第18話 ダンジョンL-20層④
「ノボ、頑張れ!」
俺は叫んでいた。
依然として、ノボは影とがっぷり四つになって力比べをしているが、じりじりと影に押されている。状況は悪かった。
その時、俺の後ろが光った。
「……エンパワー・レベル1……」
……これは……?!
パワー強化補助魔法だ!
コニーがおもむろに唱えた魔法はノボを包み、ノボは一瞬体勢を持ち直す。
一方、ノボの影もそれを受け、影の密度を少し濃くした。影もまた力が増したようだ。
結局、状況は変わらない。
「おい、コニー、何やってんだよ! 補助魔法が意味無いっていったのはお前だろう?!」
俺は、コニーの意図が分からず、コニーに詰め寄った。
それに対して、コニーは何も答えない。
――ズサッ!
とうとう、ノボは投げられてしまった。
肩から地面に落ち、左肩を抑える。
『ノボー!!』
マイとヨースの悲痛な声が重なる。
「……エンパワー、レベル2……」
信じられないという目で、俺は後ろを振り返った。
コニーが今一度、補助魔法を発動する。
前を向き直すと、力を少し取り戻したノボが、再び果敢に影に挑んでいた。
しかし、影もまた、その密度を一段と上げている。
――グググッ……ドスン!
ノボは、今度は体落としを食らった。
お互いの力が増幅されているからか、さっきよりも衝撃が大きい!
「……エンパワー・レベル3……」
まただ!
またコニーは補助魔法を使った。
それも、徐々にレベルを上げている。
エンパワーを受けたノボは、やはり身体を起こすと、今度は影に向かってタックルをした。
が、一層密度を増した影に、あえなくはじき返される。
「……エンパワー・レベル4……」
コニーは止まらずに続ける。俺は堪らずに叫んだ!
「コニー、やめろ! このままじゃノボが壊れてしまう!」
コニーは表情一つ変えずに口を開いた。
「それは業務命令かしら? それとも、感傷的になっているだけかしら。」
「そうじゃない。でも、お前、一体何がしたいんだよ?」
「このままじゃ埒が明かないから、補助しているだけよ。業務命令なら、やめるわ。それとも他に何か指示があるのなら、聞くわ。」
そう話すと、また倒されたノボに向かって、コニーは構わず補助魔法を続けた。
「……エンパワー・レベル5……」
いよいよぶつかり合う二つの塊の衝撃が、かなり強くなった。
こちらにまでビリビリと衝撃が伝わるようだ。
「お前、ノボで実験でもしているのか? 何をしたいんだよ?!」
「彼が戦うのをやめないようにしているのよ。あなたは彼の戦いを止めるの?」
そう言うと、
「……エンパワー・レベル6……」
更に補助魔法の力を強めた。
マイもヨースも、悲痛な顔をしながら、ノボの戦いを見つめる。
「……腹、減った。力、出ない……。」
影と再度手をつかみ合って押し合いしているノボは、もう力尽きたように、堪忍した顔をしていた。
そんなノボを見ながら、俺は、何もすることが出来ない自分の無力感に苛まれていた。
……その時、
「あなたはまだ空腹を言い訳にするの?」
コニーの言葉に、ノボがピクリと反応する。
一瞬、影を押し返した!
が、またすぐジリジリト押し返されてしまう。
「……エンパワー・レベル7……」
組み合いを続ける二つの力は、いよいよすさまじいものとなった。
足元を支える地面がめり込み始める。
「……腹減った。もう終わりたい……。」
ノボが今一度弱気を吐いた。
すると、今度はいつもは淡々としているコニーが声を少し荒げた。
「あなたのその空腹は、あなたの弱点なの?」
そして続けて、
「いい加減、気付きなさい!」
語気を強く言い放った。
ノボは、その言葉に衝撃を受けたように、苦悶の表情を驚きに変える。
そして、押し合う手を今一度突き放し、影と向かい合った。
俺は理解した。コニーが伝えたいこと、そしてノボが今考えているだろうことを。
「ノボ!! お前にとってその食欲は、強く、大きくなろうとした努力の証だろ! 空腹になんて負けるな!」
俺は、必死に叫んだ。
ノボの耳ではない、心に届くように必死に声を飛ばした。
「……エンパワー・レベル10!……」
コニーの魔法の出力が、一気に増した。ノボの筋肉が一気に膨れ上がる。
影もまたその密度を濃くしたが、一気に増幅した自らの力に戸惑うように影を揺らした。
「ノボ! 今だ!!」
俺の言葉を待たずして、ノボは影に向かって突進する。
――ドン!!
ノボの渾身の体当たりは、影を押し倒し、地面に叩きつけた。
その強い衝撃は周囲一面に響き渡った。
叩きつけられた影はその場で崩れ去り、後に残ったのは、既にひび割れて壊れた、赤いコアだけだった――




