17 悪魔…いえ天使ちゃんです!
長めです。
閲覧、応援、ブクマ、本当にありがとうございます!こんな場所でしか感謝を伝えられない事が何とももどかしい気持ちでいっぱいですが、とても嬉しいです!
これからもソフィア達をどうか応援してやって欲しいです。
先程まで窓を打ち付けて居た雨もすっかり息を潜め、厚い雲が晴れた夜空には、月の光が道を作っていた。
そんな中私は、「信じられないな。」と言ったタイラーが覚醒するのを待っている。先程から何かを考え込んでいるのだ。
解釈が無限大のそれを聞いて、無限大なのは夢と希望だけにして欲しいと、なんとも間抜けな思考をした私は、最早まともな精神ではないらしい。
先程から急な眠気に襲われた私は、私の体や寿命が限界である事を否応無しに感じ取って居た。今ですら起きているだけで精一杯であったが…気力だけで踏ん張って耐えて居るのだ。
(交互に質問とか言わなきゃよかった…)
そんな後悔をするも、急な眠気は予想の仕様がない。
突然、タイラーが私の手を急に握って目を合わせた。やっと考えがまとまった様だ。
「イニ、信じられないのは『お前の頭だな。殿下。』
ようやく覚醒したタイラーの発言に、低い声が重なった。開けた扉の隙間から、ロウファンが顔を出して居るのを見るに、先程の発言は彼なのだろう。不敬罪だっ!と叫びたくなった私は悪くない。
「ロウファンと言ったか?何の用だ?」
タイラーは心底不思議そうに尋ねて居るつもりだと思うが、相手には怒っていると捉えられそうな言い回しだった。
「イニは限界だ。そうだろう?」
いつのまにか目の前に立っているロウファンは、茶色の瞳で私を見た。私はどう答えれば良いか分からず、彼の目をぼんやりとした意識の中でただ見返した。
「ルーカスはどうした?」
忘れかけて居たルーカスの存在をタイラーは尋ねる。寝室にいきなり入って来るような所業を、気難しい彼が見逃すはずはない。
「眠らせて来た。」
そう言ったロウファンからタイラーは瞬時に私を庇い、そして険しい顔で質問を飛ばす。
「お前は、何しにここに来た?」
ピリピリとした空気が立ち込める。
「まぁそう構えんなって。イニの呪いを解きに来ただけだ。イニの寿命は、もって半日程度だろうな。さぁ殿下。どうする?」
ロウファンは試す様にタイラーに言い放った。それをぼんやりと私は眺める。眠気だか、疲労だか、他の何かなのか分からないけれど、夢の世界へと誘惑して来るそれに、私は何とか抗っている状況だった。
「…どうするとは?」
「俺が本当の執事だとしても、普通は雇い主の紹介無しに現れる訳が無いだろ。信じるなんて馬鹿だよなぁ、金髪もイニもお前も。イニが俺を覚えていると信じて疑わなかった俺もだけど。」
ロウファンは自嘲して、寂しそうな顔をした。
「…何が言いたい?」
的を得ていない回答に、タイラーは苛立ちを覚えながら、再度言及する。そんなタイラーの様子に、ロウファンは肩をすくめてみせた。
「言っただろ。呪いを解きに来ただけだってな。俺はイニを助ける為だけにここに潜入してんだけど、俺は忘れられてる。そして時間がない。とんだ誤算ばっかりだよ。だから、殿下が決めるんだ。俺が今すぐイニの呪いを解くか、ギリギリに魔術師たちに頼むか。」
「…ならばどうして全部打ち明けた?執事のフリをしたままの方が都合が良いだろう。」
失いかけてる意識の中、私は手元の紙に何とかして、文字を書いた。少しでも役に立てば良いなと、先程のタイラーの質問の答えを。
(あぁ、ダメだ。)
私の視界は暗転した。
「「イニッ!!」」
そんな2つの叫ぶ声が聞こえた気がした。
***
ーー私は水の上に立っていた。
足元に揺らめく液体は透き通っていて、歩く度に水面に波紋が広がった。白い空に、どこまでも続く水の床…。
私はここが死後の世界であると悟った。
私はあの時、家族と共に殺されたのだから。
(樹以外家族と呼びたく無いけどね。あぁ愛しい弟に会いたい!)
死後の世界ならば、会えるかもしれないと期待をした。殺された事に後悔も恨みもないけれど、最後に弟の手を握って、さよならを伝えたかったと今になって思う。
「へ!?」
水面に立っている私は、水に映る自分を見て酷く驚いた。この人は『誰』であるのかと。
黒髪で赤い目をした、小学生ほどの美少女に私は全く見覚えが無かった。
黒い髪は肩より少し長い程度で艶があって、水面に映る紅い瞳はルビーのようにキラキラと輝いて居る。それらが素晴らしく整った顔に配置されて居るのだ、天使だと言われても納得しそうであった。
それを食い入る様に、私は膝をついて眺める。
「貴方は誰?」
私の口から出たその声は、小鳥が鳴く様に儚く可愛らしい。やはり水面の私から返事はない。
突然、前方から自分のではない波紋が押し寄せた。
それにパッと顔を上げた私は、私を見下ろすように水面に立つ、その小さなその影に声を掛ける。
「どうしたの?」
「ひゃ、あの。」
黒いローブを深く被ったその影は、かなり緊張しているらしかった。小さく漏れた声は、酷く震えていた。
「怖くないよ。私は下田夏だよ。貴方の名前は?」
私は怖くないと言う様に、膝をついたまま手を広げて見せた。
「ひぇ、えと、私の名前、も、ナツです…。」
「すごいね、私と同じだね!」
「…ぁ貴方が、貴方の名前を私にくれました…今はソフィアだからって。」
話せる相手が現れて嬉しくて、私は会話を止めない様に、矢継ぎ早に言葉を発していく。
「そっか。私と知り合いなんだね、でも私はソフィアじゃ無いからこの赤目の子がきっとソフィアなんだね。…ここは死後の世界とかなのかな?」
「…ひやぁ、その、貴方の精神の世界…です。言うとしたら、ですけど…」
「私の、精神の世界…良く分かんないし、もっと知りたいかな。…貴方こちらに来て一緒に座らない?あと顔を見てみたいな!嫌だったら強制しないけどね。」
私は座っても濡れない水に驚きつつも、そこに腰掛けて、隣をペシペシ叩いた。
「…おんなじ反応をするんですね。」
顔は見えなかったが、確かに笑った様な気がした。その影は、私の隣にちょんと腰をかけた。そしていそいそとローブを脱ぎ始める。
「…うわぁお、人間じゃ無かったんだ。」
その姿を見て、私は驚きの声を上げる。
「…ぁあ悪魔で…ぁの、見苦しくてごめんなさい!」
私の反応に、悪魔ちゃんはペコペコと頭を下げた。首が取れんばかりの激しさだ。悪魔と言う事よりも、そっちの方が驚いた。
「お、落ち着いて。大丈夫だから、ちゃんと可愛いから!ビックリしただけだよぉ、怖がってないよぉ。」
私は怯えてないと証明しようと、悪魔ちゃんの緑で鋭い爪の生えた手をギュッと握る。そしてそのまま、アタフタして真っ赤な悪魔ちゃんを抱きしめた。
「…ひ、ひぇ、可愛くないですぅ。」
「ガチで可愛いよ!連れて帰りたいくらい!マジでウチの子にならない!?」
そう叫びしばらく堪能した後、私は「グェー」と言った声を上げた悪魔ちゃんを、渋々解放して再度眺めた。
銀色のピョンとした癖っ毛。
漆黒の肌。
銀色の瞳。
前髪に隠れてない右目から覗く銀色の瞳孔。
黒色の強膜(白目の部分)。
先程握った緑色の手。
尖った鋭い爪。
爬虫類の様な少し長めの尻尾。
頭からは鬼の様に長いツノが生えて……
「ぁあああ、可愛い!!!」
気付けば、私はまた叫んでいた。
「ひゃ、か、可愛いは禁止ですっ!」
また抱きつこうとした私を、可愛すぎる悪魔ちゃんはサッと避ける。なかなかやるな。
「なんで、初対面の時も、今も怯えないんですか!」
結局捕まった悪魔ちゃんは、私の膝でナデナデされながら抗議している。そんな悪魔ちゃんに、締まらない顔で私は即答する。
「可愛いのがいけない!」
「可愛くないんですってばぁ!悪魔なんですよ、普通は怖がるじゃないですか!悪い事だっていっぱいしたかも知れないじゃないですかっ!」
悪魔ちゃんは納得行かなそうにバタバタ暴れる。
「え、悪魔ちゃん悪い事したの?」
「未熟なので…まだです…けど。」
「なら問題ないでしょ。で、なんでこんな可愛い悪魔ちゃんは、私の精神世界だっけ?、にいるの?」
ずっと気になっていた事を質問する。
「ふぁ、その、謝りたかったんです。…あと会いたかったと言いますか、その…」
最後は聞き取れないほど萎んでいった。
「…謝る?」
「ふぇ、あの…貴方が呪いにかけられた時、私封印しか出来なかったんです…そしてやっと呪いが解けたのに、貴方から預かった記憶、今世の記憶を、私は今すぐ返せないんです。貴方は、知らない土地でソフィアとして生きてかなきゃなのに…未熟な私のせいで、本当にごめんなさい。貴方を助けたかったのに…阿呆の『ほう』だった私を『ナツ』にしてくれた恩返しがしたかったのに…」
小さな体をプルプルと震わせながら、悪魔ちゃんは自分を責め立てていた。その俯いた顔を挟んで上を向かせながら、私は笑顔でお礼を言う。フニフニだ。
「んー、私には良く分かんなかったんだけど、なんで悪魔ちゃんが謝るの?助けようと頑張ってくれたんだよね?なら私は、ありがとうって言いたいかな。」
すると悪魔ちゃんは可愛い顔で泣き出してしまった。私は小さなその体をぎゅっと抱きしめた。
こんなに思い詰めてくれているのに…嬉しすぎなんですけど!何この美味しい立ち位置!と喜んでいた。
全くサイテーである。
「よしよし、大丈夫だよー。私あんま気にしないし。記憶無くても何とかなるって!今すぐはって事は、いつかは悪魔ちゃんに会えるし、記憶も戻るって事だよね?それって凄く嬉しいし、問題ないよ!」
「グスッ、ふぇい、一ヶ月くらい休めば全回復出来ます…ので、私も会いたいでしゅ。」
最後に噛んだ悪魔ちゃんは、カァーと顔を赤くした。凄く可愛い。
「私って生まれ変わってたの?」
「…ひゃい、今の名前はソフィア・ダイアールで、貴族のご令嬢様です。目が覚めたら多分王宮にいると思います…」
「何で!?何で私そんな事になってるの?」
私はガッと悪魔ちゃんの肩を掴んだ。
「ふぇあ、何といえば、その。」
「あ…つめ寄っちゃって、ごめんね。」
天使な悪魔ちゃんは、大丈夫ですと笑って許してくれた。悪魔…いえ天使ちゃんです!
「天使ちゃんは、後どれくらい時間ある?」
「ひぇ?て、天使ちゃん!?…い、1時間くらい?ですかね。」
天使ちゃんとつい零してしまった私に驚いていたけど、「いいから!」とゴリ押しをして、何とか答えてもらった。
「なら、て…悪魔ちゃんの言葉で出来るだけ教えて欲しいな。あ、でもて…悪魔ちゃんの事も知りたいし!1時間とか短いなぁぁ!」
何度も「天使ちゃん!」と呼びそうになった私は、何とか軌道修正をして、本音を伝えた。
(ナツって自分の名前だから違和感なんだよね。でも天使ちゃんの名前がナツってすごい幸せじゃない!?ナイス、過去の私!)
「ふぁ、その、短くてごめんなさい。」
「いや、気にしないで。責めてるわけじゃ無いの、ただもっとナツといたいって思っただけだから。」
「わわわ私もっ、その…もっといたい、です。それであの、ソフィアって呼んでも良いですか?…前もそう呼んでたので…あの、嫌だったら『良いです!大歓迎だよ!ソフィアってガラじゃないけど、ナツになら何と呼ばれても嬉しいよ!』
つい前のめりで話してしまった。おっと、いけねぇ。
「ゴホン、ナツは女の子なの?」
私は咳払いをして、誤魔化した。
「悪魔に性別はないですけど…」
「成る程、なっちゃんとか、なっつん、うーん…やっぱナツが一番だね!」
1人で納得した私は、うんうんと頷く。
かなり不気味である。
「あ、じゃあ、私について教えてくれる?ナツについては、1ヶ月後に聞ける事を、楽しみに待つ事にするね!」
私の発言にナツは、尻尾を床にペシペシ叩きつけながら恥ずかしがった。何それ可愛い。
「どうした?」
なかなか話さないナツに私は尋ねる。
「その、またこうやって接してくれて嬉しいです。初めて会った時も優しく、助けてくれたんですっ!そして友達って言ってくれて…ふふっ。あ、そうでしたソフィアについてでしたね!」
ーーテンシ…てんし…天使…エンジェルだよぉ。ヤバイ鼻血。出てないけど尊すぎるって。頭に入ってこないよぉ!!
「待って待って!一回落ち着かせて。うん。」
私は、あまりの萌え具合にスーハー深呼吸をする。
「落ち着きましたか?そうですよね、知らない自分を知るって不安ですよね…勇気が要りますよね、配慮が足りなくてごめんなさい。」
(違うんだぁぁ!でもなにその優しい配慮好きぃぃ!)
内心叫ぶも、溢れすぎる想いが声を出させてくれない。
「ほ、本当に大丈夫ですか!?」
本気で心配してくれるナツを、私はギュウッと抱きしめた。あぁ癒される。ナツセラピーだよ。
「へっ?ぁぁあの!どう…したん…」
「このまま話してくれるかな?」
「ひぇ、わか、りました。」
『イニ、目覚めてくれ!お願いだ。』
なんか頭上からイニさんと言う方を呼ぶ声くぐもったが聞こえた。誰だろ?
「ソフィアの事ですよ。イニはソフィアのスラム時代の名前ですよ。多くの方がソフィアの無事を願っているのです!人気者なのです!」
私の膝の上でピョコピョコ揺れながら、自慢げにナツは教えてくれる。
「私スラム暮らしなの?令嬢で王宮に居るのに?」
「…その、呪いをかけるために攫われて、そのまま教会に捨てられたんです。で、悪魔に呪われたと勘違いされたソフィアは、そのまま孤児院に…で、そこでもその…」
「殴られたりしたんだね。」
私は確信を持って続きを答えた。前世で散々父親に殴られた事を思い出したのだ。それにコクンとナツは頷く。
そして「あ、今の両親はなかなか…その、アレですけど、理不尽に暴力を振るう方では無いと…私は感じましたよ?」と優しく気遣ってくれる、好き。
「そこからどう今に繋がるの?」
私はポーカーフェイスで話を続ける。
「タイラー様が孤児院の叔母さんに閉じ込められてしまったソフィアを助けてくれたんですよ。そして両親も現れて、ダイアール家の令嬢だって分かったんですよね。ふふっ、タイラー様にはソフィア絶対驚きますよ。教えませんけど。」
ナツは小悪魔っぽく笑った。あぁもう可愛いよ!
「えー、教えてくれても良いじゃん!」
私は口を尖らせた。
「ふふっ、お楽しみですよ。」
こんな話をして居ると時間が来るのはあっという間で、もうすぐ時間が来そうだとナツに言われた。とても名残惜しい。
でも多くのことを聞けた。
スラムの話をする時は、苦しそうな顔をするからあまり聞けなかったけど。
タイラー殿下なる方と初めて会った時、約束を破られた時の話は、怒りつつも饒舌に語ってくれた。
ナツと会った時とか、乙女ゲーム?とかの話題の時は、「やっぱりこれは教えちゃダメです。」と言って教えてくれなかった。
あと何度も、「記憶喪失のフリ…いえ実際そうですけど。そうすれば情報をいっぱい聞き出せます!」とアドバイスをくれた。
他にも今私の周りは良い人がいっぱいだとか、ソフィアなら大丈夫だと励ましてくれた。
中でも嬉しかったのは、
「自分らしく楽しく元気に過ごして下さいね!私や周りに引け目を感じたり申し訳なくなるのは、1ヶ月後にして下さい!ソフィアには笑って欲しいんです!」
と言われた事かな。
精霊に好かれて居るという話はかなり驚いたけれど、信じてれば見えるという事だったので、再び友達になれる事を夢見て居る。
「ナツ、今の私とも友達になって欲しいな。良いかな?」
ナツと私は出会った時に友達になったと聞いたけれど、今の私とも改めて繋がりが欲しかったのだ。
心の何処かでは、知らない土地で知らない人達と、知らない人として過ごさねばならない事を不安に思っていて、勇気が持てる何かが欲しかったのかも知れない。
「っ、はい!もちろんです!友達、嬉しいです!」
私とナツは握手を交わして、笑い合った。
「私が弱い悪魔なばかりに、色々…本当にごめんなさい。もう本当にお別れの時間が来てしまいました。」
ナツは俯いて謝る。そのフニフニのホッペを引っ張って私は笑顔で伝える。
「そんなこと言わないの。強いとか弱いとかじゃなくて、ナツがいたから私は生きてられたんだよ?強い悪魔じゃなくて、助けてくれたのはナツなの。生きてる、また友達になれた、それで良いじゃん!だからありがとうだよ!」
私はナツの手を繋いで振り回した。水面には踊る影が2つ。
「私は助けてくれた悪魔が、ナツで本当に良かったって思ってるよ!他じゃなくて、ナツが良い。私が友達になりたいって思ったのはナツ何だからさ、1ヶ月後絶対いっぱい遊ぶんだからね。とっても素敵でしょ?」
「っっ!はい素敵です!なら私は、さよならは言いません!」
あれま、そんなフレーズ聞いたことあるぞ。
「そうだね、私待ってるから。絶対またこうしてお喋りしたり、遊ぶんだからね!」
そう言った刹那、水面がパカっと割れて、私はその穴に落ちて行く。現実へと戻されて行くのだと、すぐに理解した。恐怖は全くなかった。
私は笑顔で手を振る。
「ナツー、大好きだよ!」
ーー私もですと、薄っすらと聞こえた気がした。
お読みいただきありがとうございます!
ナツの身長は、ソフィアよりもちょい低めくらいです。




