第125話、アメリカ封鎖作戦
魔力生成による弾薬・補給艦を、連合艦隊に欲しいと山本 五十六長官は言った。
その存在を知れば、連合艦隊も欲しがるだろうことは、神明 龍造大佐も予想がついていた。だから、目をつけられた時に備えて余剰を用意していた。
特破隊は、米英輸送船をこれまで多く沈めてきた。当初は、日本の船舶量の民需不足分を補わせるという案もあった。
開戦時、約630万トンあった日本の船舶だが、陸軍と海軍が半数以上を徴用した結果、民間に必要な300万トンを下回った。これは一時的なものとして、陸軍は南方作戦が終了すれば、徴用を解いて民間に返却する流れであった。
が、海軍はかなりの量を徴用しているにもかかわらず、返却どころか、戦線の拡大のせいで徴用を加速させていった。これには政府も陸軍も文句を言うのだが、海軍としても作戦に必要として引かなかった。
しかし民間への不足は、日本の工業力にダメージを与えるもので、長期的に見れば自ら首を絞めるに等しい行為であった。
そこで魔技研は、転移連絡網を民間輸送にも利用させることで、船の不足を往復回数の増加で補っていった。
その結果、撃沈、再生船舶を補助艦艇へ割り当て、海軍が使用できるようになった。神明が余剰を、というのはそこからの再生船である。
「――話を戻しまして」
神明は、山本に言った。
「大西洋で複数の空母群を活用して大規模な通商破壊を行います。これは英ソへの物資供給を絶つ狙いがありますが、これを大規模にやることで、特に海洋国であるイギリスの脱落を誘います」
第一次世界大戦でも、ドイツの海上封鎖により滅亡の際まで追い詰められたイギリスである。インド洋を押さえられ、アメリカからの資源も滞れば、戦争どころではなくなる。
「あとは、アメリカの軍艦と外洋に出るフネを片っ端から沈めます。たとえアメリカの船舶補充量が凄まじいといったところで、一日二日で船が作れるわけではありません」
短期間で船を揃えても、乗組員の練度は下がる一方だ。
「工業力は、熟練の船乗りを生産できませんからね」
船を動かすだけならば、一般から徴用もできるだろう。しかし高度な技術と知識を必要とする兵器や装備の習熟には時間がかかる。
空母や大型艦はドックで破壊。輸送船団と護衛艦もドンドン沈めていけば、いずれ米国は外洋に出られなくなる。いくら大量に船を作っても、空母機動部隊が待ち構えている海域に、航空支援もなしに出せば、全滅するのがオチである。
そしてその頃には、アメリカ国民が、現政権の批判、海軍の不甲斐なさ、陸軍の無力に怒りをぶつけるようになるだろう。いくら嘘を並べたてたところで、海に出られない事実は隠しようがない。
アメリカ国民が、戦争をやめて講和に乗り出すまで、日本海軍――特破隊はアメリカ両岸の封鎖と外洋に出る船を沈め続けるのである。
「何とも……言葉に困るな」
山本はしばし視線を彷徨わせた。
「壮大な作戦であるが……果たして実現可能かどうか。それに自信がもてない」
「ええ、机上の空論ですよ」
神明は頷いた。何せこれを実際にやった者は、誰もいない。
「ただ、もしできたなら、勝ち筋は見えます」
「米国民が匙を投げるまで待つということは……長期戦になるな」
「はい。アメリカは民主主義の国ですから。政権が弱いのは非難の対象です。ルーズベルト大統領が優れた政治家であっても、支持率がなくばやっていけません」
神明は意地の悪い顔になった。
「アメリカを大陸に封じたところで、彼らは飢えはしませんし、物資がなくなるということもない。政府が意地を通せば、日本に負けることはないでしょうが、自国の民には勝てない」
いずれ、日本と講和を掲げる候補が大統領になれば、この戦争も終わるだろう。
「それまで日本は保つかね?」
山本は目を光らせた。アメリカが根を上げるまで、日本が潰れることはないのか?
「そのために南方をとって長期持久態勢を整えたのでしょう。それに、特破隊は国に負担のならないよう、独自に兵站を整えましたから、政府や軍がつまらぬことで国を潰すようなことをしなければ大丈夫です」
その辺りは情勢の変化などで予測できない要素もある。富士山が噴火して、日本列島を分断するような大地震が起きたとか、そういうイレギュラーは想定しようがない。
「はっきり言うなぁ、君は」
苦笑する山本である。
「しかしまあ、第二段作戦の研究段階に出た話よりは、まだ可能性があるように思える」
「といいますと?」
「山口君の提案なんだがね――」
山本は、山口 多聞少将が出したその案について語る。
5月にインド要地、7月にフィジー、サモア、ニューカレドニア、ニュージーランド、そしてオーストラリア要地を占領。8月から9月にアリューシャンを獲り、11月から12月でミッドウェー、ジョンストン、パルミラを制圧し、12月から43年1月でハワイを攻略。パナマ運河を破壊して、米本土カリフォルニア油田地帯を占領し、北米全域を爆撃――という計画である。
「壮大ですね」
神明はあっさりそう告げた。何とも過密なスケジュール。兵站や投入する陸軍兵力のことも考えているように思えない、まさしく机上の空論に思えた。
「まあ、第一段作戦で、あまりに順調に進んだマレーや蘭印、ニューギニア方面の頃のイメージで出されたものだからね」
山本は一応フォローを入れた。
「だが現実には、インド洋からMI作戦の段階で、連戦だった第一機動部隊は、予定が過密だ延期すべし、なんて言うし、今度のFS作戦も、スケジュール通りにはいかないってわかってきたからね」
実際、占領を担う陸軍が、セイロン島の段階で拒否してくる辺り、山口の計画案を海軍が無謀にも実行しようとしたとしても、兵が出さずに頓挫していただろう。
「僕が、君の話が可能性があると言った理由を挙げるとだ」
山本は腕を組み、わずかに首をかしげた。
「陸軍が介在しないということだ。全部、海軍内でケリがつく。陸軍に協力を要請することもなければ、拒否されて作戦変更――その可能性を考えずに済む」
米本土に上陸もしなければ、どこぞを占領するわけでもない。
「そもそも大陸で何年経っても戦い続けている陸軍に、米本土攻撃など無謀の極み、何年かかるかわかったものではない」
普通に撃退されるだろう、と神明は思った。工業力がフルに稼働しはじめた米軍は、海軍だけでなく、陸軍もまた大増強をしている。中華民国と泥沼の戦いをして、疲弊している日本陸軍に万が一でも勝てるとは思えなかった。
「しかしなあ、神明君」
山本は改まった。
「君、GF司令部にこない? 司令部で参謀をやってくれんか?」
型通りの戦い方に懐疑的で、独創的なものを好む山本である。変人参謀と言われて黒島 亀人大佐を首席参謀として重用しているのもそれだ。……あの人の後釜は嫌だな。
「私の空論を本気で実行してくださるのであれば、考えなくもありません」
公式の場でないことをいいことに、神明ははっきり言った。




