第14話 ダンジョンの踊り場で・1 ~ マイ ~
トクリマ王国首都デノーンの時計台広場。待ち合わせは今日午後3時。約束にはまだ30分早い。
「早く来すぎちゃったかな。」
方向音痴の私は、いつも待ち合わせ時間よりも早く到着することを心掛けている。
待ち合わせは苦手だ。到着するまでは、ちゃんと道に迷わないか心配だし、到着したらしたで、相手が約束通りに来るのか不安になる。
気を紛らわそうと、空高く時を知らせる時計や、その先に永遠に広がる青空を見上げた。 すると、一羽の鳥が優雅に羽ばたいて、気分を晴らしてくれた。
正面を向くと、広場の人込みの向こうから、ひときわ大きい人影が、台車を引いて向かってくるのが見えた。待ち望んでいた顔だ!
「ノボ―! こっちだよ!!」
私は大きく手を振ってノボを迎えた。そしてホッと一息つく。
ほどなくして、モンスター図鑑を読み歩きしながらヨースが、そして、最後にケイがぶつくさと考え事をしながらやってきた。
大きな広場の青空の下、私達は1か月ぶりの再会を喜んだ――
「ダンジョン『Ⅼ』だって?!」
冒険者ギルドでケイが素っ頓狂な声を上げた。
「はい。既に地下ダンジョンAからKまでは、他の冒険者が挑んでおります。」
「詳しいことよく分からんけど、どれぐらいムズいの? 俺らに荷は重くないの?」
「皆様には、ダンジョンAを攻略した実績があります。また、王国調査隊によると、ダンジョンLは比較的おとなしいモンスターが多く、攻略が後回しにされています。よって、まだ浅い層の初期討伐を行っているばかりですので、その続きを無理無い範囲でしていただくのが趣旨です。」
「そうは言ってもなあ……。」
ケイはそう言うと、私達の方を振り返った。
「オレ、ダンジョンLで、いい。食べれるモンスターが居れば。」
「どんなモンスターが居るんだろうー?! 楽しみー!」
ノボとヨースは、ダンジョンLに前向きだ。
……ダンジョンL……
私の心はざわめいていた。
ただ、いつかは挑戦しなくちゃ……。早々にやってきたチャンスとじゃない!
そんな引っ掛かりが、心を逸らせる。
「ケイ、いつになく消極的だけど、どうしたの? やろうよ! 何事も挑戦だよ!」
私はまるで自分に言い聞かせるように、ケイに言った、
「そうだな、やるしかないな。らしくなかったな。すまん。」
ケイは振り返ると、
「喜んでやらせてもらうぜ! さっさと手続き済ませてくれよな!」
いつもの調子で、受付に啖呵を切った。
すると受付は、
「ただし、条件があります……。」――
「補助魔術師なんて、ツチノコを探すようなもんなんだなあ……。」
陽が落ちて闇が広がるのとは対照的に、喧噪が広がる街の盛り場の路上を、私とケイは歩いていた。
この日、私達は隣の都市まで足を延ばし、補助魔術師がいないかの聞き込みを行っていたのだが、結局無駄足に終わって帰ってきたところだ。
「でも昨日、『酒場・レティ』に行けば、情報屋が居るって話だったじゃない。まずは行ってみて考えようよ!」
励ますようにケイに投げかけるも、ケイはいつものように考え事をしているのか、生返事だ。そこで、私はくすぶっていたケイに疑問をぶつけた。
「ねえ、ダンジョンLって聞いた時、どうして最初ためらったの?」
ケイは少し思案する様子を見せて、そして自分でも答えを探るように言った。
「……いや、今までの俺だったら速攻『やる』で終わりだったんだけど。どうしてだろうなあ。何か、自分のことだけ考えちゃいけない気がしてさ。」
ケイの言葉に、私の心が温かくなる。ケイは、口は悪いけれど、決して仲間を軽視していない。
ううん、大切にしてくれている……。
「着いたぞ。」
ケイに促されて見上げると、『酒場・レティ』と書かれた看板が怪しく光っていた――
「……するってえと、結局お前はアテが無いってことだな?」
ケイは、自称・情報屋のウェアウルフ、ユターに対して詰め寄っていた。
「ああ、今は居ねえ。さっきも話した通りだが、一か月前になかなか腕の立つ補助魔術師のホーリーの奴が、コベー王国に行っちまった。結局、カネさ。トクリマ王国は小さい国だからな。まあ仕方がねえ。」
ケイはユターの言葉を一通り聞き終えると、首を振って「話にならない」という表情をした。
「そうか。それじゃあ、もう俺達に用はねえ。」
そういうと、ジョッキに入ったビールをグイっとひと干しして、立ち上がった。
「ちょっと待ちな。まだ情報料を貰ってねえ。3万ゼニ―だ。さっさと出しな。」
ユターもすくっと立ち上がり、ケイに因縁をつけた。
「おいおい、そんな情報にはびた一文出せねえよ。」
「ふざけるなよ、兄ちゃん。この界隈のルールを全く分かってないようだな。カネが払えねえってんなら、そこの可愛い姉ちゃんを代わりにいただくぜ……。」
そういうと、ユターは私の肩を掴んだ。
「そ、そんなベタなセリフ……! よ、よせ! あぶねえ!!」
ケイが焦りを見せる。
私は最初から、ユターのオオカミ顔が苦手で直視できていなかった。そこに急に肩を掴まれたものだから、パニックになってしまった。
無我夢中で手をバタバタさせると、私の右ストレートがきれいにユターの顎にヒット、テコの原理で脳天を揺さぶり、一発K.O.をした。
「……だから、あぶねえって言ったんだよ……。」
ケイは止まらぬ脂汗を拭い、
「さっさと逃げるぞ!」
そう言って、私の手を取って走り出した。
私はドキドキしながら、その手を握って、導かれるように駆け出した――
あくる日の昼下がり、私は愛用のロッドを宿屋の一室で磨いていた。
先祖代々伝わる、愛用のロッド。そして、かつてはお姉ちゃんが愛用していた形見のロッド……。
ドアを開ける音がして目を向けると、ケイがうなだれながら帰ってきた。
「もうだめなのかな、ケイ……。」
「まだまだ慌てる時間じゃない。諦めたらダンジョン終了だぜ……。」
ケイは上の空なのか、適当な返事をした。
ノボもヨースも、思い思いに過ごしているが、皆結局ケイのことを心配して、元気づけようとしている。
その時、部屋の窓を「コン、コン」とする小さな音が耳に入った。
窓の方に目を向けると、一羽のハトが足に丸まった何かを付けてノックしてきている。
「伝書鳩だ。このミニピジョン、かーわいいっ!!」
私はそう言いながら窓を開けると、伝書鳩は足から一枚の紙を落として去っていった。
私は紙を広げると、飛び込んできた内容に驚いた。
「ハケマ調達セリ。翌朝9時、ダンジョンL前ニ集合セヨ……」――




