34話 黒百合の会(5)
「あの女が王家の行事に参加して恥をかかないように、私が世話をしてあげたの。婚約式のときのような恥をかかないためよ……。まさか作法教育から必要だとは思わなかったから……。場に合ったドレスやアクセサリーを選んで、きちんと支度ができるようにアドバイスをしたの」
私は固唾を飲んで王妹殿下のお話に耳を傾けました。
王妃様が何かやらかしたのだろうことは予想ができるのでドキドキしてしまいます。
「でもあの女は、私のアドバイス通りのドレスを仕立てないの。何かしら勝手に余計なアイディアを盛り込むのよ。それで失敗するの」
王妹殿下のそのお話に、サンド男爵夫人は呆れ顔で呟きました。
「他人のドレスはそっくり真似するのに……。言われたことは守らないのよね」
「そう、不思議な習性ですわね。私が場にふさわしいドレスになるようにチェックして仕立て屋に注文しても、その後であの女はいつも勝手なオーダーを追加したの。だから出来上がったドレスには何かしら大げさで下品な装飾がぶら下がっていたの。そのみっともないドレスについて誰かに注意されると『ルイーズ様のアドバイスでこうしました』って、私のせいにしたのよ」
ルイーズ様というのは王妹殿下のお名前です。
「そのせいで、私が王妃様に恥をかかせるためにわざとみっともないドレスを作らせているという悪評が立ったの。陛下が私を叱りつけに来たわ。どうして意地悪をするんだ、とね」
王妹殿下は、おどけるようにして肩を窄めました。
「だから私は、もう王妃様のお世話はしませんと陛下に言ってやって、王妃様のお世話係をやめたの。そしたら今度は、私が王妃様を無視して冷たく当たっているという悪評が立ったわ……」
「おいたわしゅうございます……」
「フェリシアさん、まだ終わりじゃないのよ? 真骨頂はこれからよ」
「え……」
「あの女、私のドレスのデザインを侍女に探らせて、真似したの!」
出ました。
王妃様お得意の、誰かと同じデザインのドレス。
「王妹殿下のドレスのデザインを探るなんて、そのような手癖の悪い侍女がいたのですか?」
「あの女の希望で、あの女の親戚連中が侍女として雇われていたの。そいつらの仕業よ」
王妹殿下は憎々し気に表情を歪めました。
「私の馬鹿兄があの女と結婚したせいで……」
馬鹿兄とは、王妹殿下の兄君であらせられる国王陛下のことです。
「馬鹿兄のせいで、あの女は王太子妃の身分を得てしまっていたの。王太子妃は、王女の私より身分が高かったの。後は解るわね……? 王太子妃に同じドレスをぶつけられたら、私が無礼を働いたことになる。あの女は私に同じドレスをぶつけて、私を見下して、勝ち誇るような顔をしていたわ。忌々しい……」
「彼女は注意をされると、すぐに逆恨みをして、同じドレスをぶつけてきたの」
国王陛下と王妹殿下の従姉妹君が、眉を下げて言いました。
「彼女は気に入らないことがあると、私たちと同じドレスを着て出て来て、私たちに恥をかかせて仕返しをしたのよ」
王太子妃は女性王族の中で二番目に身分が高いですものね。
女性王族の中で一番身分が高い王妃とドレスがかぶらない限りは、王太子妃はほぼ無敵です。
「彼女はついに王妃になってしまいました。この国で一番身分の高い女性に……」
王妃様は、現在は王妃ですので無双状態です。
他の王族女性たちも暗い表情で心情を吐露されました。
「早く代替わりして欲しいです……」
「やはり身分の低い者を王家に入れてはいけなかったのよ」
「私たちとは価値観が違いますものね……」
(王妃様は、王家の中でも四方八方を敵に回しておいででしたのね……)
「侍女たちは王妃様をお止めしなかったのですか。侍女長を通じて、王妃様の暴挙を国王陛下に知らせることは出来なかったのでしょうか」
私がそう質問すると、王妹殿下はニヤリと笑いました。
「では次は王妃様付きの侍女の話を聞いてもらいましょう」
あ、侍女も何かされているのですね。
そういえば王妃様付きの侍女の入れ替わりが激しいという話を耳にしました。
「王妃様付きの侍女だった私たちは、その日、王妃様が主催なさるお茶会のために薔薇を花瓶に飾ったのです。珍しい色の薔薇でした……」
王妃様の侍女をしていたという夫人が語り始めました。
「珍しい色で……先王陛下が王宮の薔薇園で大切に育てていらっしゃる珍しい薔薇と同じ色でした。私たちは不安になり王妃様に確認をしたのです。先王陛下の薔薇ではないのかと。すると王妃様は、先王陛下からご許可をいただいて切り花にしたとおっしゃったのです。でも本当は無許可だったのです。それで先王陛下が薔薇園を荒らされたことをお怒りになると、王妃様は『侍女たちが勝手にやった』とおっしゃり、私たちに罪をなすりつけました。それで私たちは解雇され、実家は王宮から賠償金を請求されました」
「賠償金を?!」
私の実家は公爵家でしたので、さすがに軽んじられることありませんでしたが。
侍女たちは下位貴族だったので物申すことができず泣き寝入りしたようです。
「思い出すだけで腸が煮えくりかえります……」
元侍女の女性は、拳を握りしめました。




