第11話、通商破壊部隊について
連合艦隊旗艦、超弩級戦艦『大和』。
世界最大の6万5000トンの基準排水量と、46センチ三連装砲を三基九門を装備する最強の戦艦である。
少なくとも、日本海軍で『大和』を知る者はそう信じて疑わない。航空主兵論者たちも、大和型の建造に反対し、あれこれ文句は言えど、戦艦としての質は他国のそれを上回っていること自体は認めている。
「特破隊か」
山本 五十六連合艦隊司令長官は長官公室にいて、参謀たちを見回した。
「それで、君たちは僕に何をしろと言うのかな?」
「特破隊の視察を」
黒島 亀人先任参謀は言った。
「彼らの戦力は、我々が思っている以上に大きくあります。真珠湾で米戦艦群を撃滅し、後顧の憂いなく第一段作戦が決行できますが、依然として敵空母は健在であり、正直に言って戦力が足りているとは言い難くあります」
「しかし黒島君」
山本ややんわりと告げた。
「君は、特破隊について、これまでこれっぽっちも見向きもしなかったじゃないか」
「それは自分だけではありません」
黒島は首を横に振った。宇垣 纏参謀長ほか、三輪 義勇作戦参謀、佐々木 彰航空参謀らも視線を向ける。
「誰もが胡散臭い実験部隊兼通商破壊部隊としか見なかった。……ですが彼らは空母を複数保有し、先のアメリカ西海岸にまで乗り込んでいった際は、回航中の敵戦艦3隻を撃沈した。それも長門型以上の戦艦で!」
それほどの戦力があるのなら、連合艦隊で使わねば勿体ない。そもそも通商破壊部隊には過剰戦力であると、黒島は力説した。
「宇垣参謀長、君はどう思うね?」
山本が先ほどから黙している宇垣に言えば、口数が多いとはいえず表情に乏しい参謀長は口を開いた。
「戦艦『土佐』には、興味があります」
元々大砲屋である宇垣である。46センチ砲を搭載した戦艦『大和』は最強であると認めつつも、連合艦隊の戦艦群にあって真っ先に米戦艦と戦い、うち2隻を撃沈した『土佐』の能力には大いに関心があった。
元は、ワシントン海軍軍縮条約で廃艦が決まった八八艦隊時代の戦艦であり、宇垣は軍令部にいた頃に、魔技研が何やら沈没艦を拾って何かしていると耳にした記憶があった。
山本が視線を移すと、佐々木は言った。
「私も、特破隊が使う航空機に関心があります」
聞けばわずか9機の単発の偵察機が、戦艦1隻を撃沈せしめたという。にわかに信じられない話ゆえに、確かめたいという衝動が勝った。
いったいどういう機体を使っているのか。同じ海軍にいながら詳しく知らないという縦割りの弊害。いや、怪しい部署過ぎて、無視してきたというのが正しいか。
「よくわからない組織なのは確かだ。ただ、僕も興味はあるんだ」
山本は自身の頭を撫でつけた。
「皆で、ちょっと訪ねてみるか」
・ ・ ・
12月30日、珊瑚海。
日本海軍、特破第二戦闘群が洋上を航行していた。この一帯は、完全にオーストラリア軍のテリトリーであり、本来であれば、この海域を日本艦隊がいることがおかしい。
事実、連合艦隊司令部から南洋部隊こと第四艦隊と第一航空艦隊にラバウル方面の攻略――第一段作戦第二期兵力部署が発令されたのが26日であり、まだこの方面には日本軍は進出していないはずであった。
「そこを敢えて押し込んで、敵の目をラバウル方面から引き離すわけではあるが……」
第二戦闘群司令官、佐々山 久雄少将は呟いた。海兵42期。ガッチリした体躯に日焼けした肌の、潮にまみれた指揮官は、旗艦である戦艦『肥後』に座乗する。
基準排水量4万1700トン。全長248メートル、最大幅36メートル。一見、長門型戦艦に似たシルエットだが、それよりも一回り大きい。
長門でも陸奥でもないこの戦艦は、1941年5月のライン演習作戦で英国海軍の集中攻撃によって沈んだドイツ海軍最強の戦艦『ビスマルク』であった。
潜水型回収艦によって回収された『ビスマルク』は、魔技研の手によって修理、大改装が加えられ、日本戦艦として復活した。
最大の変化は、主砲である47口径38センチ連装砲が、土佐と同じ45口径41センチ連装砲になったことであろう。砲弾規格を合わせることで弾薬の補給面を重視したのである。
この『肥後』率いる第二戦闘群の編成は以下の通り。
●特第二戦闘群
通商打撃戦隊:戦艦「肥後」、巡洋戦艦「愛鷹」、駆逐艦「冬雲」「雪雲」
空母戦隊 :空母「雷竜」「黒竜」
防空戦隊 :軽巡「石狩」「鶴見」、防空駆逐艦「沖月」
駆逐艦「早雪」「根雪」「氷雪」
前哨警戒隊 :潜水駆逐艦「霧雨」「樹雨」「長雨」
第三二潜水戦隊:潜水母艦「安芸」、護衛駆逐艦「葛」「橘」
潜水艦 :「伊710」「伊711」「伊712」「伊713」「伊714」
:「伊715」「伊716」「伊717」「伊718」「伊719」
・別動隊 哨戒空母 :「大鶴」
水上機母艦:「早岐」
駆逐艦 :「桑」「桐」「杉」「榧」「檜」「桜」
第四艦隊のウェーク島攻略に協力した特破隊だが、その縁もあり、ラバウル方面攻略に先んじてソロモン方面に浸透、通商破壊戦を展開していた。
「司令、偵察機より報告です。獲物がかかりました!」
参謀長の阿畑 洋吉大佐が声を弾ませてやってきた。
「でっかいオーシャンライナーです! おそらく情報にあった『アクイタニア』です!」
「ほう、アクイタニアか。それは中々の大物だな」
排水量4万5000トン。全長274メートル、最大幅29.6メートル。スピードが売りの高速豪華客船で、最高速度25ノットが発揮可能。この『肥後』より細身だが、スケールはほぼ匹敵する。
イギリスはこれら大型オーシャンライナーを兵員輸送船として使い、英連邦の兵員を戦地に運んでいた。
「おそらくオーストラリア兵をニューギニア……ポートモレスビー辺りに運んでいるんだろう」
「オージーも、我が軍の進攻に備えて守りを固めているわけですな」
阿畑の言葉に、佐々山はニヤリとした。
「そういうことだ。そうはさせんために、オレたちが敵地に浸透しているのだ。合戦用意! 叩くぞ」




