37話 教会の闇
新しい一週間が始まりました。
「ユベール様、お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ、私も今来たところです」
私は学院ではいつも、ユベール様とはお昼休憩に待ち合わせをして一緒に時を過ごしています。
午前の授業が終わった後、私は食堂でユベール様と合流しました。
「実はフェリシア嬢に報告があります」
ユベール様は少し声を潜めて言いました。
「詳しいことは食事の後で。カフェテラスでお話します」
学院の食堂は長テーブルが並んでいて、生徒たちは空いている席に同席をして食事をします。
そのため密談は難しいのです。
一方、カフェテラスには小さな丸テーブルがいくつもあり、少人数で固まって話ができるので、声をひそめれば密談もできます。
(内密の報告があるということね)
◆
私とユベール様は食事を終えると、早速、カフェテラスへと移動しました。
なるべく人がまばらな場所のテーブルを選びました。
「ルシアン殿下のことで、密偵から報告がありました」
ユベール様は小声で話し始めました。
「ルシアン殿下はフェリシア嬢が悪魔憑きであると告発するために、大聖堂へ行ったそうです」
王都の大聖堂は、王都で最も高位の教会で、大司教様がいらっしゃいます。
「まあ!」
私はわくわくして来ました。
撃退の手段はいくつか考えています。
「大司教様に告発したのね」
「いいえ、門前払いだったようです」
「え……?」
肩透かしをくらい、私は一瞬、呆けてしまいました。
ですがすぐに思い当たることがあって、私はユベール様に質問しました。
「まさか、ルシアン殿下は、手ぶらで大聖堂へ行ったのですか?」
「その、まさかです」
「侍従たちは、寄付金を手配しなかったのですか?!」
教会は、慈善事業をしているわけではありません。
表向きには慈愛と慈善の看板を掲げ、清らかなふりをしていますが、蓋を開ければ真っ黒な利権まみれです。
教会の威光は政治権力ですので、教会は野心家が集う魔窟なのです。
学の無い平民たちや、世間知らずのお花畑の令嬢たちであれば、教会は慈悲深い聖職者たちが住む神の家だなんて、そんな子供騙しの美辞麗句を信じているかもしれません。
ですが実際には真っ黒な利権団体ですので、教会に融通を利かせてもらいたいなら、手土産を持っていくのは貴族の常識です。
手土産とは、平たく言えば賄賂です。
「教会の仕組みを教える者がいなかったのか、寄付金を準備して貰えなかったのか、そこまでは解りませんが。解っていることは、ルシアン殿下は手ぶらで大聖堂へ行き、適当に追い返されたということです」
「正義感だけで、教会が動いてくれると思ったのかしら」
私が首を傾げると、ユベール様は小さく肩を窄めました。
「まあ、ルシアン殿下ですから……」
「そうですね、ルシアン殿下ですものね……」
ヴェルニエ公爵夫人が主催する黒百合の会の面々は、もちろん、手土産を持って大聖堂に足を運ぶことでしょう。
お茶会の日に、皆様とても覇気をみなぎらせていらっしゃったので、すでに大聖堂へ行かれたお方もいるかもしれません。
私も今週末の休日には、手土産を持って大聖堂へ行く予定です。
王妃様とルシアン殿下が悪魔憑きであると告発するために。
「教会にお願いをする方法について、セリーヌ様は、ルシアン殿下に助言なさらなかったのかしら?」
私がそう呟くと、ユベール様は苦笑いをしました。
「悪魔憑きだなどという話はさすがに馬鹿々々しいですから、セリーヌ嬢も助言する気が失せたのではないでしょうか」
「ルシアン殿下の素晴らしい名案ですのに」
「ルシアン殿下は道化師としては優秀なお方ですので、そういう意味では名案であったと思います」
「いえ、本当にあれは名案なのです。何とかとハサミは使い様と言うではありませんか」
「さすがはフェリシア嬢。深いですね」
私とユベール様が語らっていると、私たちのテーブルに近付いて来た者がいました。
「恐れ入ります……」
「あら、アメリ様、お久しぶりです」
それは前回の試験で学年二位だったエルマン伯爵令嬢アメリ様でした。




