38話 アメリの協力
「フェリシア様、ユベール様、少々お時間をいただきたいのですが、よろしいでしょうか」
アメリ様は、私たちにそう言いました。
私はテーブルに同席しているユベール様に了承をとりました。
「私はかまいませんが、ユベール様は?」
「はい、かまいません」
ユベール様が快く了承してくださったので、私はアメリ様にテーブルの席を勧めました。
「アメリ様、どうぞお掛けになって」
「ご厚意に感謝いたします」
アメリ様は私たちのテーブルの席につきました。
「フェリシア嬢はアメリ嬢と親交がおありだったのですね。知りませんでした」
少し意外そうにそう言ったユベール様に、私とアメリ様は説明しました。
「アメリ様とは何回かお話したことがありましたの」
「フェリシア様には以前、政治学と経済学の有益な図書をご紹介いただき大変助かりました」
私たちは当たり障りのない雑談から始めましたが、やがてアメリ様は本題に入られました。
「私はユベール様とフェリシア様を支持しております。我がエルマン伯爵家もです。何かありましたら、何なりとおっしゃってください。お力になります」
アメリ様のこの言葉は、ユベール様を王太子とするヴェルニエ公爵派閥に属したいという意味でしょうか。
なかなか大胆なご令嬢です。
大人たちはどの派閥に付くべきか考えていることと思いますが、学生の身で政治活動をする者はほとんどいません。
私とユベール様も学生ですが、ユベール様は王太子候補として、私は王太子妃候補として、ルシアン殿下の廃太子問題には当事者として否応なく関わっています。
ですが当時者ではなく、まだ学生の身である者たちにとっては、遠い世界の話題です。
当事者であるルシアン殿下ですら、自分が渦中にいることに気付いているのか、いないのか、いつも通りの学生生活を送っているくらいです。
「アメリ様のお気持ち嬉しく思います」
おそらくルシアン殿下の廃太子問題であろうと思いますが、念のため、私はアメリ様の真意を探ってみることにしました。
「早速ですが、ご相談したいことがあるのです。実は、ルシアン殿下は悪魔憑きではないかと思うのです」
「……」
アメリ様はキョトンとなさいました。
私は更に言いました。
「それで私は、教会に告発しようと思っておりますの」
「フェリシア嬢、それはさすがに、アメリ嬢に言うことではないでしょう」
ユベール様が戸惑いの表情で私に言いました。
「王家の悪口が大好物なうちの母はともかく。そんな話を聞かされたら、大抵の者は困惑するでしょう」
ユベール様のこういう歯に衣着せぬ物言いが、私は好きです。
お話をしていてとても楽しいです。
「ユベール様、私はアメリ様のご意見がお聞きしたいと思いましたの」
「はあ、しかし……」
ユベール様は微妙なお顔をなさいましたが、私はアメリ様に向き直ってもう一度問い掛けました。
「私はルシアン殿下には悪魔が憑いていると思うのですけれど、アメリ様はどう思われますか?」
アメリ様は眉間にしわを刻んでしばし考え込みましたが、やがて、何やら含みのある笑みを浮かべました。
そして顔を上げると私に言いました。
「そういうことですか。解りました、フェリシア様。私もルシアン殿下には悪魔が憑いていると思います」
アメリ様は、少し悪い顔で微笑みました。
「私の実家は商会を営んでおります」
ハワード商会のことですね。
ハワード商会の次期会長の娘であるアメリ様は、エルマン伯爵夫妻の実の孫で、エルマン伯爵家の養女となったお方です。
「ルシアン殿下が悪魔憑きであることを、商会の伝手を使って市井に広めてご覧にいれましょう」
え……?
まさかアメリ様がそこまでの決意だったとは……。
「アメリ様、そこまでしてくださるのですか?」
「はい」
「よろしいのですか?」
「フェリシア様の御為であれば」
アメリ様のその言葉に、ユベール様が太陽のように微笑みました。
「アメリ嬢、素晴らしい心がけです。アメリ嬢がそこまでの人物であったとは知らず、今まで失礼しました。これからはぜひ仲良くして欲しい」
「ユベール様、ありがたき幸せにございます」
ユベール様とアメリ様が打ち解けて仲良くなれたことは良いことです。
ハワード商会に協力してもらえることも良いことです。
良いことづくしということで、結果は良しとしましょうか。




