23話 真実を求めて
――王立貴族学院。
「セリーヌ様、フェリシア様について、ルシアン殿下がおっしゃっていたことをどう思われまして?」
授業が始まる前の朝の時間。
他の生徒たちから距離をとった教室の隅で、ガイヤール辺境伯令嬢ブランシュは、ラルベル公爵令嬢セリーヌと小声で密談をしていた。
先週末。
ブランシュはセリーヌに、「フェリシア様の言い分は筋が通っています」と、自分の考えを話した。
王妃が王妃教育を利用してフェリシアに案を出させ、それを流用していたというフェリシアの話は信憑性があると。
しかしセリーヌはそれを信じず、「フェリシア様に言いくるめられたのですね」と決めつけた。
そしてセリーヌは、ルシアン王子にそれを相談した。
ルシアン王子はブランシュに「フェリシアに洗脳されたな」「目を覚まさせてやる」と言い、ブランシュとセリーヌを連れてフェリシアに突撃した。
そしてルシアン王子は、理路整然と反論するフェリシアにやり込められ、算数ができない残念な頭脳を披露した。
ルシアン王子の功績であるとされている数々の政策は、算数ができないルシアン王子の頭から出たものではない可能性が高まった。
フェリシアは皮肉のつもりだったのか、おかしな子供言葉を使ってルシアン王子を諭そうとした。
そんなフェリシアをルシアン王子は「悪魔憑き」だと指摘した。
それが先週末のことだ。
翌日から二日間は学院は休日だった。
その後どうなったのか、休日が明けた今日、学院に登校したブランシュはセリーヌに探りを入れた。
「ルシアン殿下は本当にフェリシア様の悪魔祓いをするおつもりでしょうか」
「……」
ブランシュの質問に、セリーヌは無言のまま考え込んだ。
「……フェリシア様が悪魔憑きでなかったら、フェリシア様が言っていたことが真実だったということになるのかもしれないわね……」
「恐れながら、私はルシアン殿下よりも、フェリシア様のお話のほうが筋が通っているように思います」
「……だとしたら、私たちはとんでもない間違いをしていたことになる……」
セリーヌは顔色を悪くした。
「我がラルベル公爵領を救った復興案を出した恩人は、フェリシア様だったということになる……。その恩人に、私は暴言を吐いてしまったことになる……」
「それは……私も同様です。実は、私はそのことで、先週フェリシア様に謝罪をしたのです」
ブランシュがそう告白すると、セリーヌは少し驚いたように目を見開いた。
「そ、それで、フェリシア様は、あなたの謝罪を受け入れたの?」
セリーヌのその問いかけに、ブランシュは眉を歪めて悲愴な表情を浮かべた。
「痛烈な皮肉で返されてしまいました」
ブランシュは知らない。
フェリシアは本心からブランシュを『恩人』と称えていたことを。
しかし後ろめたいことがあったブランシュには、フェリシアのその言葉は痛烈な皮肉にしか聞こえなかった。
「セリーヌ様、もしフェリシア様の言うとおり、フェリシア様の案をルシアン殿下が流用していたとしたら……」
セリーヌはいつも政治家としてのルシアン王子の手腕を称えていた。
優れた政治家としてのルシアン王子に、セリーヌは心酔していた。
それを知るブランシュは、神妙な顔で質問した。
「ルシアン殿下の案として発表されていたものが、本当はフェリシア様の案だったとしたら、どうなさいますか?」
「……」
セリーヌは目を伏せて押し黙った。
「……」
ブランシュはセリーヌの回答を待った。
教室の隅で沈黙している二人の間に、他の生徒たちの雑談がさざ波のように静かに押し寄せた。
――アメリ様、フェリシア様の成績をどう思いまして?!
――急に成績が上がるなんて、絶対におかしいですわ!
相も変わらず、フェリシアを悪し様に言う女生徒たちの声が耳に入った。
フェリシアが不出来で王太子妃にふさわしくないという批判は、元はセリーヌが言い始めたものだった。
だがルシアン王子がそれを肯定したため、フェリシア批判は王子公認となり一気に広まった。
特に、セリーヌと同じくルシアン王子の婚約者という地位にいるフェリシアに嫉妬心のある者や、高位貴族の令嬢に嫉妬心のある下位貴族の娘たちは、こぞってフェリシアを批判した。
しかしそんな話題に興味を示さない者たちもいた。
――フェリシア様がアメリ様より高得点を取るなんて有り得ませんわ。
――フェリシア様は百位より下でしたものね。
――アメリ様は納得していらっしゃいますの?
今、下位貴族の令嬢たちにフェリシアの成績について質問されている伯爵令嬢アメリ・エルマンも、フェリシアへの批判に無関心だった一人だ。
アメリ・エルマンは試験では常に三位から五位の成績をキープしている才女だった。
女生徒の中ではトップの頭脳だ。
今回の試験では、ユベールが四位に転落したことでアメリは次席に繰り上がっている。
――私には関係のないことです。
不満顔の令嬢たちに、アメリ・エルマンは素っ気なく応えている。
「アメリ様に意見をお聞きしてみましょう」
答えを出せずにそれまで口を閉ざしていたセリーヌは、顔を上げた。




