第113話、六航戦の激闘
第一機動部隊第二群に前進するホーネット雷撃隊――VT-8は、手近な空母『翠鷹』を目指した。
だがそうはさせじと零戦が襲いかかり、一機、また一機と撃ち落とされていく。
ダグラスTBD-1デバステーターは、すでに旧式もいいところの雷撃機だった。出力は低く、重く、スピードも出ない。さらに防御も弱い。
低速での運動性に長ける零戦に食いつかれたら終わりであった。鈍足雷撃機は出しうる速度で飛んだが、さらに重い魚雷を抱えては無理な相談だった。
大半がやられ、間もなく魚雷の投下位置に近づいたが、ここでさらなる試練がVT-8パイロットにのし掛かる。機体も古いが、搭載する魚雷もまた、信頼性が低いときている。減速しつつ慎重に、そして真っ直ぐ目標へ飛ばなくてはならない。
そしてそれを見逃すほど、日本機の戦闘機乗りは相手を舐めてはいない。迎撃が早かったこともあり、魚雷を投下できたのは1機もなく、部隊は全滅した。
護衛の戦闘機がいない雷撃隊は海に消えた。
次に到着したのは、エンタープライズの雷撃隊だった。こちらも護衛の戦闘機はなかった。ドーントレス急降下爆撃機隊の方についていたからだ。
ユージン・リンゼー少佐は、ただちに突撃を命じ、空母『蒼鷹』へ向かうが、こちらも零戦に先回りされており、攻撃は頓挫した。隊長機を含め、10機が撃墜された。
一方、爆撃隊が迷走している頃、後から飛び立った『サラトガ』雷撃隊が、第二群を発見した。
同時に零戦隊が現れたが、こちらはジョン・サッチ少佐率いる戦闘機隊がいた。F4Fワイルドキャットは零戦に挑みかかる。対零戦対策に考えたサッチウィーブをひっさげて。
しかし、サラトガ戦闘機隊は6機しか随伴していなかったため、雷撃隊を守りきることはできなかった。
大半が撃墜され、のちの話だが、何とか切り抜けた機も燃料切れで不時着することになり、結果的に雷撃機は全機が失われた。……スプルーアンスが懸念したとおり、デバステーターの航続距離はもたなかったのである。
そしてようやくまともに雷撃が実施されたが、『蒼鷹』は全て躱した。
雷撃機は、結局のところ、その攻撃を1本も当てることができなかったのである。
・ ・ ・
六航戦、旗艦『翠鷹』。司令の有藤 剛司少将は、新たにもたらされた報告を受ける。
「南より敵航空機の一群が接近中です。高度からして急降下爆撃機かと」
マ式電探は、敵編隊を捉えていた。こちらの前を通過し、見つけられずにそのまま行ってしまうかと思ったら、引き返したところで、こちらを掠めるコースを飛んでいた。
「さらに西からも敵攻撃隊が接近しつつあります」
「たまたまか、それとも狙ってきたのか……」
どちらにしろ、このままだと違う方向からの挟撃となるという。有藤は薄目になる。
「正念場だな。直掩戦闘機には高度をとって新手を迎撃させろ。『飛鶴』のほうはどうなっている?」
「引き続き、基地航空隊の零戦が発艦を続けています。燃料と弾薬の補給を終えた機も順次再出撃しているかと」
「搭乗員たちに負担をかけるなぁ」
有藤は独りごちた。
そして、米航空隊は、第二群を視認できる位置にまでやってきた。待ち構えていた零戦が、SBDドーントレスに正面から牙を剥く。回り道をしている余裕はなかった。SBDの数は多く、南から32機、西から17機が飛んできていたのだ。
そして攻撃は、南のエンタープライズ隊が、哨戒装甲空母『飛鶴』と、空母『翠鷹』。西のサラトガ隊が『蒼鷹』を狙った。
が、この時、エンタープライズ爆撃機隊は、マクラスキー少佐の隊とベスト大尉の隊で分かれるはずが、ベスト隊は3機を除いて、『飛鶴』へと向かってしまった。
迎撃の零戦をくぐり抜け、ようやくに急降下に移ったSBDドーントレス。
「敵機直上! 急降下!」
見張り員が叫び、空母『飛鶴』艦長、八千田 源二郎大佐は冷静に命じた。
「高角砲、一斉撃ち方始め!」
飛鶴搭載の12.7センチ連装高角砲八基十六門が、向かってくるSBDの編隊に発砲した。
それらはダイブしてくる急降下爆撃機の針路上に、光の壁となって立ち塞がった!
「!?」
アメリカ軍の勇敢なるダイブボマーのパイロットたちも、突然視界いっぱいに開いた光には為す術がなかった。
先頭の機から次々に衝突。期せずして左右に広がろうとしていた後続機は、駆逐艦『白月』が高角砲――一式障壁弾を発射し、さらに光の傘をかけてこれを破壊する。
回避が間に合ったのは、ダイブする寸前だった機体くらいだった。飛び込んだ十数機のSBDが光にぶつかって消滅した。
光の壁が十秒足らずで消えた時、生き残ったSBDは再度、突入を開始した。さらにバラバラに向かってきたことで、各個の迎撃をせねばならず、一網打尽といかなかった。
そして、投下された500ポンド爆弾が、『飛鶴』の飛行甲板に命中し爆発した。大きな的である。外しようがない。
が、それは折り込み済みである。哨戒装甲空母である『飛鶴』は格納庫を持たず、その分、飛行甲板の装甲の重心を下げる独特の艦だが、その装甲甲板は、米軍の急降下爆撃機の爆弾を無傷で弾いたのである。
「むしろ、飛行甲板から外してくれるな」
装甲無傷と報告を受けた八千田は呟く。下手に至近弾のほうが、艦が受ける被害が大きくなる可能性すらあった。
敵の攻撃を凌いだ『飛鶴』ではそんな空気が漂うが、僚艦の被害が報告され、緊張が走った。
空母『蒼鷹』は、一式障壁弾による迎撃を試み、突入してきた機の過半を撃退したが、やはりタイミングがズレてタイブしてきた機に爆撃され、二発が被弾。
そして旗艦『翠鷹』もまた、わずか3機しか来なかったことで、高角砲のタイミングが上手く取れず、一機を撃墜したが、残る2機の爆撃を、飛行甲板中央と艦首側に受けた。
一発は飛行甲板を貫き、格納庫の一部で炎上した。しかし魔技研製の空母は消火対策も設備も整っており、燃焼区画を隔離に成功し、被害の拡大を押さえた。
そもそも複数の航空機が燃料や爆弾を満載して格納庫にある状態でもなければ、空母とはそうそう大破しないものである。もちろん飛行甲板が使えなければ、空母としての能力は失われるが。
よって六航戦は、空母2隻が離発着能力を喪失したが、航行に支障はなかった。




