第4話 100の心臓
「……行こうか。ここが何なのか、確かめないと」
越野くんの言葉に頷き、私は一歩、教室の外へ踏み出した。廊下はどこまでも青白くて、学校なのに学校じゃないみたいで、ちょっと不気味だ。
数歩歩いたところで、背後の教室から声が響いた。 それも、一つじゃない。
「え、ちょっと待って!」
「なになに、ここ!?」
……誰か、いる。 私と越野くんは顔を見合わせ、急いで教室へ引き返した。
「……えっ?」
ドアを開けた瞬間、私は自分の目を疑った。さっきまで二人きりだったはずの教室に、見知らぬ人たちが溢れていたのだ。全部で五人。みんなパニックになってるみたいで、お互いに微妙な距離をとっている。
一気に増えた。この子たちも、私みたいに迷い込んだのかな
真っ先に目についたのは、制服を可愛く着崩したギャルの子。その隣には金髪でピアスが光るチャラそうな男の子。あとは、セーラー服をボーイッシュに着こなした、少しがさつそうな女の子。
そして、窓際に一人。 ハッと息を呑むほど綺麗な女の子がいた。長い黒髪に大きな目。モデルさんみたいに細くて、見惚れるくらい圧倒的な美少女だ。
「え、待って、ここマジでどこ!? ウケるんだけど!」
「ちょ、こないでよ! 男子がこんなとこにいるとか聞いてないし!」
女子たちの不安な叫びが、狭い教室に響く。 私も何か言わなきゃ、と思ったけれど、初対面の、しかもこんなにキャラの濃い人たちを前にすると、つい言葉が詰まってしまう。
「落ち着いて。僕たちは一日前にここに来たんだ。全部はわからないけど、少しだけなら事情がわかるから」
越野くんが、いつもの穏やかな声で話し出した。その落ち着いたトーンに安心したのか、五人は少しずつ、硬く閉ざしていた心を開き始めた。
金髪の男の子は、斎藤渚。ギャルの子は、吉田ゆず。女子校ノリで明るいのは、沼野ゆか。そして、あの綺麗な子は、橋口雪といった。
「私は、綾瀬紬です。えーと……最近はK-POPとかをよく聴きます」
とりあえず、みんなが引かないくらいの無難な自己紹介を済ませる。 これからどうするかを話し合い始めた、その時だった。
突如、不気味な音楽が爆音で鳴り響いた。 運動会の定番曲天国と地獄。明るいはずの曲なのに、この部屋で聞くと、なんだか追い詰められているみたいで耳を塞ぎたくなる。そして、音楽はピタリと止まった。
「な、なに……?」
辺りを見回すと、さっきまではなかった文字が黒板に刻まれていた。
【ミッション:目の前のものに対し、その起こった出来事の真実のみを述べよ】 ※嘘をつく、あるいは回答を拒否するたびに、ハートが消滅します。
ハート? 疑問が頭をかすめる。ここは死ぬような場所じゃないはずだ。昨日、私はあんなところから飛び降りて、それでもこうして生きているんだから。
「全員、揃いましたね」
スピーカーから響く、冷たい放送。同時に、私たちの左胸のあたりに、淡いピンク色の光が灯った。
「なっ……何これ!? 数字!?」
吉田さんが叫ぶ。見ると、全員の胸元に100という数字が浮かび上がっていた。
「あなたたちに100個のハートを授けます。これは、あなたの心の命の数です」
「は? 意味わかんないんだけど」
渚くんが鼻で笑った瞬間、最初のターゲットが指定された。
「一番手、越野。机の上を見なさい
全員の視線が、越野くんの机に集中する。 そこには、いつの間にかある物が置かれていた。それを見た瞬間、越野くんの顔から、さぁっと血の気が引いていくのがわかった。
「……っ」
彼は青ざめた唇を固く結び、その思い出の品から逃げるように視線を逸らした。 手が、微かに震えている。あんなに落ち着いていた彼が、あからさまに動揺している。
「……知らない」
絞り出すような拒絶。その直後、審判が下った。
「不正解。誠実さが足りません」
ドクンッ!!
「うああぁっ……!」
越野くんが胸を押さえ、その場に膝をつく。彼の胸の数字が、100から99へ。 たった1。けれど、その1を削り取られた痛みは、越野くんを苦痛で歪ませるには十分すぎた。
「越野くん!」
駆け寄ろうとした私の胸も、衝撃でズキリと疼いた。 彼の痛みは、彼だけのものだ。でも、それを見ていることしかできない怖さが、私の心も刺した。
「嘘……これ、現実じゃないはずなのに…」
恐怖に震え、固まる雪さんやゆずさん。
……これが、私たちが空の教室で受けた、最初の洗礼だった。
辻褄合わないとこや違和感があるとこがあったら本当にすみません!ちょくちょく直していくつもりです!ぜひ温かい目で見てくれたら幸いです。




