第102話、MI作戦の外
海軍がミッドウェー作戦の準備に動いている中、特破隊の神明 龍造大佐は軍令部に出頭していた。
相手は例によって、第一部第一課――作戦課の富岡 定俊作戦課長である。
「特破隊は、インド洋とオーストラリア方面でよくやってくれていると思う」
「アデンを攻略したことで、地中海とインド洋を切り離せる。インド、オーストラリアからイギリス本国に資源がいくこともないし、オーストラリアにしてもインド洋から英国と分断された」
神明が告げると、富岡は頷いた。
「うむ。あとはアメリカと分断できれば、オーストラリアは孤立する」
「それが難しいんだがね」
神明は皮肉げな顔になる。
「大きな船団は潰して、大規模な援軍は阻止はしているが、細々としたところを抜けてくる。西インド洋に戦力を割いた影響もあって、潜水艦のローテーションが追いついていない」
「数は増えているのだろう?」
「戦線が広まれば、いくらあっても足りないものさ」
さらにいえば、オーストラリア、ハワイ間にある南東太平洋の島々の拠点化を米軍は進めている。
サモアは潰したが、再建を進めているし、ニューカレドニア、フィジー、サンタクルーズ諸島方面にも動きがある。
飛行場の建造や、守備隊の増強がされると、今後の通商破壊の障害になるので、定期的に叩いておきたいところである。
ただ、米海軍も護衛戦力には苦慮しているようだ。これまで重巡洋艦や軽巡洋艦が船団についていたこともあり、その船団の巻き添えを食らって沈没する艦が相次いでいる。
おかげで敵の空母部隊に貼りつく護衛の巡洋艦の数が減少していたりする。もっとも、今も米国の造船所は護衛艦艇もごまんと増産しているので、それらの穴を埋めるのも時間の問題ではあるが。
「――それで、話は変わるが神明君。これを見てくれ」
富岡は一枚の書類を手渡した。
「どう思う?」
「MI・AL作戦の参加兵力」
神明は、睨むようにその表を眺めた。
「ミッドウェーに第一機動部隊。アリューシャン方面に第二機動部隊。……機動部隊表記なんだな」
「便宜上だな」
南雲 忠一中将が指揮する第一航空艦隊が、この表では第一機動部隊となっていた。そして第二機動部隊は、四航戦指揮官の角田 覚治少将が率いる空母『龍驤』と、新鋭の改装空母『隼鷹』の2隻を中心としている。
第一が7隻――今回、五航戦は不参加――、第二が2隻とは、随分と偏っていると神明は思った。
それはそれとして。
「島ひとつを落とすにしては随分と大げさな戦力だな」
率直な言葉が漏れる。
山本 五十六連合艦隊司令長官が座乗する戦艦『大和』と主力部隊主隊。
さらに第一艦隊を基幹とする主力部隊警戒部隊。
第二艦隊基幹の攻略部隊に、攻略支援部隊、攻略部隊護衛隊。そして攻略部隊の占領隊――海軍陸戦隊に陸軍一木支隊。その攻略部隊を支援する航空隊。
軍の先を行く潜水艦による先遣部隊。
ここまでがミッドウェー。アリューシャンには第五艦隊基幹の北方部隊が向かう。大陸の第三艦隊、南遣艦隊以外、海軍の総動員といったきらいがある。
「北方部隊は、ミッドウェー作戦の陽動、保険の意味もある」
富岡は言った。
「これだけの規模でミッドウェーに乗り込んでも、米軍は空母部隊を出撃させてこないかもしれない。その時に、北の果てとはいえアリューシャンの米領が脅かされれば、何もしないわけにもいかないだろうということだ」
「戦力の分散にならなきゃいいんだけどな」
ボソリと神明は言った。富岡は眉をひそめる。
「何か思うところが?」
「突っ込もうと思えば色々あるのだろうが――」
神明は腕を組んだ。
「陽動を兼ねたアリューシャン方面への攻撃自体は、理解できる。米軍が北方から内地へ爆撃機を飛ばしてくる事態を避けるため、前線を押し上げて哨戒範囲を伸ばそうというのだろう」
そのための兵站や戦力の派遣、その維持など、思うところは多々ある。だが神明も、対米戦の中に、北方進攻――アラスカ戦線の構築を目論んでいたので、その布石を連合艦隊がやってくれるというのなら文句はない。
「ミッドウェーに、戦艦部隊の第一艦隊が出張るのも、まあわかる。米軍に日本が本気であるというのを知らしめる。これだけの大部隊を前に、決戦の雰囲気を醸し出して米艦隊を誘い出して叩こうというのだろう」
アメリカ世論としても、日本が大艦隊を繰り出してきたのに、米海軍が反撃もせず逃げるというのは受け入れがたい。珊瑚海海戦で勝利し、日本軍残党を追撃中なんて、調子のいいプロパガンダをやったばかりだからなおのことだろう。あの勝利報道の後で、何故戦わない、である。
「ただ……燃料だな」
「ああ」
富岡も机に肘をついて深刻ぶる。
「これだけの艦艇を動かして、燃料の消費もまた大きい。連合艦隊の方針は短期決戦だが、それで終わるなら、この消費も許容されるが……」
「それはないだろうな」
神明ははっきり言った。
「何もかも上手くいけば、米国民の士気に影響は与えられるだろうが、消費に対して戦果が見合うかと言われると、首をかしげるところではある」
「うむ……」
「こんなことなら、連合艦隊に転移連絡網のことをもっと推しておくべきだった」
そうすれば道中燃料の節約にもなっただろうに。特破隊も前線での活動も長く、神明自身多忙であったこともあるが。
「それで思い出した。神明君、ちょっと特破で、MI作戦のフォローをしてくれないだろうか?」
「これだけの戦力を投じていてか?」
まともにやれば、まず負けるとも思えないが。
「連合艦隊司令部はやる気だが、実際に動く部隊で、準備を含めて時間が足りないという話が多くてね、ちょっと心配なんだよ」
富岡は小首をかしげた。
「作戦通りに進めばいいのだが、どうも全体的に遅れがちな空気がある。特に潜水艦部隊である先遣隊とか。第二次K作戦というのも実施予定なんだがどうにもね。……その辺り、特破隊で手伝ってやれないだろうか?」




