45話 真実の愛を応援しています
「ここは非公式の私的な場です」
ユベール様は苦笑しながら言いました。
「対等に話し合うことをルシアン殿下も納得してここにおられるはずです」
ユベール様は淡々と説明しました。
「席順を見てもそれは明らかです。不敬だというなら、ルシアン殿下より上座に座っているセリーヌ嬢がまず不敬でしょう」
奥の席が上座です。
セリーヌ様はルシアン殿下より奥の席に座っておられます。
これはルシアン殿下がセリーヌ様をエスコートして、淑女優先の慣習に従った結果です。
もし公式な場であれば公爵令嬢が王太子より上座に座ることは許されません。
「カフェでの雑談に王権を持ち出すのは、不粋というものです」
ルシアン殿下はユベール様の言葉に不愉快そうに眉を歪めました。
しかし言い返さずに矛を収めました。
「ふん……。冗談だ」
(私とユベール様と何が違うのかしら)
私の言葉はルシアン殿下には通じないのに、ユベール様の言葉は通じています。
(もしかして……話の内容は関係なくて、ユベール様が男性だから? いいえ、もしかしたら人数?)
以前、試験結果について、私がルシアン殿下に不正を疑われたとき。
セリーヌ様と連れ立っていたルシアン殿下は、私の言葉に納得せず、私に加勢したユベール様にも言い返していました。
その時点では二対二。
そこにセルネ男爵令息マルク様が私たちに加勢して、三対二になったら、ルシアン殿下は矛を収めて去りました。
そして今、私たちは四人。
ルシアン殿下の味方のはずのセリーヌ様は表情を曇らせていて無言なので、戦線離脱しているような状況です。
この状況で私とルシアン殿下の言い合いに、ユベール様が私に加勢したので、二対一になりました。
(人数なの? ルシアン殿下は数の力に弱いの?)
その時々の数の力に流されて右往左往するようでは、ますます国王には不向きです。
数に力があることは最初から解っているのですから、勝つためには、最初から数は用意しておくものです。
多数を扇動して、自陣営の数を増やして状況を有利にするくらいのこと、セリーヌ様ですら学院で普通にやっていた常套手段です。
(いいえ、違うわ。ルシアン殿下は算数ができないもの。……野性の勘で空気を読んでいるのかしら?)
大草原で自由に生きる野性の勘があれば、算数は不用なのかもしれません。
(でもルシアン殿下を悪魔憑きだと噂する人の数はとても多いのだけれど……。具体的な形として目に見えることのない、情報としての数字は理解できないのかしら。そういえば学の無い平民は、手にした金貨の枚数は実感として解っても、領収証に書かれている数字は形のない概念だから解らないと聞いたことがあるわ)
ルシアン殿下の説得は、私には永遠に無理なような気がしてきました。
目に見える最悪の事態が起こるまで、ルシアン殿下は走り続けるのでしょうか。
「セリーヌ様、私はお二人をお救いしたいのです」
私はセリーヌ様に言いました。
「駆け落ちなさりたいなら協力いたしますわ」
「……っ!」
「駆け落ちだと?!」
セリーヌ様とルシアン殿下が驚愕の表情で私を見ました。
「お二人がご結婚なさるためには、もう駆け落ちするしか方法がないような気がするのです」
私は真心をこめて、お二人に協力を申し出ました。
「もしお二人が真実の愛のために駆け落ちなさりたいなら、私はいつでも喜んで助力いたします」
呆気に取られたような顔をしているルシアン殿下とセリーヌ様に、私は正直な気持ちを告白しました。
「私は真実の愛を応援しています」




