第5話 ダンジョンL-17層①
ダンジョンL-16層で、フロアマスターのリザードプリンスを倒した俺達は、モンスターのいなくなったこのフロアで一夜を明かしていた。
安全は確保されていると思ってはいても、何も起きない保証は無い。
念の為、モンスターの急襲が無いか交代で見張りを立てて休みを取っていた。
もちろん、その見張りには、コニーは立たない。
あいつは、契約時間外は絶対に仕事をしない。
「ケイ、起きて。もうすぐ9時よ。」
寝袋に包まる俺をマイが見下ろしながら、優しく声を掛けてきた。
「うーん……。」
俺は唸りながら伸びをすると、少し身体がこわばる感触がする。
ダンジョンL挑戦から1週間が経ち、さっきもマイと交代するまで6時まで見張り を続けていた。疲れが溜まっていて当然だ。
といっても、フロアマスターのリザードプリンスを倒した後だから、心地良い疲労感でもある。
寝袋を小さく畳んで纏めると、辺りを見渡す。
ダンジョン特有の静寂の中、ノボが昨日の残りを食べている咀嚼音、ヨースがモンスター図鑑を捲る音が、静かに響く。
顔の向きを変えると、ポニーがお決まりの準備体操をしている姿が見えた。
「よう、ポニーさん、昨晩はぐっすり眠れましたか?」
俺の嫌味に眉をひそめつつも、コニーは無視して体操を続ける。
「俺は誰かさんと違って、夜中に見張りしてて身体が固まっちまったんだ。ちょっくらマッサージしてくれよ。」
「……業務命令なら9時からでお願いするわ。」
ポニーはにべもない。
「おいおい、仲間同士ちょっとは気を遣うってこともないのかねー。ったく……。何でもできるポニーさんのことだから、マッサージもさぞお得意でしょうに。」
傍からやり取りを聞いているマイが、こっちが恥ずかしいと言わんばかりに苦笑いを見せる。
「マッサージは回復行為の一種。本来業務とは異なり、別料金になるわ。戦闘員向けセラピスト上級の資格を持っている私のマッサージは、10分1万ゼニ―が相場。ご所望かしら?」
あ、やっぱり資格持ってるんだ……。
目覚まし代わりのやり取りで頭がすっきりした俺は、会話が馬鹿らしくなってきたところで、切り上げた。
「おい、9時になったぞ。さあ、階段を降りよう。」 ――
長い螺旋階段を降りると、階下にはL-17層が広がっていた。
光る魔鉱石が点在して薄暗く照らす他層とは打って変わり、ここでは大小さまざまな光る魔鉱石が密度高く存在している。そして、それを反射させる岩のような水晶がキラキラを演出し、目を突き刺す。
まるで巨大な宝石箱に迷い込んだようだ。
……つまるところ、ま、眩しい……。
「チカチカして視界が悪いね……。」
明るい周囲と対照的に、そうこぼすマイの言葉は陰っている。
ノボもヨースも、手で目元の光を遮りながら、ゆっくりと歩みを進める。
そんな俺達の後ろを付いてくるコニーに目を向けると……、いつの間にかサングラスを着けて歩みの鈍る俺達に歩調を合わせている。
はあ……どこまでも嫌味な奴だ……・。
そんなことを思っていると、ヨースが口を開いた。
「ここから先は気を付けてー。ギルドのダンジョン攻略本によれば、ここからはモンスターの縄張りだよー。」
「そうか、ここからなんだな。ダンジョンL-17層は、主にダークエルフ系の階層だって言ってたよな……。」
先程ヨースから教えて貰っていた情報を思い返す。
その刹那、
――チクッ……
俺の足元から鋭く軽い痛みが差した。
その後、痛みの周辺から今度は重く鈍い痛みが広がる。
「痛ってー!!!」
足元を見つめると、指先程の小さいダークエルフが小さい槍で俺を刺していた。
「こなくそ!」
俺は手でダークエルフを追い払うと、一体のダークエルフが羽ばたいて逃げて行った。
「あれはミニチュアエルフだねー。」
ヨースが俺の方に目を向けて言った。
「くそー、弱っちそうだけど、なかなか地味で嫌な攻撃してくるな。」
「ケイ、その槍には痛みが広がる毒を仕込んでいるから、早く解毒しないとだめだよー!」
「ヨース、それ早く言ってよ!」
慌てたマイが、そういうと俺の足を急ぎ診て、ヒール・レベル2の魔法を唱え始めた。
「コニー、ヒールに解毒を付与して!」
マイが小さく叫ぶ。
「分かったわ。……デトクス・レベル2……」
コニーの補助魔法がヒールに重なると、痛みは和らいだ。
「サンキュー、マイ!」
俺はマイにだけ御礼を言うと、ポニーに顔を向けた。
「ポニーさんも、相変わらず見事なお手並みで……。」
ポニーに絡み始めようとしたその時、ヨースが遮るように言った。
「皆、気を付けて! ミニチュアエルフは敵を見付けたらすぐに群れを呼んでくるよ!」
「……ヨース、だから、それ早く言えよ!」
そういうと俺達は。眩い光に耐えながら、周囲に目を凝らした。




