第12話、特破第二戦闘群
RMSアクイタニアは、キュナード・ラインが運行していた豪華客船である。ロイヤルメールシップの称号を与えられたこの船は、モーレタニア、ルシタニアに続く三大急行客船の三番目であった。なお、先の二隻より1万5000トン近く大きい。
最高速度25ノット。平均速度は24ノットと、巡航においては軍艦よりも高速である。完成後少しして第一次世界大戦が勃発。最初は仮装巡洋艦に改装され、その後、輸送船、病院船となった。
本来は後継のクイーン・エリザベスに置き換えられる予定だったが、第二次世界大戦となった今は、兵員輸送船となって海を駆けていた。
1939年からカナダ兵をスコットランドに運び、オーストラリア兵、ニュージーランド兵をスエズや北アフリカに輸送したりと活動。
41年12月28日にも、小型輸送船二隻と共に、約4000名のオーストラリア兵と1万トンの物資を積んでシドニーを出発。ポートモレスビーを目指していた。
……そこを侵入していた日本軍特破第二戦闘群の九八式艦上偵察機に発見されたのだった。
「攻撃隊、発艦!」
第二戦闘群に所属する二隻の空母『雷竜』『黒竜』のうち、『雷竜』から九八式艦上偵察戦闘攻撃機9機、一個中隊が飛び立った。
「輸送船攻撃にしては、まあまあの規模か?」
第二戦闘群司令官、佐々山 久雄少将は、旗艦である『肥後』から、その様子を見やる。阿畑 洋吉参謀長は言った。
「相手があの『アクイタニア』ですからね。魚雷の一本や二本で沈むか怪しいところではあります」
「4万5000トンの化け物客船だからな」
それに随伴に輸送船が二隻ついている。これらもまた沈めねばならない。それが通商破壊というものだ。
「司令、零式哨戒機より入電です」
通信士が報告に現れた。
「こちらに接近する未確認機1を捕捉。このままの針路ですと、艦隊と遭遇するとのことです」
「おう。さすがは新鋭の長距離哨戒機だ。索敵の範囲も桁違いだな」
相好を崩す佐々山。別動隊である哨戒空母『大鶴』から飛び立ち、広範囲の偵察を行っている零式哨戒機のマ式レーダーが、早々に艦隊に迫る機影を捉えたのだ。
「1機ということは、オーストラリアからの偵察機でしょうな」
阿畑は言った。
「PBYかハドソンか……」
カタリナ飛行艇か、ハドソン双発爆撃機か。どちらにせよ、アメリカのみならずオーストラリアにも宣戦布告している以上、敵であることには違いない。こちらの部隊の位置の特定は遅ければ遅いほどよいので、早々に排除すべきである。
「空中警戒中の艦偵を二機ほど送って、撃墜させろ」
佐々山は命じた。
どの道、いつかは地元のオーストラリア軍が気づくことになるだろうが、せめて目の前の『アクイタニア』船団を叩いた後にしてもらいたい。
せっかく見つけた大型高速客船だ。魔技研特破隊の首魁にして、海軍兵学校の後輩である神明 龍造大佐も喜ぶだろう。
「我々はさながら海賊のようですな」
阿畑がそんなことを言った。佐々山は賊の頭目を思わせる不敵な笑みを浮かべた。
「そうとも、オレたちは船を沈め、魔技研はその船を回収する。お前、12月19日を覚えているか?」
「我が第二戦闘群の大物狩りでしたからね。忘れるわけがありません」
阿畑は苦笑した。
「まあ、あの後、神明さんの第一戦闘群が、米戦艦を三隻も沈めてしまったので、影が薄くなってしまいましたが」
41年12月19日、ニューカレドニア沖で、第二戦闘群はアメリカ軍の船団を捕捉した。
それは重巡洋艦『ペンサコラ』を旗艦とするペンサコラ船団と呼ばれていたもので、開戦時点ですでにフィリピンを目指して航行していた。
重巡『ペンサコラ』を護衛に、『リパブリック』『ショーモン』『ウィラード・A・ホルブルック』『ミーグス』『アドミラル・ホールステッド』『コーストファーマー』、オランダ船『ブルーム・フォンテーン』からなる船団である。
重巡洋艦が護衛についていることは、日本海軍からすれば珍しく思えるかもしれないが、英米においてはそれほど珍しいことではない。そもそも巡洋艦は通商保護もしくは通商破壊に使われる長い航続距離とほどほどの戦闘力がウリの船だ。
それに護衛範囲で想定された敵が、ドイツ海軍が至る所に送り込んだ仮装巡洋艦との遭遇と考えれば、重巡洋艦が護衛につくのは自然であった。
実際、先月11月19日にオーストラリア近海で、ドイツの仮装巡洋艦『コルモラン』が、オーストラリア軍軽巡洋艦『シドニー』と遭遇し交戦、双方沈没している。
そんなペンサコラ船団に、佐々山の第二戦闘群は襲いかかり、重巡『ペンサコラ』以下、船団7隻の輸送船を撃沈した。
ついで、船団護衛の支援にきたオーストラリア海軍の重巡洋艦『キャンベラ』、軽巡洋艦『パース』『アキレス』も、『雷竜』『黒竜』の艦載機と潜水艦でこれまた全て海の藻屑としたのである。
船団と護衛の軍艦は、特破隊の潜水回収艦『見島』が回収。船団はA-24――SBDドーントレスの陸軍仕様、52機、P-40ウォーホーク18機を梱包状態で輸送しており、他さまざまな砲弾や銃弾を運んでいた。
だが、これがフィリピンに届くことはなく、日本軍に回収されたのであった。
なお人員面で、米軍の第26野戦砲兵旅団、およそ四個大隊も乗っていたのだが、これらも船団と共に壊滅したのであった。
兵も武器も戦地に届くことなく――フィリピン攻略を行う味方の陸軍も、多少は楽になったのではないか、と佐々山は考えるのである。
「――迎撃は成功するとして」
阿畑が、艦隊に接近する未確認機の話をした。
「撃墜される前に、我々がいるという旨は通報されるかもしれません」
「一発で落とせるかはわからんからな」
墜落する直前まで、緊急の通信を打ち続けるということもあるだろう。
「こちらの位置はわからずとも『敵』がいるとバレた後はどうします?」
「しばらく姿をちらつかせてもいいかもしれないな」
佐々山は腕を組んだ。
「幸い、我が第二戦闘群は高速戦闘部隊でもある。敵も主力の南雲機動部隊と誤認してくれるかもしれん」




