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第十一話 月夜の神社

人は人生の中で、理由もなく心が引かれる場所があります。

そこは、忘れていた記憶が静かに眠る場所なのかもしれません。

満月の夜、さとしは一通の導きによって、運命を大きく変える神社へと足を運びます。

その夜、空には満月が静かに輝いていた。

 昼間とは違う澄み切った空気が町を包み込み、虫の音だけが静かな夜を彩っている。

 さとしは老人から渡された一枚の紙を見つめていた。

 そこには短く、こう記されている。

『月が最も高く昇る頃、白峰神社へ。』

 理由は書かれていない。

 しかし、不思議と迷いはなかった。

 胸の奥に宿る光が、「行きなさい」と優しく語りかけているようだった。

 山道を登るたびに、町の灯りは遠ざかり、静寂だけが辺りを包む。

 やがて石段の先に、古びた鳥居が姿を現した。

 白峰神社――。

 長い年月を経た杉の大木に囲まれたその神社は、月明かりに照らされ、神秘的な輝きを放っていた。

 石段を一歩ずつ登るたびに、さとしの胸は熱くなっていく。

「この場所を……知っている。」

 初めて来たはずなのに、懐かしい。

 その感覚に戸惑いながら境内へ足を踏み入れると、本殿の前には老人が静かに立っていた。

「よく来ましたね。」

 穏やかな笑顔は、以前と変わらない。

 老人は本殿へ向かって一礼すると、静かに話し始めた。

「ここは古くから、人々の祈りが集まる場所です。」

「目に見えない願いは、決して消えることはありません。」

「祈りは光となり、人から人へ受け継がれていくのです。」

 その言葉を聞いた瞬間、さとしの胸の奥で黄金色の光が静かに脈打った。

 生命樹を見上げていた記憶。

 仲間たちと笑い合った日々。

 まだ断片的ではあるが、遠い星の記憶が心に浮かび始める。

「私は……何者なのですか。」

 老人は優しく微笑んだ。

「あなたは、さとしです。」

「そして、光を受け継ぐ者でもあります。」

「クリプトンとして生きた魂は、今のあなたの中で目覚め始めています。」

 その時だった。

 神社の拝殿から、鈴の音が静かに響いた。

 カラン……

 カラン……

 風は吹いていない。

 誰も鈴には触れていない。

 それでも音色は夜空へ広がり、境内全体が淡い黄金色の光に包まれていく。

 光は一本の柱となって空へ伸び、満月へと届いていた。

 さとしは息をのむ。

「これは……。」

「祈りの光です。」

 老人は静かに答えた。

「人の善意や希望は、この光となって世界を支えています。」

「だから闇は、人の心を絶望で満たそうとするのです。」

 その瞬間、穏やかな空気が一変した。

 冷たい風が境内を吹き抜ける。

 月を覆う黒い雲。

 鳥たちが一斉に飛び立った。

 鳥居の上に、一人の黒いコート姿の男が立っていた。

 男の瞳は深紅に輝き、冷たい笑みを浮かべている。

「ようやく見つけた。」

 低い声が夜に響く。

「クリプトン。」

 その名を聞いた瞬間、さとしの胸の光が激しく脈打つ。

「君は……誰だ。」

「私はレイヴン。」

「闇の艦隊の先遣隊を率いる者。」

「お前の光が完全に目覚める前に、その希望を消しに来た。」

 黒い霧が男の足元から広がり、境内を覆っていく。

 草花は色を失い、石灯籠の灯が次々と消えていった。

 老人は静かに前へ出る。

「ここは祈りの聖域です。」

「闇がお前の思い通りになる場所ではありません。」

 レイヴンは冷たく笑った。

「ならば試してみよう。」

 右手を掲げると、無数の黒い影が霧の中から姿を現す。

 人の形をした闇の兵士たちだった。

 さとしは胸へ手を当てる。

 黄金色の光が身体を包み込み、静かに輝きを増していく。

 恐怖はあった。

 だが、それ以上に守りたいものがあった。

「光は、人を照らすためにある。」

「誰かの希望を奪わせはしない。」

 その言葉とともに、黄金の光が夜空へ放たれた。

 光は闇を押し返し、境内を再び温かな輝きで満たしていく。

 レイヴンは細く目を閉じた。

「面白い……。」

「ならば次は、お前が最も会いたい者を利用してやろう。」

 そう言い残すと、黒い霧とともに姿を消した。

 静けさを取り戻した境内で、老人はゆっくりとさとしを見つめる。

「今夜の戦いは序章にすぎません。」

「次にあなたが出会う者こそ、長い時を超えて結ばれた魂なのです。」

 さとしは満月を見上げた。

 胸の奥で、誰かの優しい声が聞こえた気がした。

 その懐かしい響きは、遠い宇宙で交わした約束を静かによみがえらせようとしていた。

第十一話「月夜の神社」をお読みいただき、ありがとうございました。

満月の夜、白峰神社でさとしは、自らが「光の継承者」であることを知り、初めて闇の先遣隊・レイヴンと対峙しました。

しかし、この戦いは終わりではなく、壮大な物語の始まりにすぎません。

老人が語った「長い時を超えて結ばれた魂」とは誰なのか。

さとしの胸によみがえり始めた記憶は、まだほんの一部にすぎません。

次回、第十二話「再会する魂」では、時空を超えた約束が果たされ、さとしの運命を大きく変える人物との再会が描かれます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークや評価、ご感想をいただけると、今後の執筆の大きな励みになります。

皆さまの心に、小さな光が灯り続けますように。

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