第114話、第二次攻撃隊、突入す
空母『サラトガ』は、助からない。
日本軍攻撃隊の攻撃が集中した結果、航空機発着艦能力も、航行能力も喪失。TF17の指揮官、オーブリー・フィンチ少将も旗艦を、重巡『ヴィンセンス』に移した。
航空指揮官が指揮をとれないということで、その指揮権は第16任務部隊のレイモンド・スプルーアンス少将に渡った。
TF16旗艦『エンタープライズ』。スプルーアンスは、マイルズ・ブローニング参謀長を見た。
「さて、どう見る?」
「ジャップの空母2隻が炎上中。1隻が健在ということですが――」
一方こちらは、サラトガがやられたが、エンタープライズとホーネットが健在である。現在のところ、2対1でアメリカ軍が優勢であるが。
「気になりますか?」
ブローニングが言えば、スプルーアンスは顎に手を当てる。
「日本の新型空母という話だった」
攻撃隊からの速報では、日本の機動部隊は3隻。情報部は6隻から7隻という話であった。つまり、まだ3隻ないし4隻の空母が存在していることになる。
「情報部が、間違っていたという可能性もあります」
「もちろんそうだ」
神に誓って、100パーセントの正しい情報とはいえない。しかし、日本海軍は正しくミッドウェーに迫り、その侵入方向も間違ってはいなかった。
基本、情報を信じて作戦を立てるものだから、その前提が狂ってしまえば、どんな作戦も役に立たなくなる。
「ひとまず、残っている1隻を潰すのを優先すべきでしょう」
ブローニングは言った。
「そのためには、攻撃隊が戻ってこないことには、どうにもなりませんが」
TF16は、戦闘機こそ残っているものの、急降下爆撃機と雷撃機は大半を攻撃隊に投入したので、手持ちは少ない。敵空母を攻撃するにも、最初に放った攻撃隊を収容する必要があった。
「敵の迎撃は激しかったという」
「雷撃隊が全滅した、なんて言ってましたから」
ブローニングは顔をしかめた。
「はたして、どれだけが再攻撃に使えるか――」
そう言った時、周りが騒がしくなった。レーダーセクションから報告が入る。
「レーダーに反応。航空機群接近――」
「攻撃隊が戻ってきましたかね」
「確認させろ」
スプルーアンスは命じた。味方攻撃隊が戻ってくるには、まだ少し早い気がしたのだ。CAP中のF4Fに様子を見に行かせる。
そしてその予感は的中する。
『接近中の航空機は日本軍! 推定100機以上!』
司令部は騒然とする。『エンタープライズ』艦長、ジョージ・D・マレー大佐は問うた。
「追加の迎撃機を出しますか?」
ブローニングが信じられないという顔をしたままだったので、スプルーアンスは艦長に頷いてみせた。ただちに待機中のF4Fワイルドキャットの追加が出撃準備にかかる。
「信じられない」
ブローニングは愕然とする。
「こちらは敵空母2隻を叩いた。残る1隻の空母で第一波と同等の数を送り出せるはずは……」
「つまり、そういうことだよ、参謀長」
スプルーアンスは淡々と言った。
「まだ他にも健在な空母がいる。もう一群――2、3隻の日本空母が」
・ ・ ・
第一機動部隊第一群を飛び立った第二次攻撃隊が、TF16に迫る。
その編成は以下の通り。
赤城:零戦6、九七式艦攻18
加賀:零戦9、九七式艦攻18
飛龍:零戦6、九九式艦爆18
蒼龍:零戦9、九九式艦爆18
第一次攻撃隊と、艦爆と艦攻が入れ替わり、戦闘機が若干減っている以外は、ほぼ変わらない。
これで第一群に残っているのは戦闘機くらいなもので、第三次攻撃隊があるなら、第一次攻撃隊の残存機があたることになる。第二次攻撃隊指揮官は、加賀飛行隊長の橋口 喬少佐である。
「敵空母は……あれか」
空母1隻を中心に、巡洋艦1と駆逐艦4という編成が一群。
「隊長! 別の空母があります!」
距離をおいてもう一群。編成は、ほぼ同じようだ。双方の距離が開いているのは気にいらないが、ここで2隻沈めて終わらせてやろう。
「加賀、飛龍航空隊は、手前の空母群を狙う。赤城、蒼龍隊は、奥の空母群を攻撃せよ!」
部隊を割り振り、それぞれの敵空母を仕留める。
「左上方に敵機!」
米戦闘機が向かってくる。すると制空隊も敵機に気づいたらしく、フルスロットルで攻撃隊を追い越していく。
「頼むぞ、制空隊……」
艦攻隊は高度を下げ、艦爆隊はむしろ高度を取る。零戦とF4Fワイルドキャットが空中戦を繰り広げる中、その戦闘機の戦いをかいくぐった機が九九式艦爆に襲いかかり、火を噴かせる。
「畜生め……!」
せっかく持ってきた爆弾を無駄にさせていく敵機に罵詈雑言をぶつけつつ、編隊は距離を詰める。
敵空母――ヨークタウン級は30ノット以上の快速で走り回る。艦攻隊は中隊ごとに分かれて、左右挟撃を狙う。どちらへ舵を切ろうとも逃げ道がないように。
米艦艇から激しい対空砲火が上がりはじめた。高角砲の砲弾の炸裂が、黒く空を染め、破片がまき散らされる。ガンガンと、嫌な金属音が日本機の搭乗員たちの耳に届く。
当たりどころが悪く、火を噴いたり、破損して海面に叩きつけられる機が相次ぐ。魚雷の投下まで姿勢を保ちつつ低空を飛ぶ九七式艦攻。
いくら高速の航空機とはいえ、回避運動もままならず――雷撃のために姿勢を一定に保つ必要がある――飛ぶのは、的になった気分である。短くも長く感じる時間の後、ついに九七式艦攻の編隊は、航空魚雷を放った。




