第9話 ダンジョンL-17層⑤
「……マイ達、遅い」
ノボがポツリと呟いた。
もうあれから20分ぐらい経っただろうか。ヨースは既に肉塊を捌き切り、調理も終盤に差し掛かっている。
「うん、ちょっと遅いな。ちょっくら見てくるかな。」
俺はすっと立ち上がると、ダンジョンの先を見た。
すると、ダンジョンの水晶が鏡のように一塊の人影を映し出した。
「お、ポニーさん、お戻りですか?」
しかし、その人影は一つだった。
俺はお気楽モードから一転する。
「……おい、コニー! マイはどうした?」
「更に先に行ったわ。私は定時だから戻ってきただけよ。」
こ、ここまでするとは……。
「お、おま、何しとんのー?!! そなこと、いくら定時だってそりゃないさー……」
「……カッペ。」
俺は焦って出したなまりを田舎もん呼ばわりされたことにカッとして、……もとい、マイが心配になり、顔が紅潮する。
「俺、行ってくる!」
後ろを振り返ると、ノボとヨースも近くに立っていた。
「オレ達も、行く。」
ノボがそう言うと、俺達はストレッチを始めたコニーを残し、ダンジョンの奥に進んだ。
「マイ、いないねー……。」
ヨースが小さな身体から、心配そうな言葉を漏らす。
モンスターの急襲に気を付けながら、俺達は歩みを進めていた。
もう、20分ぐらいは進んでいただろうか。
モンスターと遭遇することはなかったが、不気味な気配が漂っていた。
点在する魔鉱石が放つ光が、進むごとに紫色を増していく。
「これ、かなりフロアマスターのところまで近づいてきてるよー。」
「……どうして分かるんだ?」
「ギルドの攻略本によれば、ここのフロアマスターは幻術エルフだよー。幻術エルフは紫水晶を好むんだよー。」
歩みを進めるごとに、水晶や鉱石の数が増えてきて、それらが放つ紫色の怪しい光も強さを増していった。
それら水晶類は既に俺の背丈を超えていて、周囲は迷路のようになってきている。
ノボが背を伸ばしながら先を見て、俺達を誘導している形だ。
「マイ、迷ったかもしれないねー。」
俺の頭をよぎっていた想像を代弁するように、ヨースがポツリと伸ばす。
「ノボ、この先はどうなってる?」
「広い空間が、ある。光が、強い。」
俺達は、背の高いノボに導かれながら歩みを早めた――。
俺達はいよいよ広い空間に出ると、辺りを見渡した。
空間の中には、光る魔鉱石と岩のような水晶が点在して、強い紫色を放っている。
空間の奥の方では、もう太陽のような強烈な光を発していて先が見えない。
……マイ、ここに居るのか??
そして俺達は、大きな鉱石の隙間に、倒れている人影を見付けた。
「マイ!」
その人影はマイだった。俺達は慌てて駆け寄ると、マイは眠っている。
「マイ……。マイ! しっかりしろ!」
呼びかけても揺らしても、マイは目を覚まさない。
……あれ??……
その時、鈍い眠気が俺の頭に浮かんだ。そして、徐々にそれは広がり始めた。
「オレ、腹減って、眠い……。」
「ノボ、違うよー……。これ、きっと幻術エルフの魔法だよー……。」
2人も同じ状況のようだ。これはマズい……。
――その刹那!
「……ダーク・レベル8……」
後方から聞き慣れた声が聞こえた。振り返るとポニーテールの人影が見える。
人影の詠唱と共に、まるで闇が光を力で抑え込むように、辺りの光が薄くなった。
更に振り返り、前方を見ると、フードを被った老婆のようなダークエルフが、大きな水晶を目の前に黙々と詠唱を続けている。
――ビュッ!
俺はダークエルフに向かって剣を投げつけた。
――ザクッ!
よし、大当たり!
俺の剣はダークエルフのフードもろとも、その脳天を突き破った。
ダークエルフ ――いや、幻術エルフと言うのが正しいだろう ―― は、その場でゆっくりと崩れ、息を絶やした。
ノボも察したのだろう。倒れたダークエルフに駆け寄り、ハンマーを振り下ろした。
「コア、破壊した。」
ノボが一息つきながら呟いた。
想定外にもフロアマスターを攻略した安堵感に包まれながら、俺はハッとしたように後ろを向いた。
「コニー、どうしてここに……?」




