第4話 冒険のはじまりと出会い③
俺は、ハケマを待つと言った4週間、情報を求めて駆けまわっていた。
補助魔術師がいないとダンジョンに挑むことができない。
わずかな伝手から新たな伝手へと辿り、補助魔術師に関わる情報を集めた。
補助魔術師は、その地味さから、元々なり手が少ない。その中でも、「ダンジョン経験のある」補助魔術師と言われてしまうと、砂漠の中から一粒のダイヤを探すような一大事であった。
やはり、補助魔術師は見つからないまま、4週間が経ってしまった……。
「もうだめなのかな、ケイ……。」
宿に戻ると、うなだれる俺に、愛用のロッドを磨いていたマイが話しかけてきた。
その表情は曇っている。
「まだまだ慌てる時間じゃない。諦めたらダンジョン終了だぜ……。」
気の利いたセリフも思いつかず、俺は適当な返事をした。
マイもまた、次の攻略がダンジョンⅬになると聞いてから、ダンジョンLへの挑戦にはなぜだか強い意欲を持っていた。
そんなマイは、俺の補助魔術師探しを手伝ったり、自分の伝手を探ったり、色々と尽力はしてくれていたが、方策は尽きかけていた。
「ケイ、オレ、腹減った。」
横になった巨体で部屋を重苦しくしているノボが漏らす。
「お前の大食いのせいで、路銀が尽きかけてるんだぜ。少しは遠慮しろよ!。」
ノボは「グーッ!」という腹の音で返事をした。
「ダンジョン挑戦は諦めてさ、ヨシノガ大河のクエストに挑戦しないー?珍しいフィッシュ系モンスターがいっぱいだしー。」
ヨースはモンスター図鑑を捲りながら、妄想世界を漂っている。話にならない。
「もうだめ。無理なのかあ……。」
俺はひとりごちながら、路銀を確かめる。
「ダンジョンA」を攻略したクリア報酬は底をつきかけ、あと1週間ぐらいしか宿代を払うことが出来ない。
その時、部屋の窓を「コン、コン」とする小さな音が耳に入った。
窓の方に目を向けると、一羽のハトが足に丸まった何かを付けてノックしてきている。
「伝書鳩だ。このミニピジョン、かーわいいっ!」
マイがそう言いながら窓を開けると、伝書鳩は足から一枚の紙を落として去っていった。
マイが紙を広げると、目をパーティくりさせて口元を開いた。
「ハケマ調達セリ。翌朝9時、ダンジョンL前ニ集合セヨ……」
マイが片言で読み上げる。
俺達は顔を見合わせて、信じられないというように首をかしげた ――
翌早朝、荷物を纏めて宿を引き払った俺達は、約束通り9時に到着するようにダンジョンEに向かった。
地下ダンジョンは首都郊外にある。
そこに冒険荷物を積んだ台車や鞄を持ちながら移動するのは、これはこれで骨が折れる。
俺達は9時集合であることを呪った。
そんなこんなで、ようやく俺達はダンジョンⅬの手前までやってきた――
ダンジョンLの入り口に近づくと、遠目に一人の女性のシルエットが浮かんできた。
……あれがハケマか……?
希望条件に記載した通りのポニーテールが、風になびいている。
更に近づくと、横顔から顔立ちもうかがえた。
……ちょっと、いや、かなり俺のタイプだ。
「あれハケマかな。びっじーん! ちょっとケイ、鼻の下伸びてない?」
マイが陽気に毒づいてくる。
「……」
ノボは無言だ。早朝に宿の店主を叩き起こして作って貰った、ありあわせのA定食だけでは朝食が足りなかったのだろう。
「あのバッグ、希少モンスターのエルメクロコダイルの革で出来てるやつだー! 遭遇したことあるのかなー??」
ヨースは、いつもの通りマニアックな目線で人影を語った。
……いよいよ、俺達はポニーテールの女と向かい合った。
「よう、お前がハケマさんか?」
女を目の前に、俺の第一声はかなりぶっきらぼうだった。
「……」
目の前の女は、口を開かない。
「私、マイ。ねえ、あなたの名前はなんていうの?」
「……」
ポニーテールの女はマイの質問にも答えない。
すると、何やらおもむろに鞄に手を当て、何かを取り出した。
懐中時計だ!
女は懐中時計に目を向けたまま、無言の時が数十秒流れた。
そして、やっと口を開いた。
「9時になったわ。始めましょう。私、コニー、補助魔術師よ。よろしく。」
突然、女 ――コニー―― が話を始めて、俺達はポカンとした。
コニーの切れ長で綺麗な目を、ただただ、見つめる。
「これで契約開始ね。冒険者ギルドから聞いていると思うけれど、条件を満たしている場合、契約解除はできないわ。はい、これが私のスキル……」
そう言うと、コニーはギルド公式発行の冒険者手帳を両手で開き、こちらに見せつけるようにして手帳をペラペラと捲り始めた。
そこには、膨大な量の資格の名前と、それぞれの認定印が押されている。
「あなたがリーダーで剣士のケイ、あなたが魔術師のマイ、あなたが戦士のノボ、あなたがダンジョンコックのヨースね。経歴は頭に入れているわ。」
コニーはひとりひとりを確認するように一瞥した。更に一息に話を続ける。
「あなた達が加えた条件、パーティの規約を守るっていうことは遵守するわ。私としても望むところ。その代わり、もちろんあなた達にもハケン約款は遵守してもらうわ。」
俺達は引き続きポカンとしている。
「さあ、定時の6時まで時間がもったいないわ。早く行くわよ。」
そうすると、踵を返して「ダンジョンL」の入り口に向かって行った。
俺達は圧倒されて、何も言葉を発することができなかった。
ただただ、コニーの後をついていくことしかできなかった ――




