第2話 冒険のはじまりと出会い①
改めて、俺はケイ。人間の男剣士だ。年齢は21歳。
元々、トクリマ王国の中心からほど遠いスケトー村出身だ。
村には誇りを持っていて、田舎もん呼ばわりされるとカチンとくる。
18歳の時、村の剣術学校を首席で卒業した。
首席といっても、同窓が3人しかいない小さな学校で、才能を認められたに過ぎない。
自分が、客観的にどれぐらい強いのか、それすらも良く分からなかった。
ただ、記念すべき創立千周年の首席として、村に代々伝わる剣を貰えたのは幸運だった。
千年前に、剣術学校の創始者と言われる伝説的剣士ルミタスの使っていた、通称「ルミタスの剣」――
と言っても、見た目は二束三文の剣とそう違いはない。何の変哲もない剣だ。
それでも、カネがなかった俺には、これから身を立てていく為の剣代が浮いて助かった。
それぐらいだ。
村の学校を首席で卒業したからといっても、世は太平の時代。冒険者になった俺に、仕事はあまり無かった。
モンスターと人間界は紳士協定で棲み分けが行われていて、お互いの縄張りを荒らすことは滅多に無い。人間と言葉の通じる友好的な異種族とは、王国の下で政治や経済を共有し、仲良く共存している。
たまに村の冒険者ギルドに張り出される仕事と言えば、暴走したゴブリンを退治したり、野良スライムを駆除したりする程度だった。交番のお巡りさんと大した違いはない。
剣術学校の同級生も、月を重ねるごとに、ひとり、またひとりと冒険者を辞め、家業を継いだり、武器屋に奉公したり、様々に消えていった。
そんな平和な時代だからこそ、剣術学校は伝統のルミタスの剣を大放出したのだろう。剣で身を立てる時代も終わったということか。
俺はそんな日々に現実を突きつけられ、現実を思い知らされていた。
こんな感じで、簡単なクエストを淡々とクリアする日々を暮らしつつ、これじゃ到底飯が食えないと思い至った。そして8か月前、俺は泣く泣く愛する地元を離れ、スケトー村が属するトクリマ王国の首都、デノーンに飛び出した ――
トクリマ王国は大国に囲まれた小国である。
首都デノーンは、首都と言っても名ばかりで、大して栄えてはいない。
俺は典型的な田舎から出てきた身だが、おのぼりさん気分は、到着して1時間で冷めた。
その首都デノーンの目下の話題は、一年前、首都郊外に突如姿を現した計26個の地下ダンジョンの攻略だ。
地下ダンジョンからは夜な夜なモンスター達が放たれ、近隣の町を襲っていた。
そこで王国が全国の冒険者達に出した大号令が、「地下ダンジョン完全攻略」!
全国から精鋭を募るべく、各地の冒険者ギルドに「急募!」と張り出しを行った。
辺鄙な俺の村にもその張り出しが来たのだから、よほどのことなのだろう。
俺が故郷を離れて王国に向かう決意をしたのも、この張り出しを見たからこそだ。
26個の地下ダンジョンは、その難易度から、A~Zに分類される。尚、ダンジョンのランク付けは、「王国調査隊」によってなされている。
「王国調査隊」――
調査隊と言ってしまえば聞こえは地味だが、その実、メンバー達はバリバリの精鋭中の精鋭だ。
王国調査隊は、ダンジョンを攻略はせず、調査のみを目的とする。
未開のダンジョンに入り、モンスターと遭遇しながら情報を収集。
モンスターを倒す事より攻撃回避を優先しながら、ダンジョンの次の層また次の層と探索を続けていく。
体力消費を最小限にしながら、より早くより深い層の情報を入手、ダンジョンレポートを纏める(これがギルド発行の「ダンジョン攻略本」になる)。
そして、時間の掛かるダンジョン攻略のバトンは、他の冒険者に託す……。
考えただけでもかっこいい!
王国にやってきた当初、俺の第一希望は王国調査隊への参加だった。
そして、王国の冒険者ギルドに登録した俺は、実技や筆記試験を受けさせられた。
結果、ダンジョンへの挑戦は認められたものの、それは最低レベルの「ダンジョンA」だった。これまでの冒険者としての実績がゴブリンやスライム退治ぐらいしかなかったので仕方が無い。審査に通っただけでもミラクルだ。
と言っても、平和な時代が長かった昨今、冒険者の人数自体が、全国的にも絶望的に少なくなっており、冒険者ギルド側も猫の手でも借りたいぐらいだったのかもしれない。
その「ダンジョンA」攻略で、冒険者ギルド側に適性を認められて集められた他のメンバーが、今、背中合わせで「地下ダンジョンL」に挑んでいる3人だ。
エルフのマイ。ジョブは魔術師。
中級以上の風魔法と水魔法を得意としている。
攻撃タイプの魔法使いだが、簡単な回復系の魔法も使える万能型だ。
ただ、真に恐ろしいのは、その可愛らしい面影からは想像がつかない「火事場の馬鹿力」。
かつて、ダンジョンAの深部でゴブリンの群れに不意を襲われ、パーティがピンチを迎えた時、マイはパニックに陥った。しかし、そのマイが、一見やわに見える愛用のロッドで振るった会心の一撃で、親分ゴブリンを失神させたのだ!
本人は無我夢中で覚えていないというが、俺達の心の中には、ゴブリンの急襲そのものよりも、マイの一撃の方こそがビッグイベントとして映像が焼き付いている。
巨人族のノボ。ジョブは戦士。
大きなハンマーと盾を武器にしており、パーティの攻守を担う。
巨人族特有の温厚さに輪をかけて、ノボは無口で穏やかだ。
パーティが窮地に陥っても、常に冷静沈着……。というよりかは、いつものんびりしていて、自分の成すべきことを淡々と続ける、といった方が正しいだろう。
怪力と食欲が比例しており、パフォーマンスにムラがあるのがたまに傷だ。
ドワーフのヨース。説明した通り、ジョブはダンジョンコックだ。
背丈が小さく、いつも飛び跳ねるようにして俺達に話し掛ける。
こいつを一言で表現すれば「モンスターマニア」。
愛用のモンスター図鑑を常に持ち歩き、暇さえあればページを捲っている。
実戦力とはならないが、モンスターの弱点を指摘する等、知識面からのサポートでは大いに活躍してくれる。
そして何よりも、ダンジョン飯を作る腕は一流だ。倒したモンスターを食材として見極める目が図抜けている。
一方、敵モンスターへの知的好奇心が強すぎて、敵と対峙していても、ボーっと観察を始めるのが危なっかしくてしょうがない。
そんな俺達4人が、「ダンジョンA」の攻略に挑んだのがちょうど半年前だ。
難局も幾度となく経験したが、無事、4か月掛けてダンジョンAの全32階層を攻略した。俺達は、このダンジョンAをクリアし、ひよっこ急造パーティから脱却。個々の能力も花開き、大きな成長を果たした。
この詳細はまた別の話……。
「ダンジョンA」で苦楽を共にしたこともあり、俺達4人はすっかり意気投合をした。
「ダンジョンA」攻略後、俺達は別ダンジョンへの再挑戦を約束して、暫し別れた後、今から一か月前、また首都デノーンで再会を果たした――




