第112話、炎上する空母
「敵はサラトガ型!」
「後方に新手のグラマン!」
その報告に九七式艦上攻撃機の搭乗員たちは振り返る。空母に迫る日本軍攻撃隊にもう一隊のF4Fワイルドキャットが襲いかかる。サラトガの戦闘機隊11機である。
しかしそうはさせじと、零戦9機――蒼龍隊が横合いから突っ込む。たちまちサラトガ戦闘機隊VF-3は、散らされる。
「全機、突撃せよ!」
友永 丈市大尉は命じた。戦闘機の迎撃を抜けてきた60機以上の艦爆、艦攻が編隊ごとに突撃を開始した。
標的となったのは第17任務部隊の旗艦、空母『サラトガ』であった。
重巡洋艦『ヴィンセンス』と、駆逐艦4隻が取り囲み、対空射撃を開始。日本機の侵入を阻もうとする。
5インチ高角砲に、12.7ミリ機関銃などが激しく打ち上げられる。不運な九九式艦爆が翼を吹き飛ばされて錐もみし、燃料タンクを打ち抜かれた九七式艦攻が次の瞬間、爆発四散した。
だが、多勢に無勢であった。
さらに言えば、これまでの戦いで巡洋艦、駆逐艦が失われたことで、防御の厚みが全体的に不足していた。左右挟撃。さらに低高度と頭上とほぼ同時に押し寄せられては、対応しきれなかった。
「撃て!」
二五〇キロ爆弾が切り離され、航空魚雷が海面に没し、そして直進した。逃げ場などなかった。
飛行甲板に爆弾が命中した。爆発の衝撃波が吹き荒れ、炎は高角砲員たちを吹き飛ばす。さらに落ちてきた爆弾が、艦体右舷中央の巨大煙突に吸い込まれ、煙路を破壊した。火の手は機関室の一部に及んだ。
そして懸命の回避運動もおよばず、魚雷が水線下に突き刺さった。水柱が屹立し、全長270メートルの艦が震えた。二本、三本と命中し、艦がのたうつ。
追い討ちに降ってきた爆弾が飛行甲板を貫通し、内部で爆発、火災を引き起こした。
日本機が乱れ飛んでいった後、洋上にはボロ船のようになった『サラトガ』の姿があった。
・ ・ ・
敵サラトガ型空母、撃沈破。
友永第一次攻撃隊による電信は、第一機動部隊第一群の旗艦『赤城』にもたらされた。敵空母1隻の撃沈確実となり、司令部は沸き立った。
「やった! これで敵は残り2隻だ」
偵察機の報告により、米軍の空母は3隻であるとわかっている。1隻仕留めたので、残る2隻をやれば、この太平洋から米空母を一掃できるだろう。
「しかし、意外でした」
草鹿 龍之介参謀長は口を開いた。
「ヨークタウン型、ワスプ型の想定はできましたが、まさかサラトガ型がきていたとは」
「これまでの戦果報告からすると、サラトガ型は2隻とも沈んだことになっていたからな」
南雲は表情を引き締めた。
「潜水艦が沈めた、という話。あれはせいぜい損傷させたというだけだったかもしれんな」
「誤認戦果というやつですな」
草鹿は小首をかしげた。
「計算が合わなくなるので、正確に判断してもらいたいものです」
「まったくだな」
同意する南雲。もっとも自分たちの足元にも、誤認戦果は多々あるが、そのことには触れない。
とかく航空機による戦果誤認、過大報告というのは実のところ、日本だけでなく、アメリカもドイツもソ連もひどかった。
「第二次攻撃隊は、発艦しました」
草鹿は言った。
「この攻撃で、残る空母2隻をやっつけられれば、あとはミッドウェー島の占領に注力できましょう」
うむ、と南雲は頷いた。そこへ通信室から、通信兵が駆け込んできた。
「報告します! 六航戦、空母『翠鷹』被弾。『蒼鷹』も損傷、航空機発着不能!」
「なに!?」
ミッドウェー島を攻撃していた第六航空戦隊の空母3隻のうち2隻がやられた。第一機動部隊司令部に動揺が走る。
「北方より100を超える敵機の来襲があったとのこと。おそらく敵空母の航空隊の模様です」
「むぅ……」
「どうやら、敵空母の攻撃隊は、我々ではなく、第二群のほうに向かったようですな」
草鹿は何ともいえない顔になる。確かに自分たち第一群は、敵に発見されていない。しかし第二群のほうは、ミッドウェー島の偵察機に発見され、攻撃が集中した。当然、空母の攻撃隊もそちらに吸い寄せられた。
「奇しくも、六航戦が囮という格好になりましたな」
「……過ぎてしまったことは仕方ない」
南雲は口元を引き結び、何かを堪えた後、口を開いた。
「第二次攻撃隊が仇をとってくれることを祈ろう」
まずは目の前の米空母を撃滅するのが先だ。これを叩かないことには、第二群の救援もおぼつかない上に、ミッドウェー島占領支援もままならない。
・ ・ ・
時間は少し戻る。第二群に向かうTF16の攻撃隊は、飛行隊ごとに発進したために、編隊ごとにバラバラになっていた。
それにより、ホーネットの戦闘機隊と爆撃隊が、会敵予想で日本空母を発見できず、ミッドウェー島に突き進んだと考え、島の方向へ針路を変えた結果、攻撃できないという失態をやらかす。
かくて攻撃を仕掛けられたのは、ホーネット雷撃隊、エンタープライズ爆撃隊、雷撃隊、支援の戦闘機という形となった。
まず突っ込んだのは、ホーネット雷撃隊。ジョン・C・ウォルドロン少佐率いるデバステイター15機だった。
「ほらみろ、やはりオレが正しかった!」
出撃前、ホーネット艦長のマーク・ミッチャーとホーネット航空団司令のスタンホープ・C・リング少佐と、日本空母の位置について意見を戦わせた。
結果はこれだ。指示通りに飛んだ部隊は、日本空母と接触できず、独自判断で飛んだウォルドロン隊は目標を見つけた。
「突撃だ!」
しかし、マ式電探を活用する第二群は、接近する米軍航空隊を把握していた。
零式艦上戦闘機の編隊が、ウォルドロン隊に向かってきた。




