第109話、ミッドウェー航空戦
中部太平洋に浮かぶミッドウェー島。
北西ハワイ諸島に属する島である、ジョンストン島から北に約1000キロ。ハワイから東京までの距離のおよそ三分の一ほどのところになる。
諸島とも言われるだけあって、小さな島が複数存在するが、米軍の施設があるのは、島の中でも大きなサンド島とイースタン島にあった。
1942年6月4日、日本軍はミッドウェー島に襲来した。
索敵のPBY-5カタリナ飛行艇が、日本軍機に撃墜された。しかしその後を飛行していた別のPBYが、ミッドウェー島を目指す攻撃隊を発見。ただちに通報した。
これを受けて、ミッドウェー飛行場では、ただちに迎撃隊が飛び上がった。暗号解読部門からの通報で、予め何日に日本軍が来るかを察知していた米軍の反応は素早い。
第22海兵隊航空群のVMF-221のF2A-3バッファロー戦闘機20機、F4F-3Aワイルドキャット6機が発進。日本軍を迎え撃たせる一方、飛行場にある攻撃機、爆撃機群も順次飛ばす。
飛行場にある間に攻撃されてはたまらない。空中待避……ではなく、偵察機が撃墜された方向に日本軍空母がいると信じて攻撃隊として差し向けたのだ。
これはある種の賭けだったが、先にも言った通り、暗号解読によって日本機動部隊がミッドウェーの北西方向から来ると予測されていたこともあって、まんざら悪い賭けでもなかった。
第22海兵航空群、VMSB-241のSBD-2ドーントレス16機、SB2U-3ヴィンディケーター12機の急降下爆撃機に、ホーネット所属機であるTBFアヴェンジャー雷撃機6機、第7空軍分遣隊であるB-26マローダー爆撃機4機が、日本軍を求めて飛び立った。
そしてその賭けは、先に日本攻撃隊を報告した2機目のPBYが、日本空母を発見と通報してきたことで勝った。
この通報は、第16任務部隊のレイモンド・スプルーアンス少将のもとにも届いた。第17任務部隊のオーブリー・フィンチ少将と短いやりとりのあと、3隻のアメリカ空母は攻撃隊の出撃を準備させた。攻撃隊の発進は7時の予定とした。
米空母部隊が、にわかに慌ただしさに包まれる頃、ミッドウェー島上空に、日本軍攻撃隊99機が到着した。
海兵隊航空群VMF-221の戦闘機群は、ただちに襲いかかった。
奇襲であった。先頭を行く九七式艦上攻撃機隊が、米戦闘機によって被弾。しかし日本軍制空隊も黙っていない。
零戦が猛然と米機に襲いかかる。7.7ミリの細長い弾道が、ワイルドキャットをかすめ、攻撃を受けた機が翼を翻す。
艦攻の間を抜けたバッファローに真上から突っ込んだ零戦の20ミリ弾が、コクピットをぶち抜き、パイロットを即死させると、米戦闘機は火を噴いて落ちていった。
零戦を振り払おうと12.7ミリ機銃で反撃するバッファロー、そしてワイルドキャット。
ワイルドキャットがその見た目に反して、割と軽快――もちろん零戦には劣るが、運動性も悪くないが、バッファローのほうは駄目だった。
アメリカ海軍初の単翼戦闘機。寸詰まりの空飛ぶドラム缶のような不格好なそれは、この大戦における主力戦闘機と比べても明らかに劣勢な性能であった。
3型は武装こそ12.7ミリ機銃4丁を装備していたが、スピードも運動性も零戦の敵ではなかった。VMF-221は、日本軍戦闘機を前に大打撃を被る。
戦闘機の迎撃を突破した日本攻撃隊は、ミッドウェー島の基地施設を爆撃した。九七式艦攻、九九式艦爆、そして一式陸上攻撃機の爆撃で、燃料タンクや格納庫、発電所や指揮所などが被害を受けた。
基地対空砲が激しく日本機に反撃する。しかし軽快な急降下爆撃機を捉えるのは難しく、高空の陸攻には満足な火線が届かなかった。
「敵機がいない……」
地上に駐機されている米機を銃撃しようと探す日本軍パイロットだが、爆撃機などはすでに発進した後である。
「滑走路も、あまり被害はなさそうだな」
六航戦攻撃隊指揮官の今出 京四郎大尉は、機動部隊へむけて、「第二次攻撃の要あり」を意味する「カワ・カワ・カワ」を打電した。
そして日本軍攻撃隊は、ミッドウェー島を去った。VMF-221は、バッファロー12機、ワイルドキャット2機を失い、さらに6機が被弾により使用不能の大損害を受けた。
日本側の被害は、九七式艦攻7、九九式艦爆2、零戦4機を失い、そのおよそ倍近くが被弾損傷した。
なお、米軍側は空中戦で40から50機、対空砲火で10機の日本機を撃墜したと主張した。
・ ・ ・
時間は少し戻り、米空母を索敵していた南雲機動部隊の偵察機、利根一号機は、米機動部隊を発見した。
雲が多かった。利根一号機は雲の下を飛んだ。理由は簡単だ。米空母が、ミッドウェー近海にきていると知っていたからだ。
もし前日までに、米空母がいるとわかっていなかったら――彼ら偵察員たちも、偵察に気の緩みがあったかもしれない。以前の作戦説明では『米空母はミッドウェー島を占領した後にやってくる』とされていたからだ。
だがすでに敵空母がいるとなれば、いないという先入観が働くことはなく、むしろ見落としがあったら恥と彼らは目を皿にして索敵した。
そしてそれは報われた。雲の下に、アメリカ艦隊がいたのだ。利根一号機からの発信は、第一機動部隊旗艦『赤城』でも受信された。
『敵らしきもの6。うち1隻は大型艦』
来た! 第一機動部隊司令部は色めき立つ。
「先日の索敵で、空母を目撃しておりますから、間違いなく大型艦は空母でしょう」
源田 実航空甲参謀は、わずかに顔を紅潮させて言った。実は先日から軽い風邪で体調を崩していた。
「ふむ……」
南雲は逡巡する。珊瑚海海戦で、五航戦が敵空母と思って攻撃隊を出したら、実はタンカーだったという誤認騒動があった。空母かどうか確かめてからのほうがよいのではないか。しかし、草鹿 龍之介参謀長が先に口を開いた。
「空母戦は先手必勝です。昨日の索敵でも敵には戦艦はあらず。大型艦は十中八九、空母です」
「うむ、ではやるか。第一次攻撃隊、発艦。目標、敵空母!」
命令は下った。第一機動部隊、一、二航戦の4空母で待機していた搭乗員たちは敵の位置を確認すると、それぞれの機に走った。
攻撃隊の指揮官は、飛龍艦攻隊隊長である友永 丈市大尉が務める。本来、攻撃隊総指揮官だった淵田中佐は、虫垂炎の手術の直後で、とても出撃できる状態ではなかったのだ。
かくて、第一次攻撃隊は発艦した。




