第39話 ダンジョンL-26層・決着③
――斬る……!
まさに炎を噴き出さんとするベビードラゴンに対して、俺は強い意志を向けた。
一瞬、ベビードラゴンは躊躇した!
まるで、俺に威圧されるように。
「ウォー!」
俺は身体に負ったダメージを忘れ、隙を見せたベビードラゴンに斬りかかった。
――ザンッ!
鋭い音がした。
確かな手ごたえがある。
俺の一撃は、ベビードラゴンの右前脚をその胴体から切り離すことに成功していた。
「ギイヤアアアア……」
ベビードラゴンは悲鳴を上げる。
バランスを崩したベビードラゴンの身体は、しかし、その大きな翼をばたつかせて、俺に襲い掛かる。
俺は、ジャンプして翼を躱しながら、一度距離を置いた。
――斬る……!
ベビードラゴンが、翼を閉じて防御をする。しかし俺の剣は実際には動いていない。
「そこだ!」
俺は、今度はベビードラゴンの左前脚をなぎ払った。
――ザクリ……
ベビードラゴンの左前脚は、斬り落とされると空に舞った。
「……掴んだ!」
俺は、心剣を掴んでいた。
今や心剣で相手を威圧し、ルミタスの剣で相手を斬りつける。このパターンで確実にベビードラゴンを削ることが出来ている――
その後も、俺の斬撃は続いていた。
そこは竜族のベビードラゴン、さすがにダメージは受けつつも、致命傷は避けていた。
しかし、裏を返せば、俺の攻撃に成す術がなくなっていた。
「獲れる!」
このまま、押しきれる。
そして隙さえあれば、一気にその首を狙うんだ。
一方、窮地に追い込まれたベビードラゴンは、炎を出そうと首を突き出した。
「そこだ!!」
俺は弾け飛ぶように、ベビードラゴンに向かって行った。
ベビードラゴンは首をすくめるが、間に合わない。
――ガキーン!
ベビードラゴンの固い皮膚を俺が一刀する音が聞こえた。
が、真ん中から折れていたのは、ルミタスの剣の方だった……!
「け、剣が……。」
剣が折れてしまった……。
俺の心も折れてしまうのか……。
また、あの時のように……。
俺の狼狽を感じ取り、今度はベビードラゴンが勝利を確信したように嘶く。
「ウオーーーン!」
今度こそ、ベビードラゴンは炎を噴き出さんとしていた。
俺は剣が折れた衝撃で、バランスを崩している。
いよいよ、これは絶体絶命だ!
俺の頭に絶望が過ぎった、その時……――
――ブウンッ!
巨大な物体が物凄いスピードで飛んできた。
――ドン!
激しい衝突音と共に、ベビードラゴンがもたげていた首に直撃する。
「これは、ノボのハンマー!」
しかし、ベビードラゴンは止まらない。
ベビードラゴンは、再度俺の方に向き直り、その口を開いた!
「……ウィンドカッター・レベル9……」
風が鋭い刃になり、ベビードラゴンの口元に襲い掛かる。
――バサバサ!
堪らず、ベビードラゴンは翼を広げて、それを防御する。
俺はその機を逃さず。身を翻して距離を取る。
「マイ!ノボ!!ヨース!!!」
俺は振り返ると、その頼もしい3人の人影を見た。
「ケイ、また勝手なことをして……。私達、仲間でしょう!」
「ケイ、お前は、一人じゃない。」
「黙って僕達を置いて行くんじゃないよー。」
マイはヨースに寄りかかるように、ノボは跪きながら、こちらに声を向けた。
剣は折れた。
が、俺にはまだ心強い仲間がいる。
俺の心はまだ折れていない!
しかし、ベビードラゴンの目は、今度は満身創痍の2人に目を向けた。
いよいよ用意していた炎を噴き出す先を、3人に向けるつもりだ。
ボロボロの仲間達には、それを避ける術はない!
――ボーーーーーッッッ!!
凶暴な灼熱が、ベビードラゴンの口から発射された。
――ダンッ……
俺はその炎めがけて飛び込んだ。
何をすれば良いか、分からなかった。
ただ、どうしても何もせずにはいられなかった。
俺は折れたルミタスの剣を振りかざした。心に強い意志を抱いて。
心の剣よ、どうかこの炎を切り裂いてくれ!!!
――ザンッ!!!
炎が、斬れ、た……?
俺は、剣に目をやった。
折れたはずの剣の先に、眩い光が刃を形成していた。
「……ようやく、その剣を使えるようになったわね……。」
居ないはずのコニーの声が、剣から聞こえて来た。
これはコニーが剣に宿していた思念だ!
「この剣の本当の名前は、『闘気の剣』。使い手の闘気を刃に変える剣。実際の刀身は鞘みたいなものよ。さあ、あなたの本当の力を解放しなさい。」
俺は、理解するより先に、コニーの言葉を信じて剣に意志を込めた。
もっと強く、もっと獰猛に。
闘気の剣はそれに呼応するように、光の密度を増していく。
強く、獰猛に。
ベビードラゴンは、慄いていた。
炎を斬られたことではない。
俺の闘気に気圧されていた。
「ぬおおおおおーーー!」
俺はベビードラゴンに向かって駆け出した。
繰り出した光の刃は、ベビードラゴンの首を、確かに捉えた――




