↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/40

第36話 ダンジョンの踊り場で・4 ~ ケイ ~

「これから、卒業実習を行う。場所はアイブロー山。人間の縄張りを侵す、野良ゴブリンを駆逐し、首級を持ち帰るのだ。」


 ここは、俺の通うトクリマ王国スケトー村の剣術学校。

 コバ老師が俺達を集めると、卒業実習を言い渡した。


 18歳になったばかりの俺は、待ちに待っていた卒業実習に胸を躍らせていた。

 対照的に、一緒に鍛練を重ねてきた剣術学校の仲間達は、初めての実戦に緊張を隠せない。

 俺達は合計4人、連れ立って冬のアイブロー山に向かった。


 アイブロー山は、モンスターの生息領域。

 紳士協定で、その大部分で人間側が立ち入りを自主規制している。

 人間が入ることをモンスターが黙認する領域でも、野良ゴブリンやスライム達が現れ襲うこともあるため、村人達は好んで立ち入らなかった。


 もちろん、俺達も初めて入山することになる。

 そんな俺達にとってアイブロー山は、近くにあるが遠い山であった――


「ユーキ。いよいよ実戦、わくわくするなあ!」

 俺は、隣でガチガチになっている剣術学校の仲間のユーキに声を掛けた。

「ケイはいいよな。僕は不安だよ……。僕は学校を卒業して冒険者を少しかじったら、家業の鍛冶屋を継ぐだけだから、危険は御免だよ。」

 ユーキは何とも情けない本音をこぼす。

「きっと大丈夫だよ、ユーキ。アイブロー山なんて大した山じゃない。ゴブリンだってきっと大したものじゃないよ。」

 やはり仲間のワカが、自分に言い聞かせるように話しかける。

「とにかくさっさとゴブリンを倒して下山しよう。」

 その横のヒロも、話に乗っかるように言葉を加えた。


 実際、アイブロー山は大した山ではなかった。

 俺達は道中、動きの鈍いスライムや、猫に毛が生えたようなスピードリンクス等、野良下級モンスターとしか出会うことはなく、それらも難なく討伐していた。

 しかし、肝心のゴブリンには出会わない。

 このまま出会わなければ、一旦野宿して、明日に継続かな。

 そんなことを皆が考えていたその時だった。


――ガサガサッ、ガサッ……


 木の陰から一体の影が現れた!

 ゴブリンだ!

「ユーキ、ワカ、ヒロ、囲むぞ!」

 俺達4人は、棍棒を持って威嚇をするゴブリンを取り囲んだ。


 勝負は一瞬だった。


 ユーキが上から斬り落としを狙い。それをゴブリンが棍棒で受ける。

 ワカが、ユーキの剣を受けて隙を見せたゴブリンの脇腹を切り払い、ゴブリンは堪らずかがみ込む。

 ヒロがかがみ込んだゴブリンの足を、剣でなぎ払い、ゴブリンは膝をつく。

 俺が座ってお辞儀をするような形になったゴブリンの首を撥ねた。


「やった! ゴブリンの首級を獲ったぞ!」

「これで卒業実習、達成だ!」

 俺達は沸き立っていた。

 これまでの緊張感から解放されるように。

 歓喜で周りが見えていなかった――


「ウワァー!」


 歓喜も冷めやらぬ中、突然、ユーキの悲鳴が聞こえた。

 振り返ると、右肩から血を出して押さえている。

 その奥には、どこに潜んでいたのか、ヒグマをも更に一回り大きくした熊のようなモンスターが直立していた。


「あ、あれは?」

 俺は焦りをにじませ、周りに問う。


「……あれは、多分…… キングベアーだ……。」

 ワカも既に歓喜の色は全く失い、緊張した声で答える。

「何で、アイブロー山にキングベアーが? 俺達の叶う相手じゃない……。」

 ヒロが威圧されている。


「俺達はゴブリンを倒したんだ! こいつも倒して更に評価を上げるぞ!」

 俺は精一杯の鼓舞をした。

「フォーメーションⅭで行くぞ。皆、サイドを頼む!」

 フォーメーションⅭとは、一人が敵の真正面から囮になって相手の攻撃の回避に専念し、敵のサイドに回った他が攻撃をしかけるフォーメーションだ。

 当然、囮役に危険もリスクも大きい。

 ただ、ユーキが怪我を負い、ワカもヒロも怖気づいている今、自分が囮役を買って、仕掛けにいくしか思いつかなかった。


 俺はキングベアーに目を合わせ、視線を引きつけながら、その正面に駆け込んだ。

「ウォーン!」

 キングベアーはひと啼きし、その太い腕から爪を振り下ろす。


――ガキッ!


 俺の剣が爪を受け止めた。

 が、重い。これは何回も持ちこたえられない。


「今だ! ワカ、ヒロ、行けえ!!」


 俺はすがるように仲間の名前を叫んだ。

 が、何も起きない。


「いない……?」


 ユーキもワカもヒロも、姿が無かった。

 逃げてしまったのだと理解するのに、少しの時間を要した。


「うぉっ!」


 その瞬間、左肩に激痛が走った。

 俺の隙を見逃さなかったキングベアーが、爪を振ってきたのだ。


 やばい、まともに食らってしまった……。


 そう思うも一瞬、キングベアーが爪を退いた隙をつき、今度は俺が右腕一本で剣を振い、キングベアーの首を狙う。


――パキ……ン


 俺の剣は、キングベアーの首にヒットした。


 が、弱い音と共に、剣が折れた。


「け、剣が……。」


 俺は恐怖していた。

 急所の首を狙われたキングベアーは、怒りを増幅させている。

 そのキングベアーの獰猛な瞳が脳にこびりつく。


「うわぁ!」


 俺は、折れて半分の長さになった剣を、キングベアーにがむしゃらに投げつけた。

 キングベアーは、俺の投げた剣を荒々しく振り払ったが、これがキングベアーにとって仇となった。

 キングベアーが振り払った剣は、方向を変え、たまたまその目に刺さってしまったのだ。


「ギャウ!」


 キングベアーが苦悶の声をあげ、顔を手で覆う。


――今しかない。


 幸運を前に、しかし、俺は踵を返した。

 振り返りもせず、全力で逃げ出した。

 折れたのは、俺の心だった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。