第11話 ダンジョンL-17層⑦
……ここはどこだろう??
俺は、意識だけが空に浮かんでいるような不思議な感覚で漂っていた。
見下ろすと、2人の幼いエルフが広い草原で走り回っている。
「お姉ちゃん待ってー!」
「マイ、こっちよー!」
……これは、マイの記憶だ。よく見ると、小さい方のエルフの顔には、マイの面影がある――
……
そしてシーンが次々に変わっていく。
家族団らんの食卓で笑顔のマイ。
村の小さな学校で、姉と同じ教室で、真剣に魔法の勉強をしているマイ。
森で果物を必死に集めるマイ……。
その全てのシーンで、マイの近くにはマイの姉が居た。
シーンを追うごとに、2人は成長して、背丈も大きくなっていく――
……
次に移ったシーンは、森の中だった。
姉と2人で恐怖の目をしているマイは、5体のマッドウルフに対峙している。
「お姉ちゃん、ごめん……、私がもっと先まで行こうって言ったから……。」
きっと果実でも探していて森の深みに入り、マッドウルフの縄張りを侵してしまったのだろう。
マッドウルフ達は、その獰猛な目で、2人を品定めしている。
「マイ、いいから早く逃げなさい! ここは私が何とかするから。」
「そんな……。」
「マイは足手まといなの。分かって! お姉ちゃん一人なら大丈夫、行きなさい!」
じりじりと対峙しながら、それでもマイは動こうとしない。
マイの姉は、たまりかねたように魔法詠唱をすると、発動した風でマイを後方に吹き飛ばした。
「走って逃げて、マイ!」
一方、マイの姉が放った魔法に興奮したマッドウルフ達は、マイの姉に一気に襲い掛かった。
マイは森の外に駆け出すしかなかった――
……
次のシーン…… これは、葬式だろうか。
マイとその家族、村の学校の先生や生徒たちが、キャンプファイヤーのような大きな焚火の前で、思い思いに涙を流している。
マイは見慣れたロッドを手に強く握りながら、空を仰いでいる。
“私も、お姉ちゃんのようになる。誰かを守れるぐらい強くなる……。”
言葉ではない。マイが空に向かって誰かに伝えるような思念が、俺の意識の中に強く哀しくこだました――
……
次のシーンもまた、森の中だった。
森?いや、これは俺もつい最近見たことがある風景……。
「今回は初期討伐だから、この14層までいければ十分だな。」
戦士風の人間が、仲間に向かってこう語りかける。
「ああ、ここが終わったら地上に戻ろう。」
今度は単眼族の男が答える。
「しかし、地下とは思えない、不気味な森だな……。」
「ああ。マイ、気を付けて進むぞ。」
「……うん。」
……そう、ここは俺達も通った、ダンジョンL-14層だ。地下ながら森が繁る特徴的なフロア。そして、俺達の今回の攻略スタート地点、忘れることはない。
俺には見慣れぬ仲間と共に、そこには、成長したマイが緊張した面持ちで佇んでいた。
そして、3人組のパーティはⅬ-14層を突き進んでいく。待ち受けるモンスター達を蹴散らしながら。
3人の息は合っているように見えた。
この先は確か、そう、もうすぐフロアマスターだ。
ここのフロアマスターレベルであれば、難なく倒せるだろう――
……
3人は、とうとうⅬ-14層の最奥部までたどり着いた。
そう、ここは俺も覚えている。
フロアマスターのキングウルフと、その手下の5体のマッドウルフが待ち受けている。
――ガチッ!
マッドウルフが繰り出す咬みつきを、単眼族がカタナの腹で受け止めた。
「マイ、ウィンドカッターを頼む!」
戦士風の男がマイにリクエストを送る。
が、マイは動かない。
「……どうした?マイ??」
戦士風の男がアクスでなぎ払い、マッドウルフを追い詰めながら、来ない応援に焦りの表情を浮かべる。
“助けなきゃ…… 助けなきゃ……”
マイの思念が俺の意識にダイレクトに伝わってくる。
「どうした、マイ! 攻撃を受けたのか?」
単眼族の男も、今度はキングウルフに一撃お見舞いしておきながら、マッドウルフに邪魔されて決め手に欠いている。
“逃げたい…… 逃げたい……”
マイはようやく魔法の詠唱を始めた。
『頼んだ、マイ!』
詠唱の声が聞こえて、キングウルフとマッドウルフに向き合う2人の声が重なる。
「……エアプレス・レベル5……」
敵と味方の中間のスペースで発動したマイの魔法は、キングウルフとマッドウルフを前方にじりじりと押し除けただけでなく、仲間2人をも後方に押し戻した。
「……逃げましょう!」
マイは魔法の圧力で押し戻されてきた仲間2人の手を取ると、そのまま踵を返した――




