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3. 多数決は正義か?

 天上界で、ワタシが「多数決で決める方が良いですね?」とミカに問いかけてすぐのこと。


 下界でも同じ動きが広がっていた。

 ダイヤ帝国内では、次のリーダーを多数決で決するべく、その前段階として、ジャックとクイーンが演説台に立ち、どちらが真のリーダーに相応しいか、白熱の論戦を繰り広げた。そして国中に投票箱が設置された。

 運命の投票日。今まで家の中に(こも)って、だんまりを決め込んでいた人たちも、投票のために外へ出かけていく。


 ——そして、多数決の結果、ジャックが帝国の新しいリーダーに選ばれた。

 ジャック派のニンゲンは、ジャックを囲って、勝利の祝杯をあげていた。




 ワタシは、その様子を眺めながら、ミカに言った。


「結局、ジャックが選ばれましたね。声の大きさだけじゃなくて数も多かったみたいです」


 ミカは重そうな(まぶた)をわずかに開き、下界をちらりと一瞥(いちべつ)した。


「どうやらそのようだね……。まあ大事なのはプロセスだからね。独裁で決めるよりはマシだったんじゃないかな?」


 ワタシは力強く頷く。


「これでまずは帝国が一つにまとまるといいですね!」


 ワタシの期待とは裏腹に、ミカは首を横に振り、呆れた声で言った。


「そううまくは進まないだろうよ。これで解決するなら、もとから世界の分断が進むことはなかった」


 ワタシは腑におちない。

「どういうことか?」とミカに問いただそうとした時、下界からニンゲンたちの言い争う声が聞こえてきた——。



 ***



 ジャック派のニンゲンが叫ぶ。

「俺たちの勝ちだ」

「声が大きかっただけじゃない。数の多さが証明された! 我々こそ正義だ」

「多数決で決まったんだ、クイーン派は文句を言うな」


 一方、クイーン派のニンゲンは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて黙り込んでいた。多数決で決まった結果だから、一旦受け入れるしかない、と考えたようだ。


 そうこうするうちに、ダイヤ帝国の新リーダーとなったジャックは次々と軍事強化策を打ち出した。さらに、ハート王国からの人々を入国禁止にする政策も実施した。それらは、多数決を採る以前から彼が公約として掲げていた内容である。

 ジャック派のニンゲンは「いいぞ」「よくやった」と次々に称賛の声を上げた。


 その頃、クイーン派も黙っていられなくなり、声高に叫び始めた。

「もっと少数意見を尊重しろ!」

「多数決で決まったからってなんでもやっていいわけじゃない!」


 言葉の応酬はだんだんと激化していく——。


 ジャック派のニンゲンの中には、クイーン派のニンゲンのことを「非国民」と呼び、「そんなに嫌なら帝国から出ていけ」と言い出す輩まで現れた。


 そして、ジャック派は“多数決”を強力な武器として扱うようになっていた。

「多数決の勝者はこちら側。勝者こそ正義だ」

「こちらの正しさは多数決で証明済みだ」

「少数意見の尊重なんて言っていたら、多数派の意見はどうなる?」



 ***



 ワタシは落胆した。

 多数決の結果、ジャックが帝国の新リーダーに選ばれ、いよいよ帝国は一つになると思ったのに、下界から天上界へ届いたニンゲンたちの声は、団結とは程遠いものだったからだ。


 さらに言えば、ワタシは、泣きそうにもなっていた。

 なぜなら、生前に抱えていた胸の痛みが蘇ってきたからだ。

 ワタシが生前、クイーン派の論客だった時にも、「あなたは非国民」「気に入らないなら帝国から出ていけ」——そんな不条理な言葉で心は何度も傷ついた。

 そんな尖ったナイフのような言葉は、どうしていつまでもなくならないのか。


 多数決を経て、せっかく民主的に代表が決まり、政治は前に進むようになったのに、分断は解消されるどころかむしろ悪化しているように見えた。


 それでは多数決が間違いだったのか?

 いや、さすがにそうは言えないだろう。物事を前に進める上で多数決が不可欠だったことは間違いないし、独裁よりも公正中立なやり方だ。

 ではどこに問題があったのか?


 ワタシは、半ば降参するように、ミカに問いかけた。


「分断をなくすために、多数決ではダメなのでしょうか? 何がいけないのでしょう?」


 するとミカはにやりと笑った。


「あら、もう思考を放棄するの? もう少し自分の頭で考えてみてよ」


 ミカは私を試すように視線を送ってから、付け加えた。


「……それに実は、私なりの考えを最初にヒントとして漏らしているのよ。まあ、そもそも確かな正解なんて元から存在しないけどね」


 ミカは答えを教えてくれない。

 そもそも彼女自身も明確な答えを持っているわけではないようだ。


 ところで、彼女の言葉に何かヒントなんてあっただろうか?

 ワタシは落ち着いてミカとのやり取りを思い出してみることにした。


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