第111話、猛攻の攻撃隊
六航戦へのアメリカ軍の攻撃は続く。SBDドーントレス――ヘンダーソン隊の攻撃を凌いだところに、今度はB-17爆撃機の編隊17機が仕掛けてきた。
高高度からの爆撃は『翠鷹』『蒼鷹』に降り注いだ。
空母『翠鷹』は、豪華客船『パリ』、『蒼鷹』は『エンプレス・オブ・ブリテン』の改装艦である。
前者は全長234メートル、全幅26メートル、排水量3万1000トン。後者は全長231.8メートル、幅29.8メートル、排水量3万7000トンと大きさの割にはかなりの重量を持つ。速力は30ノット。艦載機は『翠鷹』57機、『蒼鷹』63機を搭載する。
これら2隻の空母を、高度3000メートルからの水平爆撃を仕掛けたB-17だが、まったく当たらなかった。洋上を高速で航行する船に、高い高度からの爆撃はまったくナンセンスであり、洋の東西を問わず、枢軸軍、連合軍共に成果のない爆撃を実施し、今回も効果がなかった。
……もっとも、彼ら爆撃機乗りは、日本空母に命中弾を主張し、あまつさえ、日本艦隊を撃破したという者さえいたという。
高度があったこともあり、B-17側も被害を受けることなく、全機無傷で帰還した。
そして次に、いや最後に向かっていったのは、海兵隊のVMSB-241のもう一隊であるSB2U-3ヴィンディケーター急降下爆撃機11機だった。
零戦の迎撃に数をすり減らしつつ、空母を狙うのは無理と判断したSB2U隊は、戦艦『榛名』へと矛先を向けた。数機が爆撃を敢行するが、『榛名』は回避運動でこれを避け、被害はなかった。
ミッドウェー基地航空隊の攻撃をかいぐぐった第一機動部隊第二群だが、そこへミッドウェー島を爆撃した航空隊が戻ってきていた。
敵の攻撃が終わった後、六航戦は攻撃隊の収容作業を開始した。上空直掩の零戦隊の補給も必要であり、ミッドウェー基地への第二次攻撃隊の発進どころではなかった。
航空隊の円滑な回収作業を進めるため、被弾機は、すべて哨戒装甲空母『飛鶴』が回収。飛行甲板の転移板で内地の飛行場へ飛ばすこととされた。航続力に余裕のある陸攻隊は周回しつつ、艦載機の収容は粛々と進められた。
だが、そこへ、アメリカ空母『エンタープライズ』『ホーネット』の攻撃隊が、第二群に接近しつつあった。
第二群が、ミッドウェー島を目指して針路を変えなかったことで、TF16の攻撃隊は、予定に近い位置で、日本空母を捕捉できそうだった。
六航戦の旗艦である空母『翠鷹』。有藤 剛司少将は、飛来する複数の敵航空隊――それも方位から空母航空隊と思われるそれに歯噛みした。敵空母は、南雲 忠一中将の第一群が相手をしているのではなかったか? ……それを嘆いたところでどうにもならないが。
「『飛鶴』と基地航空隊に命令。戦闘機の増援を発艦!」
艦載機の収容作業中の『飛鶴』だが、着艦した機は転移で基地に飛ぶので、飛行甲板に置かれない。そして発進も、艦首側の転移板で出てくるため、タイミングが重ならない限り、衝突の事故の可能性はない。
つまりは、着艦のインターバルを利用して、戦闘機を発艦もほぼ同時に行えるのである。
命令はただちに『飛鶴』に伝えられ、着艦の間を縫って、内地基地から転移してきた零戦が空母を飛び立った。
「対空戦闘用意ー!」
そして、複数波に分かれて、米艦載機群が、第二群に迫った。
・ ・ ・
第一機動部隊第二群が、ミッドウェーの基地航空隊の攻撃にさらされている頃、第一群である『赤城』『加賀』『飛龍』『蒼龍』の四空母は、第二次攻撃隊の準備を進めていた。
そしてすでに発進した第一次攻撃隊は、米空母を捕捉し、攻撃に向かっていた。
友永 丈市大尉が指揮する攻撃隊は、107機。その内訳は――
赤城:零戦9、九九式艦爆18
加賀:零戦9、九九式艦爆18
飛龍:零戦9、九七式艦攻18(うち1機が故障で反転)
蒼龍:零戦9、九七式艦攻18
戦闘機36、艦上爆撃機36、艦上攻撃機36(35)である。
そしてこれら攻撃隊は、いつものように、艦攻隊が先頭、次に九九式艦爆、最後尾、一番高い位置を零戦隊が飛んでいた。
レーダーのない頃の航空戦は、いかに敵機を先に発見し、有利な位置に移動し、一気に襲いかかれるかにある。
そう考えた場合、敵機の後方上方がオーソドックスであり、その配置でいくなら、一番高く、後ろに制空隊が飛んでいるというのは利にかなっている。敵が後ろ上からのダイブアタックをかける時、最初に狙われる位置にいるのは戦闘機隊という理屈だ。
しかし、太陽の位置や雲量によっては、セオリーもまた変わってくる。要は敵に気づかれずに奇襲できればよいのだ。
そしてこの今回、米軍側は、真正面から突っ込んできた。エンタープライズ、ホーネットのF4Fワイルドキャットが17機。日本軍攻撃隊の先頭に突っかかった。
レーダーで簡易的ながら誘導された米戦闘機隊は、数の不利を時間で補うため、正面から突撃させたのである。
そしてこれは、艦攻隊が先頭だったことで、米側の先制に有利に働いた。
12.7ミリの曳光弾が空を駆ける。嵐のような銃弾が、薄い航空機の外板を貫く。3機の九七式艦攻が火を噴いた。
艦攻隊の間をすり抜け、F4Fの一隊はそのまま突進。もう一隊は上昇しつつ、足付き――九九式艦爆隊へと直進し、そして両翼から閃光を瞬かせた。
パッと広がる真っ赤な炎。黒く流れる煙を引きながら、墜落する日本機。一気に編隊を突き抜けたF4Fだが、そこに零戦隊が覆い被さる。守るべき攻撃隊をやられ、怒りに燃える戦闘機乗りたちは、獰猛な獣のようにF4Fに襲いかかり、たちまち数機がジュラルミンの塊となって墜落していった。
先制を許したものの、数で上回る零戦が、米戦闘機を押さえ込む。その間に、艦攻隊は高度を下げ、急降下爆撃機隊は、米空母部隊へ飛んだ。
空母を中心に、重巡洋艦1隻と駆逐艦4が周囲を固める。その空母は、第17任務部隊の旗艦『サラトガ』だった。




