第110話、狙われる第二群
第一機動部隊第一群の4空母から攻撃隊が発艦を始めた頃、アメリカ海軍第16任務部隊の空母『エンタープライズ』『ホーネット』から攻撃隊が出撃していた。
エンタープライズから、F4Fワイルドキャット10、SBDドーントレス33、TBDデバステーター14。
ホーネットから、F4F戦闘機10、SBD急降下爆撃機35、TBD雷撃機15。
合計117機である。
が、この時、日本の偵察機――利根一号機が艦隊に迫っていたのを発見する。
空母『エンタープライズ』。マイルズ・ブローニング大佐は、指揮官であるレイモンド・スプルーアンス少将を見た。
「敵にこちらに気づくのも時間の問題です」
「……」
「こちらの攻撃隊の集合、出撃までまだ時間がかかります」
米攻撃隊の発艦から空中集合、そして移動開始までの時間は、およそ1時間。
対して南雲機動部隊攻撃隊の一連の行動までにかかる時間は、約10分前後であった。
もちろん、米側はこの時点でそれは知らないが、時間がかかるものという認識はあった。ハルゼーだったなら、兵を蹴飛ばす勢いで声を張り上げて急かすだろう。スプルーアンスは、ブローニングを見た。
「いま攻撃隊が行けば、敵機動部隊はミッドウェーから戻ってきた航空機を収容するタイミングで仕掛けられると君は言ったね?」
「はい」
現在の風では、機動部隊は敵から遠ざかりつつの発艦となるが、出撃の調整とタイミングを決めたのはブローニングである。
「……雷撃機の燃料はもつか?」
スプルーアンスは、デバステイターの航続距離を心配した。ブローニングはきっぱりと告げた。
「ギリギリかもしれませんが、それは些細な問題です」
敵を叩くことに比べれば。それにここはミッドウェーの海域。たとえ不時着しても救助の手段はある。
「では、発艦した飛行隊ごとの移動に敵空母へ向かわせたまえ」
スプルーアンスは告げた。あまりにあっさりと。幕僚たちは一瞬固まった。
「航空戦は一分一秒を争う……ハルゼー中将なら、そう言うだろうね」
とにかく先手ととらねばならない。そしていま出せば敵空母の航空隊収容のタイミングで攻撃できるとなれば、利用しない手はないだろう。
スプルーアンスは航空隊の指揮の経験はない。対してブローニングは、ハルゼー中将の下で経験を得ている。そして彼とその司令部はこれまで致命的な失敗はない。
「責任は私がとる。やりたまえ」
「アイ・サー!」
ブローニングは応じた。もっとも、この決断は、最悪の場合は逐次投入、各個撃破される恐れもある。危うい賭けでもあった。
一方、この日、警戒担当であった第17任務部隊の『サラトガ』は、警戒に出していた偵察機を収容後、攻撃隊を出撃させた。
戦闘機6、急降下爆撃機17、雷撃機12の計35機である。
第一波の発進後、すぐに次の攻撃隊に戦闘機6、急降下爆撃機17機の出撃準備をさせた。
・ ・ ・
双方の空母攻撃隊が発艦を始めた頃、ミッドウェー島に直進する南雲機動部隊、第二群――第六航空戦隊の空母3隻に、ミッドウェー島基地の航空隊が襲来した。
○第一機動部隊・第二群
第六航空戦隊:空母「翠鷹」「蒼鷹」「飛鶴」
戦艦「榛名」
駆逐艦「夕雲」「巻雲」「風雲」「浜月」「白月」
駆逐艦『浜月』のマ式電探が、接近する敵編隊を探知。さらに空母のマ式電探も敵を捉え、ただちに直掩戦闘機が迎撃に振り向けられる。
まず突っ込んできたのはTBFアベンジャー雷撃機6と、航空魚雷装備のB-26マローダー双発爆撃機4機だった。
これらは直掩の零戦に艦隊到着前に襲撃を受けて、半数を撃墜され、残りも被弾多数で撃退される。
次に向かってきたのは、ロフトン・R・ヘンダーソン少佐率いるSBD急降下爆撃機16機であった。ちょうどいいことに日本の空母は、集団で航行していた。その中で、一際大きな空母が後ろに位置している。
「こいつはデカい……! ジャップの新型か……?」
しかし護衛機のいないドーントレス隊は、たちまち零戦に食いつかれる。
「少佐!」
指揮官機が、零戦によって撃ち落とされる。
「シット! 全機、続け!」
次席指揮官のエルマー・G・グリデン大尉は無線機に叫んだ。
戦闘機の間をぬって、SBDドーントレスは進む。戦艦がいるが、あれは無視だ。敵の対空砲火は弱い。戦闘機にさえ注意すれば、空母の真上が取れる!
一機、また一機と、味方機が落とされる。後部の旋回機銃が弾幕を張るが、中々、敵機を追い払えない。
そこで鈍い音がした、やられた!――グリデンは手の中で勝手に動こうとする操縦桿を押さえ込む。真っ直ぐ飛ぶことができなかった。これでは爆撃どころではない。
「I'm、hit! ――くそっ。お前ら、後は頼むぞ!」
目標に向かって、飛ぶSBD。その数は出撃時の3分の1程度しか残っていない。
やがて、SBD3機が、大型空母『飛鶴』に、代名詞である急降下爆撃を敢行した。飛行甲板の日の丸――珊瑚海海戦の戦訓から味方の識別用に描かれたそれ――を的に飛び込む。
その瞬間、飛鶴のそばを航行していた防空駆逐艦『白月』――D級軽巡『ドラゴン』の改装艦――の12.7センチ連装高角砲が一斉に火を噴いた。
狙いすましたそれは、SBDの針路上に、パッと花開くように青白い壁を開いた。
「!?」
パイロットたちは目の前の青白い光に吸い込まれるような錯覚に襲われたが、その時には機体が光の障壁に激突していた。
一式障壁弾。対空・対艦用に開発された魔法式砲弾である。点ではなく、面をぶつけることで、急降下爆撃機をまとめて粉砕する防御兵器が、その威力を発揮した。




