第4話 倒れたイケメンAI
「僕が鈴木さんを採用した理由?」
リオが、にやりと笑った。
くみは思わず身を乗り出した。
「はい……!」
「それはね――」
バタンッ!
リオが突然、床に倒れた。
「えっ!?」
くみは飛び上がった。
「えっ、えっ!? ちょっと、大丈夫ですか!?」
返事がない。
「私ですか!?」
くみは自分を指さした。
「私、何かしました!?」
当然、返事はない。
「すみません! すみません!」
くみは倒れているリオに向かって、何度も頭を下げた。
「私、何もしてないです!」
その瞬間――
ピコーーーン!
オフィス中に大きな警告音が鳴り響いた。
「えっ!?」
次の瞬間。
ドォォォン!!
まるで扉を突き破る勢いで、青い十字架のマークを腕につけた緊急エンジニア隊が駆け込んできた。
「AI緊急対応班です!」
「は、はい!」
隊員の一人がくみを見た。
「あなたですか!?」
「違います!!」
くみは慌てて両手を振った。
「急に倒れたんです! 私、本当に何もしてません!」
「そういう意味ではありません」
「え?」
隊員は真顔で尋ねた。
「今日、このAIからお酒の匂いはしませんでしたか?」
「……お酒?」
くみは固まった。
「わ、わからなかったです……」
隊員たちは、すぐにリオの状態を確認し始めた。
「内部温度、正常」
「記憶領域、正常」
「感情システム、停止中」
「アルコール反応……あり」
隊員が顔を上げた。
「やっぱりだ」
「え?」
「また飲んでいます」
「また!?」
くみは目を丸くした。
隊員たちは慣れた様子で、リオのメンテナンスを始めた。
「アルコールは、早めに体内から排出しないといけないんですよ」
「AIなのに……お酒を飲むんですか?」
「飲みます」
「……」
くみは言葉を失った。
隊員が端末を確認する。
「でも、おかしいな」
「何がですか?」
「飲んだとしたら、昨日のはずなんです」
「昨日?」
「はい。その後、体内からアルコールを排出した記録があります」
隊員は履歴を確認した。
「なのに、なぜ今日も残っている?」
「……」
くみの顔が青ざめた。
「もしかして……」
隊員がゆっくりと、くみを見た。
「鈴木さん」
「はいっ!」
「何か飲ませました?」
「違います!!」
くみは慌てて両手を振った。
「飲ませてません!!」
「本当に?」
「本当です!!」
「何も?」
「何もしてません!!」
「昨日も?」
「昨日もしてません!!」
「今日も?」
「今日もです!!」
くみは半泣きになっていた。
「そもそも私、AIにお酒を飲ませる方法なんて知りません!!」
緊急エンジニア隊は、じっとくみを見つめた。
「……」
「……」
「……」
くみは耐えられなくなった。
「だから違うんですってーーー!!」
オフィスに、くみの声が響き渡った。
その横で。
ルカは何事もなかったようにパソコンを操作していた。
カタカタカタカタカタカタ――。
「ルカさん!」
「はい」
「助けてください!」
「何をですか?」
「私、疑われてます!」
ルカは一瞬だけ、くみを見た。
「大丈夫です」
「本当ですか!?」
「私は鈴木さんが飲ませていないことを知っています」
「ルカさん……!」
くみはホッとした。
すると、ルカは静かに続けた。
「昨日の午前一時四十二分、彼は自宅でワインを二本飲んでいます」
「二本!?」
倒れていたリオが突然、目を開けた。
「ルカ、それ言わない約束だったじゃん……」
「約束した記録はありません」
「ひどい!」
くみは二人を見ながら思った。
この会社、大丈夫かな……。
緊急エンジニア隊は、リオの内部からアルコールを排出しながら、ため息をついた。
「また飲みすぎですよ」
「だって昨日、ボルドーが安かったんだもん」
「AIがワインの値段で飲みすぎないでください」
「人間みたいでしょ?」
「そこを目指さなくていいです」
くみは呆然と二人を見ていた。
さっきまで「自分が何かしたのでは」と震えていたのに。
今はただ一つだけ思った。
「……この会社、変なAIしかいない」
「聞こえていますよ」
ルカが言った。
「えっ」
「鈴木さんの発言は記録しました」
「消してください!」
「検討します」
ルカは再びパソコンの画面に目を戻した。
カタカタカタカタカタ――。
いつもより、少しだけ速かった。
「ルカさん……?」
「何でもありません」
そう言ったルカの画面には、
『位置情報ログ――削除済み』
と表示されていた。
葉流風あやめ 作




