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第三部 光の継承者 第十話 目覚めの朝

本作をお読みいただき、ありがとうございます。

長い夢のような宇宙での記憶を経て、さとしは再び現実の朝を迎えます。

しかし、その朝は、もう昨日までと同じ朝ではありませんでした。

第三部「光の継承者」の始まりです。


 小鳥のさえずりが、静かな部屋に響いていた。

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、優しく部屋を照らしている。

 さとしはゆっくりと目を開けた。

 天井を見つめたまま、しばらく身体を動かすことができなかった。

「……夢。」

 そうつぶやいた。

 だが、その言葉には確信がなかった。

 あまりにも鮮明だった。

 エルディア。

 生命樹。

 ゼルグ。

 闇の艦隊。

 そして、自分の名――クリプトン。

 すべてが現実だったように心へ刻まれている。

 胸へ手を当てる。

 鼓動は穏やかだった。

 しかし、その奥には昨日まで感じたことのない温かな光が静かに宿っていた。

 ベッドから起き上がり、窓を開ける。

 爽やかな風が部屋へ流れ込み、朝日に照らされた街並みが目の前に広がった。

 通学する子どもたち。

 犬の散歩をする夫婦。

 自転車で駅へ向かう会社員。

 どこにでもある、いつもの朝。

 それなのに、さとしには世界が違って見えた。

 一人ひとりの胸に、小さな光が灯っている。

 笑顔の人は明るく輝き、不安を抱える人の光は少し揺れている。

 それでも、誰の光も消えてはいなかった。

「みんな……光を持っている。」

 自然と涙がこぼれた。

 昨日の戦いを思い出す。

 闇は人の心を狙っていた。

 だからこそ、光は誰かの心を支えるためにある。

 その意味が、今なら分かる気がした。

 スマートフォンが静かに震える。

 画面には、一通のメッセージが表示されていた。

『おはようございます。

 本日、お時間がありましたら光明会館へお越しください。

 大切なお話があります。』

 差出人の名前はなかった。

 しかし、誰からなのかはすぐに分かった。

 老人だ。

 さとしは静かに微笑んだ。

「行こう。」

 顔を洗い、身支度を整え、家を出る。

 朝の風が頬をなでる。

 歩き慣れた道なのに、景色がどこか新鮮だった。

 道端に咲く花。

 木々の葉を揺らす風。

 空を飛ぶ小鳥。

 そのすべてが命の輝きを放っている。

 駅前へ差しかかった時だった。

 一人の少女が転んだ。

 ランドセルを背負った小学生だった。

 荷物が散らばり、困ったようにうつむいている。

 さとしはすぐに駆け寄った。

「大丈夫?」

 少女は少し驚いた表情でうなずく。

「ありがとう、お兄さん。」

 二人で教科書を拾い集める。

 その時、少女の胸の光が少しだけ明るくなった。

 さとしは思わず微笑む。

 ほんの小さな親切。

 それだけで、人の光は輝きを増す。

 クリプトンとして守ろうとしたものは、遠い宇宙だけではなかった。

 今、この地球にも、守るべき光がある。

 少女が元気に学校へ向かう姿を見送りながら、さとしは空を見上げた。

 澄み切った青空の向こうには、昼間でも見えない無数の星がある。

 あの星々と、この地球はつながっている。

 そして、自分の使命もまた、そこへつながっている。

「私は光の継承者なんだ。」

 その言葉は、誰に聞かせるでもなく、静かに風の中へ溶けていった。

 しかし、その瞬間だった。

 遠く離れたビルの屋上。

 黒いコートをまとった一人の男が、静かにさとしを見つめていた。

 男の瞳が、一瞬だけ深紅に輝く。

「見つけたぞ……クリプトン。」

 低く響く声は風に消えた。

 新たな戦いは、すでに地球で始まっていた。


 眩しい朝日が、ゆっくりとカーテンの隙間から差し込んでいた。

 鳥たちのさえずり。

 遠くを走る電車の音。

 子どもたちの笑い声。

 どこにでもある朝の風景だった。

 しかし、さとしにはそのすべてが昨日までとは違って感じられた。

 静かに目を開く。

 夢を見ていたはずだった。

 いや、夢ではない。

 あまりにも鮮明な記憶が胸の奥に残っている。

 生命樹。

 エルディア。

 ゼルグ。

 闇の艦隊。

 そして、自分自身――クリプトン。

 さとしはゆっくりと身体を起こした。

 胸に手を当てる。

 鼓動は穏やかだった。

 だが、その鼓動の奥には、生命樹の光と同じ温もりが宿っていた。

「すべて……本当にあったことなのか。」

 静かにつぶやく。

 返事はない。

 しかし、心は確かに答えていた。

 "あれは魂の記憶だ。"

 洗面所で顔を洗う。

 鏡に映るのは、いつもの自分。

 だが、その瞳の奥には、以前にはなかった強い意志が宿っていた。

 着替えを済ませ、窓を開ける。

 爽やかな風が部屋へ流れ込む。

 街はいつも通り動き始めていた。

 通勤する会社員。

 学校へ向かう学生。

 犬を散歩させる老人。

 何気ない日常。

 しかし、さとしの目には、もう一つの世界が映っていた。

 一人ひとりの胸から、小さな光が放たれている。

 希望に満ちた人は黄金色。

 優しさにあふれる人は淡い白。

 不安を抱える人は少し揺らいだ青。

 怒りを抱えた人は赤黒く曇っていた。

「人の心が……見える。」

 驚きよりも、不思議な納得があった。

 これが、光の継承者として目覚めた証なのだ。

 朝食を済ませ、家を出る。

 空はどこまでも青く澄んでいた。

 歩道には朝露が残り、道端の花々が太陽の光を受けて輝いている。

 その小さな命にも、柔らかな光が宿っていた。

「すべての命はつながっている……。」

 老人の言葉がよみがえる。

 駅へ向かう途中、公園の前を通りかかる。

 一人の少年がベンチに座り、うつむいていた。

 ランドセルを背負ったまま、目には涙を浮かべている。

 周囲には誰もいない。

 さとしは自然と足を止めた。

「どうしたの?」

 少年は驚いたように顔を上げる。

「……学校へ行きたくない。」

「友達とけんかしたの。」

 震える声だった。

 さとしは少年の隣へ座る。

「つらかったね。」

 その一言だけだった。

 励まそうとも、説教しようとも思わなかった。

 ただ、その気持ちを受け止めた。

 少年は少し黙っていたが、やがて小さく笑った。

「話したら、少し楽になった。」

「ありがとう。」

 その瞬間、少年の胸にあった曇った光が少しずつ明るさを取り戻していく。

 さとしは静かに立ち上がった。

「きっと大丈夫。」

「勇気を出して話せば、分かり合える日が来るよ。」

 少年は力強くうなずいた。

「うん!」

 元気よく学校へ走っていく。

 その背中を見送りながら、さとしは空を見上げた。

 戦いとは、剣を振るうことだけではない。

 誰かの心を照らすこと。

 絶望している人に寄り添うこと。

 それもまた、光を守ることなのだ。

 その時、胸の奥で生命樹の紋章が淡く輝いた。

 温かな光が全身へ広がる。

 まるで遠い宇宙から、「そのまま進め」と語りかけられているようだった。

 スマートフォンが静かに震えた。

 画面には、見覚えのない番号からのメッセージが表示されている。

『今日、午後一時。

 光明会館で待っています。

 あなたに伝えるべきことがあります。』

 署名はなかった。

 それでも、送り主があの老人であることは直感で分かった。

「いよいよ始まるんだ。」

 さとしはスマートフォンを胸ポケットへしまい、歩き始める。

 その背中には、昨日までの迷いはなかった。

 だが、その姿を遠くから見つめる者がいた。

 ビルの屋上。

 黒いローブをまとった男が、双眼鏡越しにさとしを見つめている。

「間違いない。」

「生命樹の継承者が目覚めた。」

 男は静かに通信機を取り出した。

「こちらレイヴン。」

「コード・クリプトンを確認。」

「計画を第二段階へ移行します。」

 通信の向こうから、低く冷たい声が返ってくる。

『抹消せよ。』

『光が完全に目覚める前に。』

 通信は切れた。

 男は不敵な笑みを浮かべる。

「ようやく会えるな……クリプトン。」

 青空の下、誰も知らないところで、新たな戦いの幕が静かに上がろうとしていた。


第三部「光の継承者」が始まりました。

宇宙での記憶を受け継いださとしは、現代の世界で「光を守る者」として歩み始めます。

しかし、闇もまた地球へと姿を現し始めました。

次回、第十一話「選ばれし者」では、光明会館で老人から「光の継承者」としての本当の使命が語られます。

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