は、レーダーでは光点に過ぎないそれを『見』ようとした。
目のいいパイロットである宮内が、まだ肉眼で確認できない距離で、犬上はそれを見た。
「ロッキード・ハドソン哨戒爆撃機です」
「民間機じゃねえんだな? よし」
ロッキード・ハドソンは、全長およそ20メートル、全幅14.33メートル。全備重量およそ8トン。空冷星型1100馬力エンジン二基を装備する。
高度2400メートルでの最高時速357キロのこの機体は、今は巡航速度の約250キロ前後で飛行していた。
大西洋では一足先に活躍しており、沿岸哨戒や偵察、Uボート狩りで活動している。
「直接叩き落としてやりてぇが、通報されるのも面倒だからな。犬上、空対空誘導弾で狙えるか?」
「問題ありません」
犬上は淡々と応じた。
「敵機が見えた時点で、誘導できます」
「ほっ、じゃあ、その腕前ってのを見せてもらおうじゃねえの」
空対空誘導弾について、飛行目標に当てるには、測定士席の能力者の力が、その射程、命中精度に大きく影響する。
本当はこの九八式艦偵で、突っ込んでダイブからの一撃を見舞いたいというのが宮内の本音である。
パイロットであるからには、相手はともかく敵機を自分の手で撃墜したいと思うものだ。しかし空対空誘導弾による撃墜は、誘導した測定士の手柄である――と宮内は解釈している。
相棒をタクシーしただけで撃墜マークが増えても、うれしくないのである。
「誘導弾、用意――」
「誘導弾、用意」
もうかよ、と内心悪態をつきつつ、宮内は犬上の指示に従い、発射態勢に入る。まだ敵機は欠片も見えないのだが。
「撃て」
だから早いって――宮内は発射ボタンを押し込んだ。翼面に懸架された中型空対空誘導弾がロケットの炎を噴いて飛んでいった。
うっすらと煙を引いていく誘導弾を見送り、それが見えなくなるまで見守る。やがて正面に点のようなものが見えたと思った瞬間、パッと光りが走り、紙の上に墨汁が垂れるように煙を引いて何かが落ちていくのが見えた。
「敵機、撃墜」
犬上が淡々と報告を寄越した。
「みたいだな。おめでとう、初撃墜だ」
宮内は悔しさを通り越して感心した。
「なあ、犬上。あんたと組んで戦闘飛行は初めてだけど、前組んだ奴より全然、誘導弾の射程が違うみたいなんだが……見えてんの?」
「見えてなければ誘導できませんよ」
「そりゃ、そうだろうけどさ」
理解できない宮内である。犬上は言った。
「種明かしをしますけど、私は誘導弾に使い魔を憑依させたんですよ」
「使い魔?」
「ええ。だから誘導弾の目と言いますか、それと私の目が共有しているので、近づくにつれてよりはっきり目標が見えて誘導しやすくなるわけです」
「……あー、そういえば見えるけど実際に誘導するのって遠いほど難しいもんな」
魔技研のある九頭島の学校で、宮内も誘導弾の魔力誘導訓練をしたが、短距離はともかく中・長距離の適性が低いと判定を食らっている。
しかし犬上は、使い魔とやらを使って遠距離でもより正確に目標に当てることができるらしい。ズルじゃん、と思ったが、それも能力者である。一言に能力者と言っても、得意領分や種類は千差万別なのだ。
九八式艦偵は、敵機の撃墜海域に近づく。海にハドソンの片翼の破片が浮いているのが見えた。
「ま、何にせよ撃墜だ。母艦に帰投する」
「了解。撃墜報告します」
宮内は僚機に合図し、機体の翼を翻させた。
「そういや、『雷竜』の連中、輸送船を沈められたかね」
大物の輸送船を発見したとかで、空母『雷竜』から一個中隊の九八式艦偵が向かっていったが。
「接敵までもう少しというところではないですか」
犬上はそう返した。
「大物と言っても民間船舶を利用した輸送船でしょうから。充分でしょう」
「だな」
もし仕留められなければ、第二次攻撃隊を出せばいいだけである。
宮内たちは知るよしもないが、この時、雷竜航空隊は、『アクイタニア』ほか輸送船2隻を捕捉。停船しなければ撃沈すると予告したのち、警告を無視されたため十キロメートル離れた位置から誘導滑空魚雷を投下。これら3隻を撃沈したのであった。




