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episode 65 言ってはならない単語(ワード)




「カレン……あのバカ」


俺は今、苦虫でも噛み潰したような表情をしているのだろうか。いや、というより実際に奥歯を噛み絞めているのだが。




怯えた会長の呟きは、しかし俺に納得と呆れを感じさせるには充分な内容だった。



カレン・ケイフォード。その名前には心当たりが有りすぎたのだ。

彼女はまさに美女。見た目は麗しく、上品であり、そして内面までも思いやりがあり、優しいという性格。そんな自分に驕っているわけでもなく、おしとやかな振る舞いで昔から男女共に人気があったものだ。


彼女の周りには自然と人が集まる。ある種のカリスマ性を持った女性。



だが、それは皆表の面に惹かれているだけにすぎない。



その表面に反して、彼女の裏は黒い。腹黒いと言った方が正しいのかもしれない。


表現するならば策士。

まさにこの言葉が当てはまる。


自分は手を出さず、ちょっと歯車を動かして自分の思い通りにことを運ばせようとする女なのだ。カレン・ケイフォードという女は。

しかもたちが悪いことにそんな素振りを見せようとはせずに。


と、言うのも、生まれつき人を惹きつける才と容姿に恵まれていたため、自然とそれを利用することを覚えたようなのだ。それも小学校に上がる年代から。



常に猫を被り、相手を惑わせ自分の掌で弄ぶ。そんな彼女に俺も何回痛い目にあったことか。思い出しただけで背筋に寒気が走る。




それはともかくとして、だ。



「あのバカ娘の頼みだからって、なんで俺なんかを?それじゃ、さっきのと変わらないと思うのですが」



口調を戻して再度尋ねかける。さっきまでの張り詰めた空気は一気に、霧散した。


今の生徒会の雰囲気を守りたいならば、誰かに勧められては意味が無い。と、思ったのだが。


俺の態度の変化に困惑の表情を浮かべる生徒会メンバーだが、そんな中代表して秋空会長が答える。



「バカ娘って……まあ、カレンさんにお願いされたっていうのもあるけど、別にそれだけが理由じゃないよ?」


「と、言いますと?」


首を傾げる俺。そんな態度に完全に機嫌が戻ったと思ったのか、先程の調子で会長はニコニコ笑い、言葉を漏らす。



「前々からあんな時期に転校してきた君に興味があっし、それにね――」



ニコニコと、絶え間ない微笑み。安心しきった笑み。


――そして、油断の笑み。






「“英雄”。君のことについて知りたいと思ってたの」





――だからだろう。彼女が同じ轍を踏んでしまったのは。


その言葉と同時に、俺は再び無言で踵を返す。


いきなりの俺の行動に意表を付かれたのか、一瞬呆然とした会長だったが、すぐさま引き止めようと駆け寄ってくる。



「ま、待って!まだ話は終わってないよ!聞きたいことはたくさん――」


「もういいです。もういいんですよ」


漏れ出た声音はずいぶん冷めた物だった。自分でもそう思う。


止まらない俺の脚をどう受け取ったのか、会長は慌てて声を発っした。





「そ、それにね!あの大戦、“第6次世界大戦”について詳しく――」




「黙れッ!!」







それを聞いた瞬間、怒鳴り声と共に右手に銃型の補助武装を呼び出し会長の額に突きつけていた。



聞きたくなかった、言ってはならない単語(ワード)



胸の内からフツフツとどす黒い何かが沸き起こる。


自分の感情がうまく制御できない。


既に頭の中は真っ白になってしまっていた。



突き付けられた会長の方は、その愛らしい顔を蒼白に染め上げ、小刻みに身体を震わせている。しかし、それを認識できても理解することはできていない。



「さっきから人の心に土足で踏み込もうとして、生徒会長ってのは随分と不躾な人なんですね」


「か、会――!!」


「動くなッ」


刹那、生徒会メンバーの周りを取り囲むように無数の拳銃が展開される。

それに驚愕したように、谷崎先輩が叫び声のようなものを上げた。


「た、多重同時展開!?ウソ!?」


「これが、大戦の“英雄”……!」


唸るように三七式先輩が呟く。(尚、多重同時展開とは、その名の通り複数の補助武装を同時に展開する技術のことを指す)


完全に動けない。

動けば蜂の巣になるこの状況では、不用意な発言でさえ命取りとなる。


だから今は誰も喋らない。

そんな中発せられる俺の声だけは、張り詰めた室内によく響く。



「“英雄”……ハッ!何も知らないくせに、笑わせないでくださいよ」



怒りのこもった俺の声に、誰も何も言わない。


自嘲的な言葉に、誰も何も返してこない。



少しの虚しさと、怒りと、悲しみが混ざり合う。




「英雄、英雄、英雄、英雄……。あんたたちは俺が何をしたか知ってるんですか?知っていて言ってるんですか?」



尋ねるもそこにあるのは沈黙だけ。


沈黙が、答えだと言うように。



「――俺は、大量殺戮者だ。それは俺が犯した罪なんだよ。なのに、勝手に“英雄”とかいう言葉で正当化させようとしてんじゃねぇよッ!!」



放たれた怒号は室内を叩くように響き渡った。

身を竦ませるメンバーの中1人、三七式先輩だけが口を開く。



「……秋空が、いや、俺もお前の気に触るようなことを言ってしまったようだな。許して、ほしい」



途切れ途切れの謝罪のあと、三七式先輩は静かに頭を下げた。それに秋空先輩も続いて謝罪を述べ、頭を下げる。


ただ、俺はそれを冷めた目で見るだけ。



「……無知って、幸せですよね。“あの戦争”に立ち会っていたなら、あんたたちにもわかるでしょうね。――この気持ちが」



まるで独り言のように呟かれた言葉と同時に、銃口を降ろす。それが合図だったかのように、全ての拳銃が一斉に消え去った。



その現象を無感情に見届け、特に感情のこもっていない瞳でどこか遠くを眺める。


遠くて遠すぎる、過去の自分を振り返るように。



「1つだけ、あんたが知りたがってる“あの戦争”について教えてあげますよ」


「それは、もう……」



遥か遠くを眺めながら呟かれる俺の言葉に会長は泣きそうな声を上げ、頭を下げた状態で首を振る。



だが、俺は気にせず、自嘲的な笑みを浮かべたままその言葉を投げ放った。






「――俺はあの戦争で、仲間と、たった1人の家族を失ったんですよ」






投げ捨てた言葉を最後に、俺は生徒会室を後にした。



















読者の皆様にお知らせがあります。



その場の気分で書いてきていたこの作品ですが、こんなに長い話数になってきて、また沢山の読者様にめぐまれまして作者としても大変嬉しい限りです。



が、さすがに気分で書いてきたせいもあり、作者自身もどこまで設定を盛り込んだのかわからない有様でして((泣



そんなわけでありまして、読者様にもこの作品に大変多い疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。



ですので、この度は編集という形で全話整理していきたいと思っています。


なお、「あれ、なんでこんなこと書いてるんだ?」と思う箇所がかなりありますので、大幅な改定が予想されます。




いつもいつもご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。


また、「これってどうなの?」と思われることがありましたら、お手数ですがご報告頂けると幸いです。



次に投稿させて頂くのは一週間先ぐらいになるかもしれません。


その頃には『表と裏』と『今日も誰かが――』が書き終わるかと思いますので、3作品同時投稿という形になるかと思われます。


特に『表と裏』をご覧いただいている皆様。長らくお待たせして誠に申し訳ありません。



今後とも『犯罪者は英雄?』をよろしくお願い致します。





天川流。

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