第121話、思惑
「やはり、特破隊を連合艦隊に取り込むべきかと」
黒島 亀人首席参謀は淡々と言った。戦艦『大和』の長官公室である。連合艦隊参謀たちの視線が、そちらに集まる。
「彼らは通商破壊のためと称して、戦艦、空母を複数保有しております。その戦力が、連合艦隊に加われば、FS作戦の実施も不可能ではないと思えます」
そもそも、と黒島は言った。
「南太平洋で米豪遮断を推し進めているのは軍令部です。我が機動部隊が再編や機種転換の時間がないのであれば、軍令部直轄の特破隊が航空戦力を出せば解決するのではありませんか?」
「なるほど」
渡辺 安次戦務参謀が手を叩いた。
「特破隊を取り込むというのは、さすがに無茶ではありますが、空母と航空戦力の提供を要請するのは、ありかもしれません」
「続けて」
山本 五十六連合艦隊司令長官は腕を組んだまま促した。
「はっ。仮に軍令部が特破隊を連合艦隊に編入を許したとしても、再編やらで時間を食うのは間違いないでしょう。それではFS作戦の実行が遅れるわけですから、軍令部もよい返事はしないでしょう」
だから、現状の特破隊の一部戦力に協力を要請するのである。
「あの辺りは、特破隊が通商破壊である意味、庭にしているようなものですから、むしろ現地に詳しい部隊が参加したほうが作戦の成功率もあげられるのではないかと思います」
戦力編入より、部隊派遣の要請を。軍令部と交渉するにしても、どちらが容易であるかは考えるまでもなかった。
「特破隊がどれくらいの空母と航空隊を出してくれるかわかりませんが、それによっては機動部隊の機種転換の時間の余裕を与えてくれるかもしれません」
連合艦隊と第一機動部隊にとっては悪い話ではなかった。もっともこちらに都合がよすぎて、軍令部と特破隊から何かしら反論されるだろうが。
「黒島君、軍令部にそのように話を持っていってくれないか」
「承知しました」
黒島は首肯した。山本は目を伏せ、思案する。
特破隊の戦力うんぬんはともかく、現状のタイムテーブルでは、機動部隊の整備、再編や訓練の余裕がない。
内地から出撃し、南太平洋へ移動の時間も考えれば、実質1ヶ月もない。MI作戦でも、各部隊から時間が足りないと不満の声が上がっていた。さすがにこれ以上、無視もできない。
――そういえば。
ふと、山本は、魔技研の資料にあったある項目を思い出す。
転移連絡網。転移を活用することで、燃料と時間を大幅に節約ができるというものだ。特破隊はそれを活用し、本来なら躊躇う西インド洋のマダガスカル島まで進出したのではなかったか。
あれを活用できれば、艦隊の移動分の余裕ができて、補修や訓練などに使える時間が増えるのではないか――そう漫然と思った。
・ ・ ・
PW2076護送船団は、フィジー、ビティレブ島を目指していたが、特破第一戦闘群の航空隊の襲撃を受けて、壊滅した。
ニューポートニューズ造船・ドライドック社が建造した『SSウルグアイ』、排水量およそ2万トンのオーシャンライナーに、『サンタクララ』ほか合計5隻の船団は、アメリカ陸軍第37歩兵師団を輸送していた。
護衛についていたのは、貴重な重巡である『サンフランシスコ』、駆逐艦『ファラガット』だったが、特破隊の九八式艦上偵察戦闘攻撃機の滑空魚雷の前に、あえなく撃沈された。
「オーストラリアか、それともフィジーの防衛戦力だったか」
旗艦である戦艦『土佐』の艦橋で、神明 龍造大佐は独りごちる。
海軍は、FS作戦を来月に実行する予定である。本当のところ、連合艦隊がそれまでに準備を整えられるか、少々疑問を持っている。聞けば、MI作戦の時でも南雲機動部隊は、連合艦隊司令部に半ば反対していたという。
延期になるにしろ、未来の攻略目標である敵戦力を海に沈めてやるのは、やはり未来の味方の犠牲を減らすことになる。
――ここらの飛行場も続々と完成しつつある。いくつか先んじて潰しておくか。
米豪遮断を狙う日本海軍。一方でアメリカ、オーストラリアはそうはさせじと防衛力を強化している。このまま飛行場が作られつづければ、特破隊の通商破壊の邪魔になるだろう。
――こちらも戦力を整理しておかないといけないな……。
神明の脳裏には、現状、三つの戦線が浮かんでいる。一つは、軍令部の本命である、ここ南太平洋。次にインド洋ならびに大西洋。そして最後に北方戦域――アリューシャン列島を超えてアラスカで一騒動。
――連合艦隊に装甲哨戒空母を1隻持っていかれた。こちらには『大鶴』と、就役したもう1隻……。
さらに7月になれば、また1隻、装甲哨戒空母が完成する。これで各戦線に1隻ずつの配置が可能となる。
連合艦隊は『飛鶴』で、装甲哨戒空母の有用性を理解しただろうが、ここでそれを持っていかれるのは痛い。
代わりに、連合艦隊にはアメリカ空母『レキシントン』『ヨークタウン』、さらにミッドウェーで撃沈確実の『サラトガ』と『ホーネット』も回収、再生したら献上する。
低速な輸送船改装空母ではなく、高速正規空母であれば連合艦隊も満足して、余計な干渉を避けられるかもしれない。本命を守るためならば、『まともな』空母だって差し出すのである。
軍人というのはスペックばかりみる傾向にあるから、低速だったり、性能に不満点があると、途端に軽く見てしまう傾向にある。そこを衝いた戦力を揃えることで、戦力の引き抜きを抑える。何とも姑息な話である。
「そういえば……」
神明は思い出す。
横須賀海軍工廠第六船渠で、建造していた第110号艦――大和型戦艦三番艦。開戦前の方針転換で、潜水艦と航空機の生産が優先されることになったことで、大型艦の建造が中止になったそれ。
解体するにしても時間がかかるが、ドックは使いたいからどかしたいということになっていたので、魔技研を通して『一日でドックから撤去してやるから、未完成船体をくれ』と海軍省にねじ込んだのだが……。
あれについて、連合艦隊は何も言ってきていないが、それが完成したら、徴発されないか、ふと心配になった。




