第7話 ダンジョンL-17層③
俺達はその後、ミニチュアエルフの残党を蹴散らし、L-17層を更に進んでいた。
途中、モンスターに出くわすこと三度、いずれも難なく撃退できた。
こうして、この日は午後6時に近づき、今日の攻略を終えることとした。
今は、結界石で簡易なバリアをつくり、テントの組み立てや、夕食の準備などに勤しむ時間である。
「この『ダンジョンⅬ』は、王国調査隊が調べたところだけで、60層は超えるんだよな?」
俺はおもむろにヨースに話しかけた。
「うん、そう聞いているよー。今回も一度ではそんなに進めないだろうから、冒険者ギルドは25層までしかダンジョン攻略本を渡してくれなかったけれどー。」
ヨースは先程成敗した、ダンジョンゴートの肉を捌きながら答える。
26個ある地下ダンジョンは、基本的に、AからZに向かうほど深くなり、深くなればなるほどモンスターの攻略難度を増していくと聞いている。調査隊は、各ダンジョンのフロア全てを調査しているわけではないため、実際には全て踏破してみないと全容は分からない。
ダンジョンを踏破するのは、1周だけではとても無理だ。
俺達も、ダンジョンA全38層の攻略に要した4か月間の内に、2回地上に戻ってきている。急造パーティということも理由の一つだが。
ただ、前回と違って攻略も進んでいたこともあり、ダンジョンLは既に13層までは攻略が済んでいた。
誰か別のパーティが攻略したのだろう。
王国調査隊が、調査ついでに雑魚フロアマスターを倒すという例もある。
まだ前回からブランクがあるし、この1周目で25層まで行けるかな……。
なんてことを思案しつつ横を見ると、ヨースの隣に座っているマイが、ヨースから借りたモンスター図鑑を読みながら何やら顔をしかめている。
いつもはヨースの料理を手伝うマイが、珍しい。
「マイ、どうしたんだ? 珍しくモンスター図鑑なんて読んで?」
「うん、ちょっと分からないことがあって。」
「何が?」
「モンスター図鑑によると、ミニチュアエルフが単体で操る風魔法はレベル2ぐらいまでで、そんなに難しい相手ではないのよね。」
「うん。どっちかっていうと、あの毒入りの槍とか矢の方が面倒だったな。」
思い出すと、刺された足の傷跡からズキリと痛みがこぼれた。
「それで、モンスター図鑑に書かれているのは、あいつらが群れを成したとき……」
マイは不思議そうな顔をしながら言葉を続ける。
「群れになったミニチュアエルフは合成魔法で、レベル6~8クラスの風魔法や雷魔法を放つんだって。」
マイの言いたいことが分かってきた。
「それを打ち消したってことは、コニーはそれぐらいの魔法を放ったってことよね。補助魔法使いなのに、どうしてこんなにレベルの高い攻撃魔法を操れるのかって……。」
俺も、確かにあの時、コニーが詠唱する中で「レベル8」と言っていたことを思い出していた。
「おい、ポニー!」
俺は、少し離れたところで、珍しくノボと話をしているポニーを呼びつけた。
「……私を呼んでいるんだったら『コニー』よ。」
心からうざったい顔をしながら、こちらに目も向けずにコニーは反応した。
「休憩時間だけど、何か?」
「お前、何で風魔法をレベル8まで使えるんだよ?」
「求人希望に、攻撃魔法もご所望だったのは誰かしら?」
「はぐらかさないで、答えろ!」
「……業務に関係ないことを答えたくはないわ。」
想像通りだが、取り付く島もない……。
「いや、待て、待て。俺らも生死を掛けてお互いに背中を預けている以上、お互いの実力を把握しておく必要はあるだろう?」
「私はあなた達に自分の命を委ねきってはいないわ。約款通り、危なくなったら一人でも逃げるから。」
ハケマの悪評の代名詞のようなセリフを、悪びれもなくサラリと述べる。
「……じゃあ、これは業務命令だ。今後のダンジョン攻略作戦立案の為に戦力把握を要する。お前はどこまで攻撃魔法を使える?」
「……攻撃魔法の提供は私の任務の範囲外。答える義務は無いわ。さっきも自分の身を守るために風魔法を使っただけ。今後も私の攻撃魔法を、くれぐれもアテにはしないことね。」
ポニーはつっけんどんに答え、俺達から離れて屈伸運動を開始した。
俺とマイは顔を見合わせて苦笑いをした。
そこに、ノボがぬっと顔を出した。
「でも、コニー、たまに攻撃魔法で俺達を助けてくれる。」
ノボはモシャモシャと何かを食べながら話しかけてくる。
「なんだよ、ノボ、晩飯のつまみ食いか?」
「違う。これ、リザードプリンスのジャーキー。昨晩、コニーが風魔法で乾燥させた。さっき、くれた。」
「なんだよ、あいつ。ノボには優しいんだな。差別だなー。」
俺はコニーに聞こえるように大声で言ったが、ポニーは素知らぬふりだ。
マイがやれやれ顔をしていると、
「ご飯できたよー!」
ヨースの声がフロアに響いた ――




