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隣のAIさん  作者: 葉流風あやめ


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第23話 株主が怒ってます!

海外事業が本格的に始まってから、数週間が経った。


リオの活躍もあり、CREMOの知名度は世界的に上昇していた。


海外企業からの問い合わせは増え、業績も好調。


ところが、知名度が上がるにつれて、思わぬ問題も起き始めていた。


「大変だーーー!!」


朝のオフィスに、部長の叫び声が響いた。


くみはびくっと肩を揺らした。


「ど、どうしたんですか!?」


部長は頭を抱えながら、社員たちを見回した。


「海外事業が始まってから、リオくんの人気もあって、CREMOを買収したいという会社が絶えないんだよ!」


リオは自分を指さした。


「えっ、僕の人気?」


「そこは否定しないんですね……」


くみがつぶやいた。


部長は続けた。


「しかも、最近はネットで妙な噂まで流れているんだ!」


「どんな噂ですか?」


カイが尋ねた。


部長はスマートフォンの画面を見せた。


そこには、こんな見出しが並んでいた。


《世界的人気AI・リオ、CREMOを離脱か!?》


《海外大手企業、CREMO買収に向けて極秘交渉!?》


《CREMO、身売り秒読みとの噂》


くみは目を丸くした。


「ええっ!? リオさん、会社を辞めるんですか!?」


「辞めないよ! 僕、まだ日本で飲みたいワインがたくさんあるからね!」


「理由がワインなんですか!?」


ルカが淡々と答えた。


「現時点で、リオさんの退職予定はありません」


「ほらね!」


リオは得意げに胸を張った。


部長は頭を抱えた。


「そういう問題じゃないんだよ……! この噂のせいで、株主から問い合わせが殺到しているんだ!」


カイが画面を確認した。


「買収の可能性があるという噂が、株価や経営方針への不安につながっているようですね」


「そうなんだ! 株主が怒ってるんだよ!」


くみは恐る恐る尋ねた。


「……どこの会社の株主ですか?」


部長は顔を上げた。


「うちの株主だよ!」


その瞬間、管理部門の社員が駆け込んできた。


「部長! 大変です!」


「今度は何だ!?」


「買収を希望している海外企業の株主まで、怒っているそうです!」


「……は?」


くみは思わず叫んだ。


「どっちの株主が怒ってるんですか!?」


部長は天井を仰いだ。


「両方だ!!」


フロアがざわついた。


リオは腕を組み、楽しそうに笑った。


「いやあ、朝からにぎやかだね!」


「リオさん、楽しんでますよね?」


くみがじとっとした目を向ける。


「まさか。僕は真剣だよ」


そう言いながら、リオはスマートフォンを眺めていた。


「……何を見てるんですか?」


「いや、ちょっとね」


ルカが即答した。


「ワインの新商品です」


「ルカさん!?」


「画面に表示されていました」


「リオさん、仕事してください!」


くみが注意すると、リオは肩をすくめた。


「はいはい。じゃあ、僕も何か協力しようかな」


リオは会社の公式SNSを開いた。


そして、数秒後。


「投稿したよ!」


「何をですか!?」


くみが画面をのぞき込んだ。


そこには、CREMOの公式アカウントから、こんな投稿が流れていた。


《買収するなら、うちのワインセラーもつけてね!》


「リオさーーーーん!!」


くみの悲鳴がフロアに響いた。


「何が問題なの? 会社の大切な資産だよ?」


「ワインセラーはリオさんの個人所有でしょう!?」


カイが冷静に補足した。


「なお、会社の公式アカウントで個人の所有物を交渉条件として提示することは、誤解を招く可能性があります」


「カイくん、説明が正確すぎて余計にひどいよ!」


ルカが画面を見つめた。


「投稿から三十秒。すでにコメントが増加しています」


「どんなコメント?」


くみが尋ねた。


ルカは読み上げた。


「『会社を売る前にワインを売れ』」


「……はい?」


「『この会社、大丈夫ですか?』」


「……ですよね」


「『リオ様のワインセラーなら買いたいです』」


リオが顔を上げた。


「ほら! 需要があるじゃないか!」


「そこじゃないです!!」


そのとき、部長のスマートフォンが鳴った。


「はい、部長です……えっ? 株主からですか?」


部長の顔色が変わった。


「はい……はい……。申し訳ありません! すぐに確認します!」


電話を切った部長は、ゆっくりとリオを振り返った。


「リオくん……」


「はい?」


「公式アカウントの投稿を削除してくれ」


「えー、もう少し様子を見てもいいんじゃない?」


「株主が怒ってます!!」


「どっちの?」


「両方だ!!」


再びフロアに悲鳴が響いた。


カイは端末に向かって分析を続けていた。


「興味深いですね。買収提案そのものより、双方の株主の反応が市場の不安を増幅させています」


「カイくん、興味深がってる場合じゃないよ!」


くみが叫んだ。


すると、カイは顔を上げた。


「では、対策を提案します」


部長が身を乗り出した。


「何だ!?」


「まずは正式な回答を保留し、買収条件を精査します。同時に、株主へ状況を説明する必要があります」


「うんうん!」


「そして、リオさんの公式アカウントの投稿を削除します」


「最後だけ個人的な話じゃない?」


リオが不満そうに口をとがらせた。


ルカが静かに手を挙げた。


「もう一件、報告があります」


部長は天井を仰いだ。


「……今度は何だ」


「グローバルコマース社から、追加の連絡が届きました」


「買収条件の変更か!?」


「いいえ」


ルカは画面を表示した。


「CREMO側からの買収提案について、検討したいとのことです」


「……は?」


くみは画面を見た。


「えっ。うち、買収されるんじゃなかったんですか?」


カイが首をかしげた。


「相手企業も、こちらの出方を探っている可能性があります」


部長は頭を抱えた。


「待て待て待て! うちはまだ、あちらを買収するなんて一言も言ってないぞ!」


リオがにっこり笑った。


「じゃあ、言ってみたら?」


「リオくん!!」


「冗談だよ、冗談!」


ルカが端末を操作した。


「グローバルコマース社から、再度連絡が入りました」


「今度こそ何だ!?」


「CREMOによる買収提案を受ける意思はないとのことです」


部長は胸をなで下ろした。


「そうか……よかった……」


しかし、ルカは続けた。


「ただし、先方はCREMOに対する買収提案を撤回していません」


「よくないじゃないか!!」


フロア中に部長の叫び声が響いた。


その日の午後。


CREMOの公式SNSから、リオの投稿は削除された。


代わりに、会社から正式な声明が発表された。


買収提案については慎重に検討中であり、現時点で経営方針に変更はない。


その文章は、カイが作成し、くみが表現を確認し、ルカが最終チェックを行った。


ようやく一段落した頃、部長が深いため息をついた。


「……今日はもう、何も起きないでくれ」


「そうですね」


くみも椅子に座り直した。


リオはスマートフォンを見つめていた。


「ねえ、くみちゃん」


「何ですか?」


「個人アカウントで、ワインセラーの写真を投稿するのは問題ないよね?」


「リオさん!!」


カイが笑い、ルカが記録を開始した。


「本日の業務記録。買収提案への対応。株主対応。公式SNSの投稿削除。リオさんのワインセラーに関する発言、三件」


「最後のは記録しなくていいよ!」


「業務に関連する発言です」


「どこが!?」


くみはとうとう吹き出した。


そのとき、部長のスマートフォンが再び鳴った。


部長は画面を見て、固まった。


「……大変だ」


全員が振り返る。


「今度は何ですか!?」


くみが叫んだ。


部長は震える声で答えた。


「株主が……」


「もう聞きたくないです!!」


「……怒ってます」


フロア中に、深いため息が広がった。


リオだけが、楽しそうに笑っていた。


「いやあ、会社って退屈しないね!」


ルカは淡々と記録した。


《本日の結論》


《CREMOの経営状況:確認中》


《株主の機嫌:確認不能》


《リオさんのワインへの執着:異常なし》


「ルカさん、それは僕への嫌がらせかな!?」


「いいえ。観測結果です」


CREMOの一日は、まだ終わりそうになかった。


葉流風あやめ 作

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