episode 66 幻
すみません。
まだ全話編集終えてません……
一週間で終わらせるつもりでしたが、思ったよりもかかってしまっています。
ですので編集は終わり次第反映したいと思います。
それでは本編をどうぞ。
(やってしまった……)
頭を抱えたくなるような後悔に襲われながら、しかし必死に我慢して廊下を歩き続ける。
既に校舎内に人影は無く、静かな静寂と少しの寂しさを漂わせていた。それがまた、思考を再会させるきっかけとなる。
(さすがにあれは無いよなぁ。どうしたもんか……)
下駄箱から靴を出したと同時に溜め息を吐いた。
流石に銃口を向けるのは不味かっただろうか。
いや、不味いよなー。
一度考えが戻るともう止まらない。自責と後悔の波にさらわれ、俺の思考は沈みかけてしまっている。
怒鳴ったことはまあ、いいとしよう。流石にあれは誰でも怒っていいこと……のはず。
それよりも、だ。
(結局、最後はあんな捨て台詞を吐いてきてしまった……)
最早目も当てられない。
何を自分が被害者ぶっているのだろうか。
俺は被害者ではなく、加害者の側だというのに。
「結局は俺が一番、自分を正当化させたいだけだったのかな……」
校舎を出て、空を見上げながら呟く。
まだ昼過ぎの天気は、ところどころ浮き雲があるだけで日差しが眩しく、心に染みる。
「――あんたはどう思う?……カレン」
「あら、気付いていたの?」
背後に向けてそう問いかけると、思った通り返答があった。
振り向くと、正面玄関の扉に背をつけて立っている女性が1人。
「……隠し通すつもりも無かったくせに」
ジト目で睨むと、女性はその白い肌に微笑を浮かべる。どうやら肯定らしい。
女性にしては高身長。恐らく俺より少し低いぐらいだろう。しかし、そのプロポーションはまるで絵画から出てきたのような理想的な曲線を描いており、服から覗かせる肌は雪のように白い。
レイと同じ、絹のような長いブロンドヘアーに、トパーズのような金色の瞳。
顔の造形は、一流の人形師が何十年もの歳月をつぎ込んで完成させたような、端正な顔立ち。
女性としての美しさの頂点を具現化したような女性――カレン・ケイフォードは、その艶のある唇を動かし、言葉を紡ぐ。
「一応聞いておくけど、いつから?」
「生徒会室に入る直前。あんたが“上”に居たときだよ」
そう言って、人差し指を生徒開室の上――つまり、屋上へと向ける。
それを見たカレンは、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「嬉しい。見ない間に鈍ったのかと思ったけど、そう言う訳じゃなかったのね」
「――それよりも」
本当に嬉しそうな、しかし、その裏に何かがありそうな、そんな笑みを。
だが、対照的に俺は厳しい視線をカレンへと向けた。
「――なんで、教えた?」
主語の無いその言葉の意味を正確に理解したのか、一瞬だけその笑みが固まる。
そして、それを見逃すほど、俺は鈍くはない。
「俺を生徒会に入れるためだけに教えたってわけじゃないんだろ?何を企んでやがる」
睨みつけられながら、しかし平然とした態度でカレンは何事かを思案し始める。
その横顔は本当に絵画の様で、周りが霞んで見えるほど綺麗だった。
やがて、考えが纏まったのか、だが困ったような顔をしながら問いかけてくる。
「あなたが欲しいから、それじゃダメ?」
その言葉を聞いて、俺は「もういい」と吐き捨てて踵を返す。
イラついている。
踏みしめる脚には必要以上に力が込められ、手のひらはきつく握られていた。
そんな俺を止めるようなことはせず、再び問いかけるようにカレンは口を開く。
「悠希……あなたはまだ、人と関わるのが嫌?」
投げられた言葉に何も返さず、足を緩めない。
「あなたはまだ、自分が嫌い?」
再度の問い。
しかし、またも俺は答えない。
「復讐に彩られた人生で、あなたは満足なの?」
3度目にしてようやく脚を止める。
既に俺と彼女の距離は遠い。そのまま振り向かず、まるで独り言のように呟く。
「満足さ……俺は、あの時死んでいたはずだったんだから」
独り言。
そう、これは独り言だ。
故に答えなど求めていない。
振り向かずに放たれた言葉を最後に、俺は再び脚を進める。
「――それが、幻だったとしたら?」
だが、答えは返ってきた。
――それは、耳元で発せられた言葉。
反射的にバッと振り向くも、そこには既に誰の姿も無い。
先程まで絵画だと思っていた光景は今や存在せず、しかし風に運ばれて甘い香りが鼻腔を擽るのみ。だが、それを感じるよりも先程の言葉の意味を考えてしまう。
『――それが、幻だったとしたら?』
一体、彼女は何が幻だと言うのだろうか。
あれは夢でもなんでもなく、実際に起こった出来事だと言うのに。
だが、今となっては考えてもその真意を探ることはできない。
意味深な彼女の言葉と、胸を掠めた訳の分からない予感のような物を頭の隅に追いやり、止まってしまった足を再度動かす。
――一迅の風が、道の脇に備えられた木の葉を揺らしていた。
☆☆☆☆☆
第11高校、寮棟。
カレンとの会話のあと、まるで逃げるように自室の前まで帰ってきた。
付近には誰の姿も見られない。
てっきり部屋の前に待ち伏せがいるかもしれないと気を張っていたのだが、杞憂だったらしい。
(何びびってんだか……)
溜め息を吐いて鍵をドアに差し込む。
「……あれ?」
だが、鍵穴には思ったような手応えは無く、変わりにスカスカとした抵抗が返ってくるだけだった。
開いている。
「鍵、閉めてなかったか?」
てっきり、戸締まりはちゃんとしてきたつもりだったのだが、最後の最後で手抜かりがあったらしい。
別に盗られて困るものなど無いのだが、これからは気をつけることにしよう。
そう結論づけ、鍵を抜いてドアノブを回す。
――回してしまった。
部屋に一歩踏み込んだ瞬間、何者かに手首を掴まれ引き寄せられる。
あまりに予想外な出来事に一瞬呆然としてしまったが、身体は思いの外動いたらしい。
組み伏せられる寸前、掴まれた手を捻り上げ、そのまま足を払い、倒れた相手の身体の重心を踏みつけて抑え込む。
ここまで頭は働いていない。まさに反射的に身体が動いてしまった。
「い、いででででッ!!」
だから、襲いかかってきたのが知り合いだったということにも気付かなかった。
「……何やってんだ、ライラ?」
俺の足下で痛みに叫び声を上げているのは、クラスメートであり友人の黒崎ライラだった。
見知った相手だったことへの安心感か、それともイラつき混じりの八つ当たりか、自然と捻った手に力を入れてしまう。
「ちょッ!?それ以上はまずいって!!ギブギブギブぎゃぁああああ!!」
カキョッ、という気持ちのいい音と共に、俺の部屋に悲鳴が轟いたのだった。
……余談だが、近くの部屋の住人たちは、「ああ、今日も賑やかだな」などと微笑み混じりに思っていたとか。
☆☆☆☆☆
「ふー、いい仕事したぜ」
額を拭う仕草をしながら、ぐだっ、とぶっ倒れているライラの肩を無理矢理はめ込んだ。
ゴキッ、という音と悲鳴を上げるライラを無視して、部屋の奥に問いかける。
「勝手に人の部屋に入んなよ……って、鍵はどうした?」
「壊してないわよ。ちょっといじったらすんなり開いてくれたけど」
「ここ、大丈夫なのかよ……」
部屋の奥からスタスタと歩み寄ってくる音が聞こえる。姿を現したのは、学園長の妹にして俺の幼なじみの波風紅葉。ただ、その表情は笑っているが目は笑っていない。
なぜ、彼女たちがここに居るのか甚だ疑問なのだが、今はこの寮のセキュリティーを心配してしまう。
一体どうすれば高校生、それも女子生徒が部屋に不法侵入できようか。
だがそれも「紅葉ならばなんでもありか」と、もはや現実逃避に近い結論を付けて、取りあえずは納得することに。
「で、わざわざ不法侵入してまでする用事ってなんだよ……」
「ゲフッ!?」
目線は紅葉に向けたまま。しかし、脚は床に這い蹲っているライラを踏みつける。
奇声を発しながら救いの手を求めるが、俺も紅葉も気にしない。いや、彼女の場合は怒りの視線を俺へと向けているため気付かないのかもしれない。
「別に〜、生徒会長とのデートは楽しかったのかな〜、って」
「そ、そうだぜ悠希!お前、会長――いててててッ!?」
「ライラ、お前は黙れ」
何か言いかけたライラを黙殺。
それを意に介さず、紅葉の瞳は怒りの炎を灯している。
一体、どうしてこんなに怒っているのだろうか。俺にはさっぱりわからない。
取りあえず、誤解を解かなければならないと思い、溜め息1つ吐いて語り始める。
「はあ……。別に、生徒会室に呼ばれただけだよ……」
「そう。ユウはあの女と“2人っきり”で“秘密のお話”をしていたってわけね」
だが、これは誤りだったらしい。
何か誤解し始めた紅葉は“2人っきり”と“秘密のお話”の部分だけを強調させて俺に殺気を向けてきたのだ。
これにはさすがに焦りを覚え、慌てて弁解する。
「ち、違うって!!副会長も書記もみんないたから!!」
「……つまりは生徒会公認ってことね」
「なんでそうなんだよ!!」
しかし、暴走し始めた乙女は止まらない。
先程より一層黒いオーラを纏い、フラフラとした足取りでこちらへと1歩、2歩…………。
「ちょ、待て紅葉!!なんか誤解してる!!」
「……覚悟はできてるんでしょうね?」
(い、いったい何にでしょう!?)
歩み寄ってくる紅葉に恐怖の表情を浮かべるも、如何せんここは玄関。故に背後は当然ドアなのだ。後ずさるも直ぐに行き場を失った。
目の前には阿修羅。
「いや、ちょ、待っ――――」
……ライラのツケが、まさかここで回ってこようとは。
そこからのことは、あまり話したくはない…………。
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