2. リーダーを決めましょう
ワタシがかつて自らの命を絶ってしまった原因は、ダイヤ帝国内のジャック派とクイーン派の権力争いにある。ワタシは生前、クイーン派の論客の一人だった。
ハート王国との対立が深まる中、武器を強化してハート王国の侵略に備えることを主張するジャック派に対し、クイーン派は平和実現のためにむしろ武器を捨てて、王国との対話を深めようと訴えてきた。
ジャック派の主張なんて、生前はちっとも納得できなかったけど、今改めて天界から下界を俯瞰すると、彼らの主張も少し分かる気がした。
ハート王国は軍備をどんどん増強し、国境を広げるかのような挑発行動を続けていたのだ。もし、ここでクイーン派の主張通りにダイヤ帝国が武器を捨ててしまったら、王国は、その隙を見て帝国への侵略を始めるかもしれない。そして、武器のないダイヤ帝国は抵抗する手段もなく、滅びてしまう……。
そんな最悪の未来を回避するためならば、帝国の政治はクイーンよりもジャックに託すのがより良い道かもしれない。でも、それではきっと国家間の分断は無くならないだろう。
「悪いのは軍備増強するハート王国だから、分断もやむなし」と諦めるしかないのだろうか。それはまるっきりジャック派の主張であり、生前のワタシが毛嫌いしていた答えではあるけれど……。
しかもそれでは、ミカから突きつけられた「世界の分断がどうすればなくなるか?」という問いにはちゃんと答えられていない……。
ワタシはちらりとミカの様子を窺った。彼女は今か今かと回答を待っている。
そこでワタシは、まだ未完成の回答を出してみることにした。
「とりあえず、ダイヤ帝国内の分断を解消するには、“我こそが正しい”と叫んでいる男、ジャックに一度すべて委ねてみたら良いかもしれません。彼の支持者も多いみたいですし……。ハート王国との対立は続いてしまうでしょうけど、少なくとも帝国内の分断はこれで落ち着くかな、と……」
不本意ながらもそう回答したワタシに、ミカは意外そうな顔をした。
「たしかにあの若者、私よりも神様らしく見えるわね! それにしても、あなたは、あの世界にいた時は、クイーン派じゃなかったかしら。考えを変えたの?」
ワタシは少し後ろめたい気持ちになる。
「天上界から改めて世界を俯瞰してみたら、ジャックの主張の方が帝国にとっては良い道かもしれない、と思ったのです。今更ですが、生前の私は少し視野が狭かったかも……」
ミカは、肘掛けにもたれかかるのをやめ、真っ直ぐ姿勢を正した状態で、にっこりと微笑んだ。
「一つの考えに固執しないことは良い心がけだと思うわ。考えを変えること自体は、別に恥じることじゃないわよ。私は別に、あなたの生前の主張も悪くないと思うけどね」
ミカの優しい言葉が胸に染み渡った。
しかし、次の瞬間、ミカは険しい表情をワタシに向けた。
「あなたの姿勢は悪くないけれど、今のあなたの回答には全然満足していないわ。……どこを見て、ジャックの支持者が多いなんて思ったのかしら?」
そこでワタシは一瞬固まった。
(えっ……だって、ジャックの周りには「そうだ!そうだ!」と加勢する人たちが大勢集まっているではないか?)
そう心の中で呟きながら、もう一度、下界をよく観察した。
そして、気付いた。
熱狂的なのはジャックの周りだけだった。
離れたところにはクイーン派の塊があるし、家の中に籠って外の様子を窺うだけのニンゲンたちが大勢いた。
ミカは得意げにいう。
「気づいたかしら。ジャックの周りの応援は確かに熱狂的だけど、あれは数の多さじゃない。声の大きさよ。……そもそも、あなたが提案した方法では、ジャック派のニンゲンは納得しても、クイーン派は到底受け入れられない。これで、帝国内の分断がなくなるなんて、浅はかすぎるわ。一人のリーダーに盲目的に従うのは、“独裁”というやり方で、長い歴史の中ですでに何度も実践されてきたけれど、独裁の下で民衆の不満が爆発して、長く続かなかったケースばかりだわ」
言われてみれば確かにそうだ。
自らの思慮の浅はかさに気付くと、ワタシは恥ずかしくなって赤面した。
ニンゲンたちの歴史を思い出せば、独裁に代わる方法として真っ先に浮かぶのは、多数決というやり方だ。
「多数決で決める方が良いですね?」
ワタシがそう言うと、ミカは肯定も否定もせず、ただ無言のままだった。
だが、その顔には、“なんてつまらない回答”と書いてあるようだった。




