第12話 ダンジョンL-17層⑧
……
シーンが移り変わる。が、またしても、さっきまでの森の中のようだ。
「マイ、大丈夫か? 具合でも悪いのか?」
思念体の俺に、目の前の俺の声が聞こえる。
「ううん、大丈夫。ブランク明けだから、調子が出てないだけよ。」
そう、俺達はダンジョンⅬ-14層の序盤で、まずレッドウルフを成敗した。その時の会話だ。
その時、目の前の俺はマイの動きが悪いことは心配していた。
ただ、そのことよりも、コニーの補助魔法が驚くほど効果的に俺の戦闘を補助していたことへの驚きの方に気が向いていた。
“大丈夫…… 大丈夫よ、今度は……。”
マイの思念が伝わってくる――
目の前の俺達は順調に、でも慎重にフロア攻略を進めていた。
ダンジョンAから少し空いたブランクを埋めるかのように。
パーティの呼吸は、みるみると整い始めていた。
マイの動きも自然なものに変わっていっていた。
「これならフロアマスターも倒せそうだな。」
目の前の俺がメンバーを振り返りながら喋りかけている。
「コニーもなかなかやるじゃんか。」
まだコニーとの距離感をつかめないまま、ぎこちない会話をしている様子が伝わる。
「……自分達の過信しないことね。」
コニーはぶっきらぼうに言い放つ。
“うん、ケイの言う通り、このパーティなら大丈夫……”
「マイ、どうしたのー?」
ヨースがボーっとした様子のマイに声を掛ける。
「ううん、何でもないの。」
マイがそう答えると、先頭を歩いていたノボが言葉を発した。
「いた。あいつら。」
俺達は、いよいよフロアマスターのキングウルフと、その手下のマッドウルフを目にした。その瞬間、俺とノボは敵に向かってダッシュする。
「マイ、後ろからウィンドカッターを頼む!」
目の前の俺はマッドウルフ5体をおびき寄せていた。ノボはそれを承知でキングウルフに一目散にハンマーをふるいに行っている。
「ギャウッ!」
マッドウルフ5体はフォーメーションを組み、交互に飛び跳ねて襲い掛かり、咬みつきを浴びせてくる。
それを俺は、時に躱し、時に剣で撃ち落としながら、一方でこちらからは致命傷を与えられないでいた。
「マイ、ウィンドカッターはまだか?」
俺は堪らずに叫んでいた。
“やらなくちゃ…… やらなくちゃ……”
思念体となっている俺の目線で、マイは固まっていた。
戦っている俺は、目の前に夢中でそれに気付いていない。
固まっているマイの横で、コニーは器用に状況判断をし、俺とノボをエンハンスしながら、敵計6体を交互にデミニッシュ系の魔法で能力を下げている。
「あなたは動かないの?」
コニーがマイに声を掛ける。
“身体が…… 身体が動かないの……!”
マイはコニーに返答はしないが、その思念は思念体の俺に伝わってくる。
「圧されてるわよ。」
コニーが続けてマイに言った。
「ううん、こっちが圧してる!このままでも勝てるよ!」
自分に言い聞かせるように、マイはコニーに言い返す。
「無理ね。補助魔法で優勢だけど、このままじゃ難しいわ。もうすぐ私、やめるもの。」
「……どうして?!」
マイが悲痛な顔をしてコニーを見つめる。
「定時だもの。」
コニーは、緊迫した戦況に似つかない言葉を平然と発した。
「あなたが動かないならそれでいいわ。ここでジ・エンドね。どの道そんなものなら、この先も続かないわ。」
“……違う! こんなことをしに、私はここに戻って来たわけじゃない……!”
「私が『圧されている』って言ったのは、あなたのことよ。」
コニーが続ける。
「自分で選びなさい、また逃げるのか、また挑むのか。」
マイはハッとした顔で、横に居るコニーに目を向ける。
「あなたが目を向けるのはこっちじゃない、前よ。」
“…… 私はできる…… 私ならできる……”
マイはロッドを構えると、ロッドの先端が光を帯び始める。周りの空気が歪み、風がロッドに集まる。
「……ウィンドカッター、レベル9……」
鋭い風の刃が、敵に向かって突き進んだ!
気のせいか、思念体の俺の方に向かって、コニーが一瞥したように見えた――




