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第20話 ダンジョンL-20層⑥

 そして、俺、ヨース、コニーは、今水中に居る。

 服を脱いで、生まれたばかりのあられもない姿で……。

 という訳ではない。

 俺達は、それぞれの身体に直径2メートルぐらいの空気の膜を張って、水の中を漂うように移動していた。コニーの魔法によるものだ。

 水中ではお互いの声が聞こえないので、ご丁寧にテレパシーも付与している。


「ケイ、コニー、見て見てー!あっちに、レイクバードフィッシュが居るよー!あ、あっちにはガイコツブナもいーる! え、え、ビッグレッドカンディルまで……!!」

 ヨースの子供のような興奮が、思念となって伝わってくる。


 ……俺達、水族館にいるんじゃないんだぜ。

 あいつは今回「見る専」で、釣果を当てにするのはやめよう。


 俺は、剣を銛のように構えながら、獲物を探しつつ、モンスター達が襲ってこないかを気にしていた。

 フィッシュ系のモンスターは、フロアマスターが敗れた今、既に獰猛さは抜けている筈だが、俺達が不用意に縄張りを荒らしていると思われると、襲われる可能性もまだある。


 そんな俺の心配をあざ笑うかのように、コニーはどこから持ってきたのだろうか、網をブンブン振り回しては、ざくざくと小魚を捕りまくり、せっせとバッグに詰めている。


 ……めっちゃ、やる気あるやん、あの人……。


 しかもあの人、いつの間にか水着になってるし。


 ……うん、水着も悪くはないな……。


 魚の量はコニーに任せて、俺は質。俺の好きな獲物を狙おう。

 ウナギいないかなあ。さすがに海に通じてないと無理か。

 そんなことを考えながら、ほどなくして、湖底に到着した。この湖は広いものの、それ程には深くない。


「う・な・ぎ! な・ま・ず! 出てこーい!! ……ん?……」

 俺は湖底を散策しながら、キラリと光る何かを見つけた。

「なんだ、ありゃ……」

 俺は、光に魅せられるように、近寄る。まるで吸い寄せられるように。


「……剣、だ……」

 拾い上げると手にズシリと重みが伝わる。それは気高く見えた。

 柄には宝石が埋め込まれ、恐らく何らかの魔法付与がされているのだろう。


 ――ジーンッ……!


 俺は感動していた。

 このパーティにはトレジャーハンターは居ない。ダンジョンのひとつの醍醐味でもある、お宝探しには目もくれていなかった。俺達は、実績だけ求めて、ダンジョンクリアに明け暮れていた。

 街で宝剣を携えながら酒場で盛り上がっている王宮剣士を見かけると「ケッ、カッコつけやがって」と毒づくこともあったが、正直、羨ましかった。

 そんな俺が、いよいよこんな立派な剣を持つなんて!


「ウーっ、泣けてくるぜ!」


 ……その時、俺の脳裏に言葉が走った。


「その剣を離しなさい。溺れるわよ。」


 コニーの思念だ。


 ははーん、あいつ、さては俺がイイモノを手にして、イヂワルしてきているんだな。

「いや、こいつはもう俺のもんだ。離さないよーん。」

 俺は有頂天になっていて周りが見えていなかった。

 ……刹那、


 ――ビュンッ……


 細いレーザービームのような攻撃が、俺の背後から腹をかすめた。

「何だ!」

 俺は振り向くと、一体の魚影が、物凄い勢いでこちらに向かってくるのを認めた。

 魚影? いや、半魚人のような……。


「あれ、マーマンキングだよー。ノボ、逃げて―!」

 頭上には、少し離れたところにコニーと、その背中に隠れるようにヨースが水中に浮かんでいた。

 ヨースが心配そうな様子で、必死に「こっち来て」と言わんばかりに手をバタバタさせている。

 俺は逃げようと湖面に向かった。

 が、すぐにマーマンキングに追いつかれた!


 速い!


 ――ガチーン!


 マーマンキングが持っている剣で繰り出した一撃を、俺は持っている2本の剣で、慌てて交差するように受け止めた。


 クッ!

 お、重い!


「あなたのレベルで手に負える相手ではないわ。」

 ポニーが思念で警告を繰り返した。

「おい、コニー、じゃあ助けてくれよ! 俺に補助魔法を頼む。」

 俺は、二撃、三撃と打ち下ろしてくる相手の斬撃を何とか躱しながら、コニーにすがった。

「無理よ。それは今回の私の業務外だから。」

 コニーはにべもない。


「そのマーマンキングは、あなたが拾った剣の守り主よ。あなたが剣を捨てれば、攻撃をやめるわ。言っておくけど、まだ敵は本気を出していないわ。あなたに対して威嚇しているだけよ。」


 ……これで、手加減してるって……?


 俺は、絶望的だった。


 確かに、相手の斬撃を受けたり躱したり出来ているが、全てはぎりぎり。

 一方、マーマンキングは致命打を打っては来ない。まるで、俺の実力を見切って、降参を促すように……。


「くそーっ!!!」


 俺は、明らかな実力差を思い知り、もったいなさを噛み殺しながら、拾った剣を握る手を広げた。

 剣は、キラキラと光を反射させながら、ゆっくりと沈み、湖面に戻っていった。

 マーマンキングはその様子を見届けると、コニーが言った通り、背を向けてまた遠くに離れていった……。


「おい、ポニー、お前が補助してくれれば、あの剣の力も引き出して、マーマンキング倒せたかもしれなかったんだぞ!」

「笑止千万ね。」

 コニーは冷たく言い放つと、頭を湖面に向けた。

「魚もだいぶ捕れたし、戻るわよ。」

 コニーが戻ると言っている以上、ポニーの魔法で水中に居る俺達も戻るしかない。


「人は、身の丈以上の武器に『溺れる』のよ。」


 俺には、コニーが何か言ったように思えたが、良く聞こえなかった――

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