第10話 ダンジョンL-17層⑥
俺は、いつもの調子を崩した毒気の抜けた言葉でコニーに問いかけた。
コニーはサングラスを外しながら、
「夕飯の用意が終わっていなかったからよ。」
と、俺とは対照的に、いつもと変わらぬ返答をした。
俺はその言葉でやっと自分のリズムを取り戻し、毒づいた。
「かー、ポニーさん、残業なんかしちゃって、やっぱり俺のこと気になってるんだなー。」
「食事を用意するのは私の仕事じゃないから、連れ戻しにきただけよ。さっさと戻って、夕食にしてちょうだい。」
そう言うと、コニーは踵を返し、元々居たエリアに戻ろうとする。
「ちょっと待てって。まだ、マイが……。」
俺はそう言うと、マイの方に目を向けた。
ノボに抱きかかえられ、ヨースが心配そうに見つめる様子が目に映る。
「マイー、マイー、目を覚ましてーー!」
ヨースが飛び跳ねながら呼びかける。
「早く行くわよ。」
コニーはそんな様子を一切気にせず、冷徹に言い放つ。
「ちょっと待てよ、コニー。マイの意識が戻らないんだ。」
「幻術が抜けていないだけよ。いつ意識が戻るか分からないから、待っている意味がないわ。」
「……幻術が抜けてないってどういうことだよ! このままマイが目を覚まさないこともあるのか?」
「それもあるかもしれないわね。いずれにしても、その娘次第よ。」
俺は愕然とした。マイがこのまま目を覚まさないかもしれない……。
「おい、コニー!そなこと言わんで、何とかできんの?! おまーの魔法なら、何とかできんべ……」
焦ってなまり丸出しで、コニーにすがった。
「そんなにこの娘を助けたいの?」
「当たりまーさあ!」
「……なら、ダンジョン攻略は諦めて、さっさと地上に戻り治療をすることね。今日は定時過ぎているから、明日以降をお願いするわ。」
「……」
言葉を失った俺は、肩を落とすしかなかった。確かに、マイが目を覚まさないのであれば、ダンジョン攻略からは降りるしかない……
そう思った矢先、コニーが飛び跳ねた。
「マイの呼吸が荒くなってきたよー! マイの顔色がどんどん悪くなってるよー!」
確かにマイの容体が悪くなってきている。一体どうすれば……?
「コニー、マイの容体が相当悪い。時間が無いんだ。何とかできないか?」
コニーは、俺の必死な様子に、珍しく少し思案をしたような仕草を見せ、答えた。
「何ともならないわね。さっきも言った通り、目覚めるかはその娘次第。その娘は今、自分の中の幻想と闘っているわ。幻想に自分で打ち勝つのを祈るしかないわね。」
……考えろ、考えろ……。俺は、どうすればいい……?
「コニー、俺達はここに残る。そうするとお前は夕飯を食べられない。それは困るだろう?」
何でもできるコニーのことだ。本当は困ることはないのだろうが、賭けに出た。
コニーは少しうつむくと、切れ長の目を少し細めて言った。
「……ええ、それは困るわ。」
「じゃあ、ここからは残業じゃない、プライベートなお願いだ!」
「何かしら?」
「俺は、これからマイの意識の中に入りたいと強く願う。その強い願いを補助魔法で増幅して、俺の意識をマイの中に飛ばしてくれ!」
果たして、そんな魔法があるのかは知らなかった。リクエスト自体も、支離滅裂だ。
だが、不思議とコニーならやってくれるという確信をしていた。
「……分かったわ。別料金よ。その娘の深層意識にどれだけ深く潜れるかは、あなたの気持ち次第ね。」
そう言うと、コニーは俺に近づき、俺の前で手を広げた。
「……」
俺はマイの意識の中に入りたいと強く願う。
コニーが魔法を詠唱すると、その手が光った!……ように見えた。




