第6話 ダンジョンL-17層②
―――フフフフフ…… フフフフフ……
人の笑い声のような、風の音のような、そんな小さなざわめきが耳に入る。
「囲まれてるね。」
マイが呟く。
マイの言う通り、既に俺達は優に百は超えるだろうミニチュアエルフ達に囲まれていた。
ミニチュアエルフ達はそれぞれに、小さな槍や弓矢を手にしている。
どれもきっと毒が仕込まれているのだろう。
「卍●△■……!!!」
その時、ミニチュアエルフの一匹が、俺達には理解できない言葉を発した!
すると、ミニチュアエルフの弓使い達が一斉にこちらに向けて矢を放った。
「……ストーム・レベル2……」
マイが一陣の風を吹かす。鋭利に光る軽い弓矢は、力を失い舞い落ちた。
マイの反対方向では、ノボが盾を地面に突き立てて、弓矢を防いでいる。
そして、ノボの背中には、隠れるようにヨースとコニーが身を潜めている。
円を組むような陣形になった俺達は、囲まれたミニチュアエルフにどう対処するかを必死に思案していた。
「ミニチュアエルフの弱点は、水と火だよー! 水を浴びると飛べなくなるから、まずは濡らしてー!」
ヨースのその言葉を受けて、マイが瞬時に反応した。
「……スプラッシュ・レベル3……」
マイが水を召喚して、四方にぶちまけた。
ノボは、混乱したミニチュアエルフの群れに向かって、ハンマーを何撃か打ち込む。
ミニチュアエルフの1割ぐらいは、スプラッシュとハンマーで動けなくなったが、それでもまだ大部分はうごめいている。奴らは奴らで、風魔法を使ってスプラッシュを跳ね返していたようだ。
「●△■卍……!!!」
ミニチュアエルフのリーダー格が再度耳慣れぬ奇声を発すると、群れが羽ばたき始めた。
群れは俺達の向かい側に集まり、一つの影を形成する。幼い頃に読んだ「スイミー」みたいな集合体だ。
「いけない、突風が来るよ!」
ヨースが悲痛に叫ぶ。
すると、群れの方から、ミニチュアエルフそれぞれが魔法詠唱をする声が聞こえた。
瞬間、群れが光る……。
――ビュウッ!!!
ミニチュアエルフが突風を放った!
「……ストーム・レベル8……」
それと同時に、コニーのストームが発動した。
突風同士がぶつかり合い、干渉し、沈静した。
「ふー、あっぶねえ……」
冷汗が滲む俺に、コニーが声を掛ける。
「私は自分の身を守っただけ。それで、私はどうすれば良いわけ? 具体的に指示してちょうだい。」
こんな時にも、コニーは涼しい顔をして言ってのける。
ハケン約款の一つ、「雇用主はハケン魔術師に対して、その能力と任務の範囲内で、具体的で明確な指示をすること。」、これをこの場でも貫いているのだ。
「くー、こんな時に言ってくれるねえ! ほんなら、どないしろってえ?」
焦りでつい、地元のなまりが出る。
「指示を考えるのは、雇用主側の仕事よ。」
コニーは冷徹なまでに言い放った。
「群れが集まった今がピンチだけど最大のチャンスだよー! コニー、あそこに火炎球を放ってー!」
ヨースが慌てて指示を出す。
「私の仕事は補助魔法。業務範疇を超えているわ。」
……こいつは鬼なのか?
俺はマイの方に目をやると、マイは小さく首を振った。そう、マイは風と水魔法が得意だが、炎系の魔法は使えない。
そうこうしている内に、群れになったミニチュアエルフ達は次の呪文詠唱を始めている。
今回はさっきよりも長めの呪文詠唱で、ヤバいやつをお見舞いしてきそうな気配だ。
……こうなれば……。
「ノボ、この水晶をハンマーで叩いてみろ」
ノボは訳が分からないまま、それでも足元の水晶の塊を巨大ハンマーで思い切り叩いた。水晶はヒビを作りながら、キラキラと火花を発した。
「おい、コニー! ノボがもう一回それをやるから、あの火花を増幅しろ! 大きくしなくてもいい、熱を強くしてくれ!」
「……分かったわ。」
コニーの了解を確認すると、俺はノボとマイに目配せをした。
2人とも俺の狙いは理解したようだ。
今一度、ノボが大きな身体から、足元の水晶に巨大ハンマーを叩きつける。
火花が散った!
「……ブースト・レベル5&コンプレッション・レベル3……」
舞い散った火花達は、コニーの補助魔法によって、一つ一つがこぶし大の大きさにまで成長して漂った。
「……ストーム・レベル4……」
間を置かず、詠唱が完成したマイの風魔法が発動した。
こぶし大の火の塊達は、マイの風魔法に乗って、真っすぐにミニチュアエルフの群れに突き進んだ。
――ボムッ!!!
激しい音と突風をまき散らし、火の塊はミニチュアエルフの群れを焼き尽くした――




