第十七話
私は部屋から出て、ドリンクバーのところへ向かう。
心臓がバクバクして、まるでビートを強く刻んでいるみたい。
踊り場みたいなところで葉山くんはボーッと座り、天井を眺めていた。
「葉山くん」
私が声をかけると驚いてこちらを見る。
「あっ飲み物取りに来たの? 俺はもう行くから」
あっまた避けられてる、そう思って咄嗟に腕を掴む。
「違うの。葉山くんと話したかったから」
葉山くんの腕を掴んでいる手が震える。
でもやんわり振りほどかれ
「俺はないから」
冷たい目で見下される。
初めて見る表情でビクッとなり、怖さで後退りしそうに。
「私、何しちゃった?」
唇を噛み締め、震えて泣きそうになるのを我慢しながら目線を合わせる。
「……っ、別にない」
葉山くんは一度目を見開いた後、目線を思いっきり逸らされる。
「じゃあどうして」
「俺の勝手だろ」
冷たい声なのに目線が合わないから、本心なのかわからない。
なんとなく葉山くんも震えている気がする。
だからずっと引っかかってたことを聞くことに。
「高野くんと何かあった?」
私の言葉に葉山くんは勢い良く振り向く。
「あいつとまた会った?!」
鬼の形相とでも言うかのような怖い顔で聞いてくるから、驚いてビクビクしながら手を握りしめ首を横に振る。
「あっごめん」
私を怖がらせたことに気づいたのか、葉山くんの表情がパッと変わり、罰が悪そう。
片手で少し頭を抱えている。
私は軽く息を整える。
「高野くんとは会ってない。でも、菜月、加原菜月には会ったよ」
「は……?」
信じられないとでも言うかのような顔をしている。
「な、んで……」
「ごめんなさい。でも葉山くんと菜月のこと知りたかったから」
勝手なことして悪いってわかってる。
葉山くんのこと傷つけているってわかってる。
でも――
「なにやってんだよ!」
大きい声で言われてビクッとなる。
思ったより大きい声が出て、葉山くん自身もハッとして驚いたみたい。
お店の中だと改めて気づき、声のトーンを落とす。
「この件からは手を引いて」
いつもより少し低く、真面目な声で言うから一瞬怯む。
私は首を横に振る。
「引かない」
葉山くんは少しムッとする。
「関係ないだろ? 俺が自分でどうにかするから放っといてくれ」
「嫌」
駄々っ子みたいだ。
「……っ、俺がなんのためにっ」
固く握った拳を自分の足に叩きつけている。
その姿に心が叩きつけられた気分だ。
「勝手にしたことはごめんなさい。でも菜月に葉山くんと高野くんの話ししたら……」
「は? 加原に話したの?」
どんどん葉山くんの顔が険しくなる。
怯んじゃだめだ。
「うん。二人が仲違いしているかもって話したら、菜月が高野くんと話してみるって」
「……っ、大貴も知ってんのかよ」
ハーっと大きい溜息をついて、頭を抱えている。
手の震えが益々強くなる。
でもちゃんと知りたい。
右腕の震えを左手で抑える。
「そっそれで」
「……俺とはもう関らないで。こうやって二人で話すこともしたくない」
本気で怒っているのがわかる。
目つきが、声が、それを物語っている。
「……理由を、教えて」
今にも零れそうな涙を目に溜めながら、真っ直ぐ葉山くんを見る。
泣きたくなんかない。
自分がやったことなのだから。
葉山くんが息を呑んだのが分かった。
「……っ、俺は星名とはもう仲良くしない」
その言葉を残していなくなろうとする。
「待って」
また腕を掴もうとするけど、掴めなくて。
「旭くん!」
私の言葉に体がビクッとなり、一度止まるが、早足でいなくなってしまった。
涙でぐちゃぐちゃになって、うまく前が見えない。
どうして話してくれないの。
どうしてあの時と同じ言葉を言うの。
どうして――あんなに辛そうな顔と声で言うの。
旭くんがわからない。
涙が次から次へと止めどなく溢れてくる。
拒絶されることなんて慣れていたのに、あの言葉だって初めてじゃないのに、直接言われたことで心が抉られてしまう。
こうなるかもってわかってたのに、私には覚悟が足りなかったんだ。
「旭くん」
今はその言葉しか出てこない。
少ししてから咲乃と玲奈が探しに来てくれて、泣きじゃくる私を見て、抱きしめてくれた。
葉山くんが四人に声をかけて、ごめんと言って帰って行ったらしい。
ごめんは私の方なのに。
皆が協力してくれたのに台無しにした。
そして旭くんをまた傷つけた。
ごめんなさい。
私は間違えてばかりだ。
部屋に戻ると、佐伯くんが待っていてくれていた。
ごめんなさいと謝ると、大丈夫だよって言ってくれて、また泣きそうになる。
戸川くんは葉山くんを追いかけてくれたみたいで。
私のせいで皆を振り回してしまった。
ぎこちない雰囲気のまま、四人で駅まで歩く。
別れるときに咲乃と玲奈がギューってしてくれて、頑張って笑顔を作る。
佐伯くんが「旭のことは俺達に一旦任せて、星名さんは自分のこと考えて」と胸に拳を当てて力強く言うから、「お願いします」と頭を下げる。
ボーッしていると目の前に電車がやってきて、空いているところに座る。
あんなに怒る葉山くんを初めて見た。
きっと一番触れてほしくなかったことに、私はまたお構いなしに触れてしまったからだ。
外の景色がいつもと違う気がして、見ることができない。
まるで私の心のようだ。




