第30話 ダンジョンL-26層・終わりの始まり②
「眠っている?」
広間の中心には、ベビードラゴンが、眠っているように目を閉じていた。
大きさにして、ノボの3倍ぐらいだろうか。
巨体は大きな翼に包まれ、硬そうな鱗を身体に纏っている。
その更に後方には、下層に続く階段も見える。
間違いない、このベビードラゴンがフロアマスターだ!
「よし、願ってもない、先制攻撃のチャンスだ!同時に行くぞ。最大でいこう!」
ノボも、マイもこくりと頷く。
俺とノボは、右と左に別れ、ベビードラゴンめがけて突進をした。
「ウォー!」
「ヌン!」
「……ウィンドカッター・レベル9……」
俺は右から斬撃を、ノボは左からハンマーの打ち下ろしを、そしてマイのウィンドカッターが中央から、渾身の力で繰り出される。
――ガキーン!
俺達の攻撃はクリーンヒットした。そこに、
「ギャオーーーン!」
ベビードラゴンが堪らず悲鳴を上げて目を覚ます。
初手は上々、ダメージは与えることができた。
もちろん、俺達としてもこの攻撃だけで仕留められると思っていない。
「ノボ、まずは翼からいくぞ!」
俺はノボと目で合図を取る。
「フン!」
ノボがハンマーで右翼を打ち上げるように打撃を叩き込む。
脇が見えた!
「どるぁ!」
俺はベビードラゴンが見せた脇の腱を狙って、斬撃を打ち込む。
――ビシュ!
捉えた!だが、まだ浅い。
――バササッ! バササッ!
ベビードラゴンは、俺達を攻撃するように、力強く翼を開き、叩きつけてきた。
俺もノボも、間一髪、その翼から身を翻して躱した。
ベビードラゴンも、そこを見逃さない。
獰猛な爪を生やしたその脚で、俺達になぎ払いをしかけてくる。
――ガキーン!
俺は剣で、ノボは盾で、その爪を受け止める。
「……エアボム・レベル5……」
マイの魔法が発動した。ベビードラゴンの目の辺りを、空気の爆裂が襲う。
エアボムはそれ自体に殺傷能力は無いが、意図は理解した。
目くらましだ!
「ノボ!尻尾だ!!」
俺はドラゴンの尻尾に狙いを定めた。
ノボも瞬時に理解する。
ベビードラゴンは目くらましに驚き、まだ気づいていない。
見えない目で、脚による攻撃を続けている。
俺はドラゴンの背に回り込み、尻尾に向けて剣を撃ち下ろした。
――ガチッ!
よし!食い込んだ!!
「ノボ! 頼む!」
剣が食い込んだ尻尾に向けて、ノボのハンマーがうなりをあげ、俺の剣ごと打ち込む。
「ギャアアアー!」
ベビードラゴンは奇声を上げた。
そして、俺達はその尻尾が胴体から分離をしたことを確認した。
やれる!
俺は確かな手ごたえを感じた。ベビードラゴン、このまま倒せるぞ。
「……エアプレス・レベル7……」
マイが、手を緩めることなく、次の魔法を発動した。空気がその密度を高め、ベビードラゴンを押していく。
――ガチッ!
俺の斬撃が、ベビードラゴンの右脚にヒットする。
が、音は鈍かった。
ベビードラゴンの脚は思ったより硬い。
「コニー、剣の強化を頼む。」
既に悟って準備をしていたのか、コニーはすぐに魔法を発動する。
「……エンハンス・レベル5……」
俺の剣が呼応して光る。
「どるあああぁ!」
渾身の一撃で、ベビードラゴンの右目めがけて、斬りつけた。
――ザンッ!
手ごたえあり!
――ブシュッ!
ベビードラゴンの右目が血に染まる。
イケる!
あと一押しだ!
その刹那、横から巨大な何かが俺を突き飛ばした!
――ブオオオォー
瞬間、俺の横をベビードラゴンが口から放った灼熱の炎が通り過ぎる。
「ノボ!ノボ―!!」
俺を押したのはノボだった。
ノボはまともにベビードラゴンの炎を浴びて、瀕死の状態になっている。
……しまった!俺の慢心のせいだ。
「……ソニックブーム・レベル7……」
マイが状況を察し、最速の風魔法でベビードラゴンを攻撃する。威力は無いが、ベビードラゴンの注意を自分に引っ張る目的と察した。
「グオーン!」
ベビードラゴンは一声いななくと、その顔をマイの方向に向けた。
―ブオオオォー……
ベビードラゴンがマイに向かって火を噴く。
「……ウォーターウォール・レベル9……」
水のバリアでベビードラゴンの炎を防御する。
ベビードラゴンも火を吐き続け、それをマイが魔法で受け止めている状況。
マイはジリジリと押されている。
そんな中、ベビードラゴンはおもむろに、切られて落ちている自分の尻尾を足で広い、強い力でマイに向かって投げつけた。
――ドン!
尻尾は、マイのウォーターウォールを貫通し、マイを叩きつけた。
力を失ったウォーターウォールは消えてしまい、その後、追い打ちをするように炎がマイを襲う。
「マイ!!」
俺はマイの名前を叫びつつも、顔はベビードラゴンに向けていた。
「このやろー!!」
俺は火を吐き続けるベビードラゴンの口に向かって、剣を突き立てる。
――パキンッ!
剣はベビードラゴンの口に斬撃を与えることに成功し、その口は炎を止めた。
が、俺の剣は悲鳴を上げた。刃こぼれしている!
その動揺をベビードラゴンは見逃さなかった!
その顔を、その口元を、俺の方に向ける。
「ギィヤーーー!」
悲鳴のような奇声を上げると、その口を開いて、三度目の火を噴いた!
目の前の真っ赤な炎は、その眩い光とは対照的に、俺の意識を暗闇にした――




